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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
第四章 行動――味方を探す

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39/90

クズ王子は、聖獣に回復魔法を施す

 アウグスタは聖獣と離れで暮らしていたらしい。魔法学校は王族であっても寮生活が基本だが、彼女だけは聖獣の世話もあるからと、帰宅を許可されていた。

 離れといっても、十分立派な佇まいで、中には多くの使用人達が働いているようだ。離れの主人であるアウグスタが抱きかかえられて運ばれたともなれば大騒ぎである。アウグスタは馬車から下りたあと、自分で歩けると宣言し、帰宅を遂げた。


 聖獣は地下にいるという。事情を知らない侍女は「お茶でも」と言ったが、それを断ってまっすぐに地下へと向かった。


「アウグスタ、聖獣はいつも地下にいるのか?」

「いいえ、普段は一緒の部屋で過ごしております」


 なんでも月明かりが差し込むと、途端に苦しむらしい。

 月は巨大な魔石と言われている。月明かりが地上に差し込むことにより、この世界に魔力が溢れるのだ。

 それを拒絶しているとなれば、生命活動に関わる。この世界に生きる者は、魔力によって生かされているから。


「月明かりを拒絶するなんて、思っていた以上に重症だわ」

「ええ……」


 薄暗い地下へ繋がる階段を下りていく。

 食料品の保存を目的に作られた地下室のようで、魔法で空気の入れ替えも行われているようだ。通常の地下で感じる空気の薄さや、かび臭さは感じない。


 聖獣は突き当たりにある部屋に横たわっていた。周囲には国が派遣したであろう魔法使い達が集まっている。


 聖獣グリフォン――上半身は白鷹、下半身は獅子という姿をしていた。

 宗教画に描かれる、神聖な姿である。

 鋭い目付きが特徴だというが、今は閉ざされていた。どこか苦しそうに、嘴からゼーハーと呼吸が繰り返されているようだ。


 そんな聖獣を囲むのは、国家魔法使いに聖教会の司祭、それから国内でも有名な魔女までいた。

 おそらく聖獣が回復した場合、名声を独り占めさせないよう、さまざまな組織から優秀な回復魔法の遣い手が呼ばれたのだろう。

 その中のひとりに、ゴッガルドが見覚えがあるようだ。

 灰色の頭巾を深く被った女性に、嬉しそうに話しかける。


「あら、ドロテーアじゃない」

「あなたは、ゴッガルド!!」


 ドロテーア! 思い出した。

 私はこいつのせいで、辺境にある沼地へ視察に行かなければいけなくなった。ドロテーアが嫌がらせをする地元住人に仕返しするために、勝手に沼地を広げたのだ。

 その結果、カイが沼地の魔物に引きずりこまれて死んでしまった。忌々しい記憶だ。

 魔女は古くより、魔人の手先として恐れられている。

 ドロテーアは恵まれない者達にコツコツ魔法薬を作りつつ質素に暮らす善き魔女であったものの、過去の先入観から悪しき魔女と糾弾されていたのだ。


 始めは王都でこぢんまりと商売をしていたという。ドロテーアの薬は貴族達の間で評判となっていたものの、国家魔法使いらと諍いを起こし、国の辺境にある沼地の森へと追い立てられた、などという話を耳にした記憶が甦ってきた。


 今はきっと、王都で商売しているのだろう。

 そんなドロテーアは、ゴッガルドの神学校時代の同窓生だったらしい。


「あたし達、仲がよかったのよ」

「そんなわけないでしょう! 私はあなたのせいで万年次席だった! あなたさえいなければと、年がら年中思っていたわ」

「まあ。一年中、考えてくれていたなんて……。あたしって、罪な男ね」

「うるさい!!」


 お喋りはこれくらいにして。聖獣の状態について話を聞く。

 ゴッガルドの問いかけに、六十代くらいの聖教会の司祭が答える。


「魔力を失い続けておりまして、このままだと一ヶ月はもたないでしょう」

「ああっ、なんてこと!」


 アウグスタは目眩を覚えたのか、ふらついた。倒れそうになったものの、傍にいたカイが力強く支える。


「まず、あたしが回復魔法を試してみるわ」


 すると、司祭がパッと表情を明るくさせる。


「神学校でも一、二を争うような回復魔法の遣い手であるフレーミヒ卿に聖獣の治療を施していただけるとは……!」

「効果ない可能性が高いけれど」


 目を閉じておくように言われる。最大出力で試してみるらしい。

 瞼を閉じたのと同時に、回復魔法が展開されたようだ。目を閉じているのに、眩い光が放たれているのを瞼の裏で感じていた。


「――やっぱりダメだわ」


 瞼を開く。聖獣は先ほどと変わらない姿で横たわっていた。どこにも変化は見られない。


「では、次は私だな」


 司祭が私を見て、訝しげな視線を向ける。すかさず、ゴッガルドが耳打ちしていた。すると、ハッと目を見開く。私について紹介してくれたのだろう。


「おお……! あなた様は回復魔法の遣い手なのですね! 王家直系ではもう、長いこと出ていなかったようですが」

「まあ、な」


 どうやら、神学校の授業で王族が引き継ぐ回復魔法についての歴史を習うらしい。

 まさか、王妃の不貞によって直系の血が途絶えていることなど夢にも思っていないだろう。

 そんなことはどうでもいい。聖獣に回復魔法を施さなくては。

 膝を突き、集中力を高める。そして、呪文を呟いた。


祝福よベネデッタ、不調の因果を癒やしませ」


 魔法陣が浮かび上がり、強い光を放つ。通常であれば魔法陣が浸透し、効果を発揮する。

 だが、聖獣は魔法陣を弾いた。


「やはり、ダメか……」

「ずっとこの調子でして」


 これほどはっきりと回復魔法を受け付けないとは。先ほどゴッガルドは精神系のダメージに回復魔法は効果がないと話していた。

 聖獣の弱体化が復讐を命じたことによる精神汚染が原因であるとしたら、回復魔法は効果はないだろう。


「いったい、どうすれば――」


 その呟きに、意外な方向から返答があった。


「世界樹に相談してみてはどう?」


 声の主はドロテーアであった。

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