クズ王子は、武器を手にする
「いいのか? 貴重な品なのだろう?」
「ええ、どうぞ。クリストハルト君、媒質具を持っていないでしょう?」
「そうだが、私に使いこなせるものなのか」
媒質具――それは杖や魔導書など、魔法を使うための補助的な役割がある道具だ。
魔法学校に入学する前に適性検査を行い、相性のよい媒質具を持ち歩く。
私もどの媒質具が使いやすいか調べたものの、どれも適性なしだったのだ。
適性がないと、逆に魔法の効果を相殺してしまう。何も持たないで魔法を使ったほうがよいと、検査官は話していた。
入学当初の私は、カッコイイ杖や魔導書、指輪などを装備する同級生が羨ましかった。そういうのに憧れる年頃だったのだ。
学年を重ねてみると、媒質具などどうでもよくなっていた。
そんな話はさておいて。
「これ、打撃系の武器でもあるの。杖の適性がなくても、使えるはず」
「打撃系の武器だと? 魔物でも殴ったら、ちりばめられた宝石が散ってしまいそうだ」
「それが大丈夫なの。魔法の力で填め込まれているから、魔物を殴っても壊れないのよ」
「そうか」
差し出されるがまま、ゴッガルドのプリンセス・ラブリー・ロッドを握る。
初めてなのに、信じがたいほど手に馴染む。また、重さも感じなかった。
「なぜ、これは軽いのだ!」
「すごいわ! それは、適性バッチリってことなのよ」
ちなみに、ゴッガルドが手にした場合は、けっこうな重さがあるという。
「たぶん、クリストハルト君ひとり分くらいの重さくらいはあるんじゃないかしら?」
「そうか……って、なぜそのように重い武器を持ち歩いていたのだ?」
「こういうこともあると思って」
「有事に備えすぎだろうが!」
と、ゴッガルドと話をしている場合ではなかった。一刻も早く、世界樹の葉を持ち帰らなければならない。
気合いを入れたところで、ドロテーアが私に向かってちゃちゃを入れてくる。
「ねえ、その媒質具、持ち歩くの恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいに決まっているだろうが!」
女性が夜会で身に着ける装身具よりも派手な杖である。どの角度から見ても眩しくて、目が潰れそうだった。ただ、恥ずかしさよりも自分に適性がある媒質具があったことが、嬉しかったのかもしれない。それに、上級魔法が付与されているというのもポイントが高い。
「そういえばゴッガルド、〝メテオ・スター〟はどうやって使うのだ?」
「簡単よ。プリンセス・ラブリー・ロッドをくるくる回しながら、呪文を唱えるだけなの」
ゴッガルドがモーニングスターを使って実演してくれるという。
「いくわよ。よーく見ていて」
ゴッガルドはモーニングスターの中心部を握り、円を描くようにくるくる回した。そして、呪文を叫ぶ。
「キラキラのお星様、あたしの願いを叶えて! 〝プリンセス・ラブリー・ショット〟!」
呪文を叫ぶタイミングで杖は前に突き出し、片方の手は胸に添えるらしい。
「そんな恥ずかしい魔法、この私が使えるか!!」
「大丈夫よ。戦闘のときは、誰も見ていないから」
「そうだとしても、私には耐えがたいものだ。恥ずかしいにもほどがある!」
「成人男性がやるのはキツイけれど、クリストハルト君はまだ可愛いから」
「可愛い!? 私がか!?」
「ええ、可愛いわよねえ、カイ?」
突然話を振られたカイは、びくりと板金鎧を揺らす。自分は蚊帳の外だと思っていたのだろう。
「カイも可愛いと思うでしょう?」
「その、なんと言いますか、王族の、特に王太子殿下に個人的な感情を抱くなど、許されるものではありません」
「そうなの? でも今はあたしが許すわ。クリストハルト君は、可愛いわよね?」
ゴッガルドからの圧を感じたのだろう。カイはわずかにコクリと頷いた。
「やっぱり! そんなわけだから、安心して〝メテオ・スター〟を使ってちょうだい」
「私が使わなくてもいいように、しっかり戦ってくれ」
「もちろん、そのつもりよ!」
今度こそ、大森林の内部へと進む。扉の取っ手を握ると呪文が煌々と光った。あっさりと、開かれる。
扉の向こうは、圧倒的な緑の世界。
天を衝くように生える木々は、なかなか見られるものではないだろう。
ゴッガルドの背丈よりも大きなキノコや、ナイフのように鋭く生えた雑草、蜜をだらだら垂れ流す樹など、珍しい植物がここぞとばかりに自生していた。
「ここが、大森林か……!」