クズ王子は、自らの葬儀に参加する
大聖堂で私の葬儀が執り行われる。アウグスタと共に、参列した。黒衣に身を包み、顔はベールで覆われているので、私の顔は確認できないようになっている。
そもそも、皆同じような喪服を着ているので、誰が誰だかわからない状態であった。
大聖堂には国王陛下と王妃殿下の姿はなかった。双方、起き上がるのも困難な状況だという話を、耳にしてしまった。
最後にフェリクスが現れる。黒いタイを締めた、魔法学校の正装姿であった。
その足取りは堂々としていて、私の死を悲しんでいるようには見えない。
――フェリクス、本当に、お前は私の死を望んでいたのか?
今すぐ駆け寄って問いかけたい。けれどもそんなことをしてしまったら、これまでの努力が水の泡となってしまう。
ここは、傍観するしかないと自らに言い聞かせた。
葬儀が終わると、偽装した私の遺体が入った棺が運ばれていく。
そのまま漆黒の馬車に乗せられ、王族があとに続く。その中に、ゴッガルドの姿があった。彼は瞼を腫らし、目も赤くなっている。どうやら、ゴッガルドは私の死を悼んでくれているようだった。
罪悪感が胸にこみ上げてくる。私は生きているから悲しむなと、声をかけたかった。
もちろん、これもぐっと堪えた。
そうこうしているうちに、葬列が始まった。
曇天の中、馬車は街中に辿り着く。喪服の人々が、私の死に追悼していた。
悲しみに包まれながら、私の遺体は土の中へと埋められる。
私の死は、しっかり見届けられた。
けれども、それで終わりではない。
いったい誰が私を殺そうと画策したのか。暴かないと気が済まなかった。
◇◇◇
翌日――さっそく王宮へ潜入する。
アウグスタは王宮への出入りを許可されているため、自由に行き来できるのだ。
私とカイは目立たないメイドのエプロンドレスをまとう。
メルヴ・イミテーションは鉢から花瓶へ生けた。アウグスタはこれで問題ないと言っていたが、果たして本当なのか。ドキドキしながら王宮へ辿り着くと、花瓶を持って移動するメイドの姿を何人も確認できた。部屋を彩る花は、王宮になくてはならないものらしい。
その辺の事情を、アウグスタは把握していたのだろう。おかげで、花瓶に生けられたメルヴ・イミテーションを連れていても、誰も不審に思わなかった。
黒ねずみの姿となった聖女マナは、カイのエプロンポケットに収まっている。物珍しそうに、キョロキョロと辺りを見回していた。
先頭を歩くアウグスタは、堂々としたものだった。
騎士達はアウグスタの姿を見るなり、恭しく頭を下げている。私の元婚約者だったので、いろいろと心情を察してくれたのかもしれない。
辿り着いた先は、瀟洒な雰囲気の小部屋であった。ここは王宮内にアウグスタに与えられた部屋らしい。婚約を取りやめたあとは部屋の鍵を国王陛下へ返そうとしたようだが、そのまま持っておくようにと言われていたようだ。
ここでアウグスタは思いがけないことを宣言する。
「これから、フェリクスのもとへと向かいます」
ドクン! と胸が跳ねた。
私が死に、聖女マナが行方不明となった今、フェリクスはどういう行動にでるのか。もっとも気になっていたことかもしれない。
そもそもアウグスタへの愛も、本当か嘘かわからない状態である。
「その、アウグスタ。言いにくいのだが、フェリクスはお前の恋心をも利用していた可能性もあるのだが」
「覚悟はしております」
私達の会話を耳にした聖女マナが、ポケットから顔を覗かせて物申す。
「あ、やっぱりフェリクス様ってそういう腹黒いところあります?」
なんでも聖女マナといるときも、そのような片鱗があったらしい。
「フェリクス様、なんかこれまでのゲームと違って、悪役っぽいダークな雰囲気を漂わせているときがあったんだよねー」
「あなた、それに気づいておりながら、フェリクスと一緒にいましたの?」
「うん。そういう腹黒キャラが真実の愛に目覚める瞬間って、萌えるじゃない? 正直、本編のフェリクス様は甘いだけのキャラクターで、それはそれでよかったんだけれど、今回の隠しルートみたいに意外な一面をちらつかせるのも、たまらないなって」
「わたくし、あなたがおっしゃっていることが欠片もわからないのですが」
アウグスタが助けを求めるようにこちらを見たので、「大丈夫。私もさっぱりだ」と言っておく。
「何はともあれ、一度フェリクスと接触して、反応を探りましょう」
アウグスタの言葉に、皆揃って頷いた。




