クズ王子は、服を着替える
「じゃあ、これは最後の仕上げね」
ドロテーアが取り出したのは、金の指輪だった。それは以前、私が彼女に収納魔法がかかった鞄と引き換えに渡したものだったが――。
「それがどうした?」
「これ、王太子の身分を示す、魔法がかかった指輪だったの」
「そ、そうだったのか!?」
なんでもやすり紙で削っても傷付けられず、火で炙っても溶けないようになっているらしい。
「追跡魔法もかかっていたんだけれど、それは大森林にいたときに機能を消しておいたわ」
つまり、ただの身分を証明する指輪ではなかったというわけだ。追跡魔法は私が行方不明となったさい、すぐに見つけられるようにかけていたのだろう。
「この指輪を偽装死体に嵌めておいたら、すぐにあなただと気づいてもらえるはず」
「なるほど」
金の指輪と収納魔法がかかった鞄の取り引きは、ドロテーアとの間で秘密裏に行われた。
ゴッガルドが途中、お花摘みに行ったときにこっそり行ったため、バレていないだろう。
「よし。これでより本物に近づいたわね」
「ドロテーアよ、感謝する」
これで終わりかと思いきや、そうではなかった。
「まだ残っているわ」
「ん、なんだ?」
「服よ、服。脱いでちょうだい」
全裸のままでは不審がられてしまう。そのため、これまで着ていた服を脱いで、死体に着せなければならないようだ。
ジュエルベリー採りに着て行ったのは、魔法学校の制服でなく私服だ。
「魔法学校の制服だったら、魔法で探し当てられていた可能性があるな」
「ええ。よかったわね」
着替えとして差し出されたのは、男性物の服一式であった。
「これは?」
「過去の同棲していた恋人が忘れていった服よ」
「これを、私が着てもいいのか?」
「ええ。別に、捨てようか迷っていたものだから、ご自由に」
「すまない」
メルヴ・イミテーションと共に別室に行き、着替える。
捨てようか迷っていたということは、いささか未練でもあったのか。
まあ、どうでもいいか。
シャツにベスト、ジャケットにズボンという、なかなか仕立てのいい服だった。
着替えたあと、部屋に戻る。
「あら、ぴったりじゃない」
「ああ。その、助かった」
ここでふと、カイがいつの間にか鎧を脱いでいたことに気づく。
しかも、これまで着ていた服ではなく、見たことのない詰め襟の上着にズボンを合わせていた。この服も、ドロテーアの恋人が置いていったものなのか。尋ねると、そうだという。
「カイ、鎧は作業の邪魔だったのか?」
「いいえ」
「鎧はこっちよ」
大きな長方形の箱に、布がかけてあった。ドロテーアはそれを引っ張って取り払った。
「こ、これは……!」
布の下には、ガラスの棺に収められた板金鎧が横たわっていた。
ドロテーアは兜の目びさし部分を外す。すると、瞼を閉じたカイがいた。
「カイの死体も作ったのか?」
「当たり前でしょう? あなたの死体だけ発見されて、カイの死体がなかったら、犯人扱いされるでしょうが」
「そ、そうだった。私は、自分のことしか考えていなかったようだ」
カイのほうを向き、深々と頭を下げる。
「カイ、すまなかった」
「どうかお気になさらずに。クリストハルト殿下はご自身のことだけを考えていてください」
「いや、私はこれから、カイのことを自分のことのように考えたいのだ」
「そんな……。私には、とてももったいないことでございます」
「カイについて考えるか否か、決めるのは私だ。だから、カイがどうこうと言う資格はない」
「そ、それはそうかもしれませんが」
ここでドロテーアが手を叩き、「そこ、いちゃいちゃしない!」と注意された。
「すまない、つい、カイといちゃいちゃしてしまった」
「クリストハルト殿下、いちゃいちゃの意味をわかっているのですか?」
「いちゃいちゃくらい、私も理解している!」
そんな話はさておいて。
これから偽装した死体を転移魔法で現場に飛ばすらしい。
森の地図が広げられ、どの辺りかと質問された。
「二時間以上は歩いていたような気がする。ジュエルベリーは湿った場所に自生するというので、ここらへんの湖がある辺りを目指していたのではないだろうか?」
「なるほどね」
ドロテーアは魔法陣を描き、カイと私の死体を並べ、転移魔法の魔法巻物を並べていく。
「じゃあ、火事の森に飛ばすわよ」
「ああ、頼む」
ドロテーアが魔法巻物を一枚一枚破っていく。最後の一枚を破った瞬間、死体は光に包まれ、そして姿を消した。
これで、私とカイの死を装った。
あとはいい感じに発見されるのを祈るばかりだ。




