クズ王子は、衝撃の情報を耳にする
それから、話はとんとん拍子に進んでいった。
アウグスタがルイーズに手紙を書き、面会できないかと送る。
かつてのアウグスタとルイーズは、犬猿の仲だった。互いに頬を叩き、キャットファイトもしている。
アウグスタは「もしかしたら、お断りされてしまうかも……」と弱気だったものの、翌日には面会に応じるという返信が届いた。
詳しい事情を知らない聖女マナは、公爵邸で待機してもらう。自分も行きたいと文句を言っていたが、公爵邸の料理人が作った菓子の数々を見せると大人しくなった。
ひとまず、ルイーズには私が生きていることは隠して、カイのみ生存していた情報だけ伝えるらしい。
そんな込み入った話をするため、聖女マナは留守番をしてもらうのだ。
「では、行こうか!」
意気揚々と立ち上がったものの、カイは申し訳なさそうに言った。
「あの、リスも残っていただけますか?」
「私も置いてけぼりなのか!?」
「あとは――」
カイはちらりとメルヴ・イミテーションのほうを見る。テーブルにある花瓶に活けられていたが、注目が集まったので照れているようだった。
どうしてかと聞こうとしたら、カイの前にアウグスタが歩みでる。彼女を守るように、私が留守番する理由について教えてくれた。
「カイリがルイーズ様と秘密の話をしたいようなので、席を外していただけると助かります」
「……そうか」
秘密というのは、カイが本当は女性だという件についてだろう。
もしや、アウグスタもカイの秘密について知っているのか?
確認するべきタイミングは今ではないので、頭の隅においやっておく。
「では、行ってまいります」
「お昼寝でもしている間に、行って帰ってきますので」
「わかった」
聖女マナのために用意された大量の菓子を見ているだけで、胃がもたれそうだ。
黒ねずみの姿のまま、生クリームがたっぷり絞られたケーキを、嬉しそうに頬張っている。
「ゲームの中だと、何を食べても太らないから、たくさん食べちゃおーっと」
「……」
非常に言いにくいのだが、ここは仮想空間ではなく現実世界である。
食べた菓子は、聖女マナの血となり肉となるだろう。
そんなことはさておいて。
「お前は、元の世界に戻れないなんて、怖くないのか?」
「怖いよ。でも、ずーっと不安になっているより、いったん忘れてこの状況を楽しんだほうがいいかなって思っているの」
そういう考えは、若さ故なのか。私にはとても真似できない。
何者かに狙われてからというもの、不安な毎日を過ごしてきた。
この先も怯えて暮らしたくない。だから今、犯人捜しをしているのだが。
「たぶん、このゲームに交替でダイブしているデバッカーが、不具合を発見して修正してくれると思うんだよね。私が戻らないから、お兄ちゃんか弟が通報しているはずだし」
なんでも少し前に、違うゲームでログアウトできない不具合が起こり、大きな騒ぎとなったらしい。
「閉じ込められた人、ゲーム会社から賠償金とレア装備とレアアイテムを貰って、さらに月額料金も無料、チートキャラを作成できるクーポンとかも進呈されたみたいで、ちょっと羨ましかったんだよね。このゲーム会社は、何をくれるんだろう?」
能天気な……と思ったものの、このような話をして不安を紛らわせているのかもしれない。彼女にとって、私は生きている人間とは思っていない。ただのゲームのキャラクターだと認識している。だからここの者達が理解できないような言葉を、どんどん喋っているのだろう。
「ねえ、このケーキ、おいしいよ! 食べてみて」
正直、見ているだけでお腹いっぱいなのだが、なんとなく食べてやろうという気になった。
カトラリーは用意されていたものの、手づかみでケーキを頬張る。
「うむ、うまいな」
「でっしょー?」
おいしいという気持ちを、聖女マナと共有した。
この瞬間を、覚えていてほしい。
ここはゲームの世界ではなく、血が通った人々が生きる〝世界〟であることを。
◇◇◇
三時間後――アウグスタとカイが戻ってきた。
私とメルヴ・イミテーションだけ別室に呼ばれ、話を聞く。
いったい何があったというのか。
アウグスタは顔色を青くさせながら、成果について報告する。
「結論を言わせていただくと、ルイーズ様の協力を得られることとなりました」
「そうか。よかった……のか?」
カイは顔を俯かせ、拳を強く握っているように思える。
「何か、よくない話でも聞いたのか?」
私の問いかけに、カイが顔を上げる。震える声で、ルイーズから聞いた情報を口にした。
「クリストハルト殿下が生きている、という噂が流れ、見つけ次第殺すように、という依頼が出回っているそうです」




