クズ王子は、使い魔について語る
使い魔――それは魔法使いの手足となって動く生き物をそう呼ぶ。
魔力などの対価を渡して契約を交わすのだ。
魔法学校でも、授業で使い魔を召喚する授業があった。それは長期間に及ぶ契約ではなく、五分、十分ほどの契約を交わすものである。
召喚する生き物も決まっていて、王都郊外の森に住む〝穴ぐらネズミ〟を呼び出す授業だった。
ただ、召喚魔法と相性が悪かったのか、なんど呪文を唱えても穴ぐらネズミは現れなかったのだ。当然ながら、そのときの授業は補習となり、レポートを提出するはめになった。以降、二度と召喚魔法の授業は取るものかと心に誓った。
その翌年は、夏休みに魔法学校の生徒全員に魔法生物の卵が配布された。
魔法生物というのは、人工的に造られた精霊や妖精である。寿命は数時間から一ヶ月ほどで、本物にはかなり劣るものの、ちょっとした魔法であれば使える。
卵に魔力を付与させたら十日から二十日後に孵化するのだが、私の卵は夏休みが終わっても孵らなかった。レポートを読んだ教師曰く、「付与魔法が絶望的に下手」だという。
そんなわけで、使い魔を呼ぶ才能は皆無で、これまで一度も使役しようとは考えていなかった。
ただ、先日魔女ドロテーアが使い魔を使役している様子を間近で見て、考えを改めたのだ。
強力な使い魔を得たら、身を守ってもらえる。常に傍に置くことも可能で、就寝時や風呂の時間など、ひとりでいるときの急な暗殺に備えることもできるだろう。
使い魔の契約について調べたところ、別に召喚魔法で呼ぶことがすべてではないとわかった。森に赴き、直接幻獣や妖精、精霊に交渉を持ちかけるのだ。
「竜などの強力な存在との契約は難しいだろうが、鷹獅子や、鷲翼馬、翼竜みたいな、大型の使い魔を使役したい」
『はー、なるほど! しかし、その辺の幻獣は、多くの対価を必要としそうですねえ』
もとより、誰でも呼び出せると言われている穴ぐらネズミでさえ召喚できなかった。何かしら、魔力の質に問題があるのだろうというのは、教師の見解である。そのため、自分の魔力を対価にしようとは考えていなかった。
「対価はこれだ」
『お、おお……!』
それは、ダイヤモンドやエメラルド、ルビーなどの裸石である。
将来私の妃となる女性の首飾りや耳飾りなどを作るために、国王陛下が買い集めていた品々であった。
神獣ラクーンは瞳を輝かせながら、裸石を見つめている。
『いやはや、美しいですねえ』
「だろう?」
宝石には多くの魔力が含まれている。その量は、そこらにある魔石とは比べものにならない。
『しかし、使い魔の契約に、これらの品々を使ってもいいのですか?』
「……」
終わってしまった世界の記憶が甦る。これまで、これらの裸石はさんざんな扱いを受けていた。
ルイーズが勝手に売り飛ばしていたり、聖女マナはその価値を知らずに教会へ寄付したり、浮気に怒ったアウグスタがすべて湖に沈めてしまったり、侵略してきた帝国軍に根こそぎ奪われたり、臣下に盗まれたりと、まともな使われ方をしていなかったのだ。
「一度くらい、自分のために使ってもいいだろう」
『それもそうですね。ただ、対価は魔力だけとは限らないのですよ』
「他に何があるんだ?」
『たとえば、春先に森の奥地に自生する、〝ジュエルベリー〟とか』
なんでも、宝石のように美しいイチゴらしい。表面が石のように硬く、人は食べられないという。長期保存が可能で、主に獣系の幻獣が好んでいるようだ。
「ならば、まずはジュエルベリーを森に採りに行かなければならないな」
『そうですねえ。あ、場所を知っていますので、案内しましょうか?』
「いいのか?」
『もちろんです! たまには、お役に立たせてください!』
「では、頼む」
そんなわけで、授業がない日を見計らい、カイと神獣ラクーン、護衛の騎士らを連れて森へジュエルベリー採りへ向かった。
カイは板金鎧姿だった。魔物が出る可能性があるため、私もプリンセス・ラブリー・ロッドを握って森に挑む。
「クリストハルト殿下、その杖は、まだお持ちだったのですね」
「ゴッガルドに返そうとしたのだが、私に預かっていてほしいと聞かないものでな」
「そうだったのですね」
妙に手に馴染んでいるので、引き続き武器として使わせていただく。
「神獣ラクーンよ。ジュエルベリーはどのような見た目なのだ?」
『輝きや色合いはルビーに似ております。見た目は、フランボワーズみたいな感じですね』
「なるほど、わかった」
春から初夏にかけてが旬で、湿った場所によく自生しているという。
さっそく、調査開始である。
「クリストハルト殿下、この辺りは魔物が出ますので、どうかご注意ください」
「ああ、わかった」
大森林より強力な魔物は出ないだろうが、注意をしておくに越したことはない。驕らず、慎重に進んでいきたい。
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