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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
第三章 危機――原因はなんなのか

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クズ王子は、護衛騎士の奮闘を見守る

 このまま進んでも、取り巻きという壁に阻まれてしまうだろう。

 カイ、止まれ! 今日は分が悪い。

 必死に目線で訴えたが、カイが気づくわけもなく……。

 神獣ラクーンは両手で目を隠し、これから起こるであろう事故から視線を逸らしていた。私は見守らなくてはならない。カイが女子生徒の集団に突っ込み、顰蹙ひんしゅくを買う恐怖の現場を。

 もしものときは、惑わし眼鏡を外した状態で謝罪しなければならない。

 私が考えた計画だ。責任は私にある。


 手に汗を握りながら、カイの挙動を見守る。

 ぶつかる――! と思った瞬間、カイはまさかの行動に出る。

 取り巻きをひとり、またひとりと避け続け、ルイーズのもとへと辿り着いてしまった。

 そして、常人ならば見えない速度で、肩を軽くぽんと叩いた。

 結局、練習ではいくら気を付けても上手くぶつかれず、私が痛いと涙するばかりだった。

 最終的にぶつからずに手で軽く叩くのはどうかと、神獣ラクーンが提案してくれた。それならば、軽くぶつかった程度の威力を出せたのだ。


 そんなわけで、カイはルイーズとの接触に成功した。

 強くもなく、弱くもなく、いい感じのぶつかり具合だったように思える。

 身体のバランスを崩したルイーズを、カイは力強く受け止めた。

 カイはぐぐっとルイーズに接近し、話しかける。


「――っ、すみません、お嬢様」

「い、いいえ」

「ケガはありませんか?」

「と、特に、ないけれど」


 ルイーズの頬がほんのり赤く染まっていく。これまで見たことがない、初心な表情である。あの高慢で我が儘、我が道を行くルイーズを照れさせるとは、さすがカイの美貌だ。ぶつかってきたという行為が、顔面のよさで帳消しになっている。


「こんなに細く、かよわい女性にぶつかってしまうなんて、申し訳ないです」

「細い? か弱い?」

「ええ。まるで、白百合のように清純で、可憐な女性です」

「か、可憐だなんて!」


 年齢の割に色気があり、大人っぽいタイプのルイーズは、年若い娘に当てはまる清純だの可憐だのいう言葉は当てはまらない。あれはカイが考えた、この場限りの巧言だ。

 作戦の確実な成功を狙うため、カイとふたりで貴婦人に人気の恋愛劇を観にいったのだ。その中に登場する貴公子が、今日のカイみたいに甘い言葉をぽんぽん吐いていたのである。

 あんな男、現実にいてたまるかと思ったものの、実行するカイは女性陣から熱い眼差しを受けていた。


「ぶつかってしまったお詫びに、放課後にサロンカフェ〝クライノート〟でお茶でも奢らせてくれませんか?」

「サロンカフェ〝クライノート〟ですって!?」

「ええ。あなた様のような女性にふさわしい、静かで洗練された喫茶店なのですが」

「もちろん、ご一緒するわ!」

「ありがとうございます。これで、あなた様という可憐な人にぶつかってしまった罪悪感に、襲われずに済むでしょう」


 カイはうっとりした表情で、ルイーズを見つめる。普段、無表情であることが多い彼女だが、意外や意外、芝居がたいそう上手い。舞台俳優にでもなったら、スターに登りつめること間違いなしだろう。


「あの、あなた、名前は?」

「私は――カイ・フォン・ヴァルヒヘルトと申します」

「ヴァルヒヘルトって、モンペリアル伯爵家の?」

「ええ、そうです。よくご存じですね」


 ちょうど、入学式前に容姿を反転するイヤリングを装着していたため、ルイーズは初めてカイを目にしたのだろう。

 そのおかげで、印象的な出会いになったに違いない。


「カイ・フォン・ヴァルヒヘルト……もしかしてあなたって、クリストハルト王太子殿下の護衛騎士なの?」

「ええ、そうです」

「クリストハルト王太子殿下はどちらにいらっしゃるの? 入学してから、一度も観ていないのだけれど」

「クリストハルト殿下は出席なさっております。お忙しい御身なので、お見かけする機会がなかったのでしょう」

「放課後、クリストハルト王太子殿下はいらっしゃるの?」

「いいえ、私ひとりです」


 なんだか怪しい雰囲気になってきた。ルイーズは現実的なところがあるので、カイがモンペリアル伯爵家の三男だと知ったらさらに興味をなくすだろう。早めに撤退したほうがいい。


「カイ、行くぞ!!」


 私の声に、カイだけ反応する。惑わし眼鏡をかけているので、ルイーズが私に気づくことはない。


「それではルイーズ嬢、放課後、楽しみにしていますね」

「え、ええ」

「教室に、迎えに行きますので」

「わかったわ」


 カイは爽やかな笑顔を浮かべ、去って行く。神獣ラクーン、私と合流し、急ぎ足で特別談話室に辿り着いた。

 扉を閉め、鍵を閉めた瞬間、同時にため息がでてくる。


「あ、危なかったです!」

「ギリギリだったな」


 危うく、ルイーズの意識が私に集中するところだった。いいタイミングで去ることができただろう。


「こういうのは向いていないです」

「そんなことない。大した演技力だった」

「恥ずかしくてたまらなかったのですが」

「動揺はまったく顔にでてなかったぞ」

「よかったです」


 問題は放課後だと、カイはしょんぼりしながら口にする。

 名前など適当に名乗っておけばよかったのだが、咄嗟とっさに対応できなかったようだ。


「まさか、ルイーズ嬢がクリストハルト殿下の護衛である私の名前を把握していたとは。まったくの想定外でした」

「有力な男性貴族の名は暗記しているのかもしれない」

「そう、ですね」


 そういえばと、終わってしまった世界でのルイーズについて思い出す。魔法学校の成績はてんで悪かったのに、暗記力は抜群だった。

 王妃になったルイーズは貴族名鑑の名をすべて暗記していたのだ。そのおかげで、人の名前を思い出せないときに、何度か助けてもらった覚えがある。


「先ほどみたいに、クリストハルト殿下に興味を抱かれたらどうすればいいのか」

「その時は、ルイーズを褒めまくれ」

「褒める、ですか?」

「ああ。先ほども、清純だの可憐だの言っていたら、デレデレに照れていた。ああいう、言われ慣れていない言葉に弱いのだろう」

「わ、わかりました。試してみます」


 勝負は放課後。カイの手腕にかかっていた。

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