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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
第三章 危機――原因はなんなのか

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27/90

クズ王子は、恋愛技法を神獣に質問する

「ただ、普通に声をかけただけでは、ルイーズの気を引くのは難しいだろう」


 カイの実家であるモンペリアル伯爵家は名家だ。けれども、ルイーズは王妃となることを目論む野心家である。伯爵家の三男が声をかけてきても、相手にしない可能性があった。


「どうすればよいのでしょうか?」

「顔だ」

「顔、ですか?」

「そうだ。お前の整った顔で、ルイーズを誘惑するのだ」

「そ、それは……」


 生真面目で色恋沙汰とは縁が遠いカイには、色仕掛けなんて難しいだろう。

 おそらく、ルイーズは日頃から男子生徒に声をかけられているはずだ。きっと飽き飽きしているだろう。

 その中でカイに強みがあるとしたら、その美貌だろう。

 ただ顔面のよさだけでは心許ない。ルイーズへのその場限りの巧言リップサービスが必要だろう。


「えーっと、具体的には、どういった感じで呼びとめたらいいのでしょうか?」

「そうだな……」


 しばし考え、私の護衛騎士のひとりが侍女を口説いている場面を思い出す。


「やってみるから、少し離れた場所から歩いてきてくれ」

「かしこまりました」


 こういうことをするのは気恥ずかしいものの、作戦を成功させるためだ。腹を括る。

 歩いてやってくるカイの前に、スッと花を差し出す。


「この花と引き換えに、少し話す時間をくれないか」

「あ、はい」


 カイは頬を赤らめ、百合の花を受け取った。背後の花瓶に刺さっていた花である。


「とまあ、こんな感じだ。どうだった?」

「とても、すばらしいと思います」

「ディーターがやっていた小技だがな」


 彼の名前を出した途端、カイは眉間に皺を寄せる。


「もしも彼が同じことをやってきたら、無視すると思います」

「まあ、そうだな。他の方法を考えてみるか」


 女性に花を差し出すなんて、キザったらしいだろう。それに、突然花を差し出して悲鳴でも上げられたら、教師から呼び出されてしまう。


 カイとふたりで考えても名案など浮かばない。ふと、視界の隅に神獣ラクーンが目に付いた。


「そういえば神獣ラクーンよ。〝奇跡のエヴァンゲーリウム〟について、詳しかったな?」

『は、はあ、そうですが』


 〝奇跡のエヴァンゲーリウム〟は、恋愛を楽しむゲームである。その展開の中に、女性を呼びとめる方法などないのか質問してみた。


『そうですねえ、少々古典的な技ですが、壁ドン! などどうでしょうか?』

「なんだ、その、壁ドン! とやらは?」

『壁に手を突いて、女性の行く手を阻むものです。地球ではすでにすたれた技法なのですが、ゲーム内では大変盛り上がったそうですよ』

「なるほど、壁ドン!か。やってみよう」

「あ、私がドン! してみてもいいですか?」

「ならば、私が歩いてやってくる女子生徒役だな」

「お願いします」


 壁際を歩いていくと、突然カイが勢いよく壁を叩いた。

 ドッ!! と轟音が響き、壁にヒビが入る。


「う、うわー!!」

「も、申し訳ありません」


 ドン! が少々強すぎたようだ。神獣ラクーンからも、『力だけの問題でもないような……?』というコメントをいただく。


「ドン! はそんなに強くなくてもいいのだな?」

『はい。トン! と軽く触れる程度です。勢いも必要ありません』

「なるほど、わかった」


 今度はカイが歩いてくる女子生徒役を担う。

 接近したのを見計らい、壁をドン! するために腕を伸ばした。だが――手が壁に届かず、腕がただ宙に浮いた状況となった。


「これは、もしかしなくても失敗だな」

『失敗ですねえ』


 距離感がなかなか難しい。的確にドン! したカイはさすがとしか言いようがない。


「神獣ラクーンよ、壁ドン! 以外で他に何かないのか?」

『えーと、うーんっと、そうですねえ……。制服のボタンに髪を絡ませて、引き留めるという小技もあるようですが、難易度高いですよね』

「すれ違いざまに狙ってボタンに髪を絡ませる? 無理に決まっているだろうが」

『ですよね』


 ルイーズの気を引くだけで、どうしてこのように苦労をしなければならないのか。だんだん苛立ってくる。


『そうだ! もうひとつ、ありました』

「なんだ? 教えてくれ」

『角でぶつかって、お詫びにカフェに誘うんです。そのさいに、お話を持ちかけたらいかがでしょうか?』

「それだ!!」


 一部の上流階級者しか出入りできないカフェに誘ったら、応じてくれるだろう。ただ、カイがルイーズにぶつかるというアクションに不安を覚える。


「カイ、念のため、一度練習してみようか」

「わかりました」

「軽くぶつかるように」

「わかっております」


 結果だけ言うと、私はカイにぶっとばされた。軽くぶつかる程度でも、猪が突進してきたような衝撃があったのだ。


「これは、カイには難しいのでは……?」

「練習します」

「個人練習は止めろ。私が、練習台となる」

「しかし、先ほどのように強くぶつかってしまったら、申し訳ないです」

「気にするな。いくらでも、練習台になってやろう」


 そんなわけで私とカイはルイーズの気を引くために、ぶつかり稽古を始めた。


 ◇◇◇


 昼休み――

 カイは容姿を反転させるイヤリングを外し、ルイーズを待ち構える。

 今日という日を迎えるまで、練習を積み重ねてきた。カイにぶつかって私は満身創痍だったが、回復魔法が癒やしてくれた。


 作戦はこうだ。食堂から出てきたルイーズに、うっかりカイがぶつかってしまう。お詫びにと、サロンカフェ〝クライノート〟に誘う。

 廊下には私と神獣ラクーンが待機し、カイにルイーズの接近を知らせるのだ。


 食堂を覗き込むと、ルイーズとその取り巻きを発見する。食事を終えたようだが、会話が盛り上がっているようでなかなか出てこない。

 食堂は生徒であふれかえっている。席を探す生徒もいるというのに、のんきなものだ。


 それから二十分も喋り倒し、やっとルイーズは食堂をあとにする。


「よし、いいタイミングだ。神獣ラクーンよ、カイに知らせに行ってくれ」

『了解しました』


 廊下の角で待機するカイに、神獣ラクーンが知らせに向かう。

 そのあとで、ハッと気づいた。ルイーズは多くの取り巻きに囲まれている。その中で、偶然を装ってぶつかるのは難しいのでは?


 ルイーズが取り巻きに囲まれていることまでは、想定していなかった。なんてことだ。

 このままだと、失敗してしまうだろう。


 カイに伝えに行こうか。

 そう思って立ち上がったものの、意外と歩くのが速いルイーズとその取り巻きが通り過ぎて行く。


「カイ、作戦は――」


 止めようとした瞬間、カイが廊下の角から飛び出してきた。

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