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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
第三章 危機――原因はなんなのか

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クズ王子は、オーガについて語る

 カイは強い眼差しを私に向ける。こういう目をしたときは、絶対に言うことを聞かないのだ。

 以前、オーガの話を耳にしただけで倒れたので、今後はしないようにと心がけていた。それなのに、再びオーガについて話をしなければならないなんて……。

 ただ、以前のように弱々しい雰囲気はなかった。

 彼女を信じよう。そう判断し、オーガについて話し始める。


「オーガが現れたのは、私の執務室だった。気配もなく、どこをどう通ってきたのかまったくわからなかった。カイの叫びで、私はオーガの存在に気づいたのだ」


 オーガの姿はとても恐ろしかった。

 全身真っ赤な肌を持ち、額から突き出た角はナイフのように長く鋭く、顔付きもいかつい。身長は二米突メートルがゆうに超えていただろう。丸太のような筋骨隆々の腕は筋肉で盛り上がり、手には戦斧を握っていた。


「どういう状況だったかは定かでなかったのだが、記憶にあるのは、オーガが戦斧を振り下ろした瞬間だった」


 避けきれない。そう思っていたものの、衝撃は別の方向から襲ってきた。

 カイが私の座る椅子を蹴り飛ばし、身体は吹っ飛ぶ。戦斧は私ではなく、執務机を叩き割った。


「戦斧が振り下ろされた執務机は、見事に真っ二つだった。あの攻撃が当たっていたら、私は一瞬にして叩き潰されていただろう」


 呆然ぼうぜんとしパチパチと瞬く瞬間には、カイとオーガの戦闘が始まる。戦斧と、両手剣の戦いだったが、室内での戦いはカイのほうが不利だった。

 そこまで広くない部屋と、家具の配置が両手剣による斬撃を鈍らせる。

 けれども、カイはオーガに負けていなかった。剣で戦斧を弾き飛ばし、オーガに距離を詰める。


「その瞬間、カイは私にとって最高の騎士だと思った。しかし――」


 何かオーガがカイに向かってボソボソと囁いたように見える。その一瞬、攻撃が止まった。

 それが隙となり、オーガの戦斧がカイに迫る。


「オーガの斧はカイの鎧ごと切り裂き、そのままお前は切り刻まれて息絶えた」

「そう、だったのですね」


 その後、オーガは私を一瞥いちべつせずに、窓を割って去っていった。

 目的はカイだったのか。それは未だにわからない。


「オーガが私達のもとへやってきたのは一度きりだった」


 カイは俯き、微かに震えているように見える。ただ、その様子に弱々しさは感じない。

 何かに怒っているような、そんな空気を発している。


「クリストハルト殿下は以前、オーガについてお調べになっていたようですが、私もそのあと調査してみたんです」


 貴族にのみ閲覧が許可されている中央図書館には、魔法学校の蔵書より詳しいオーガの情報があったという。


「なんでも、オーガは普段は人間と変わらない姿で生活しているようです」


 オーガを知る者ならば誰でもイメージする、赤い肌を持ち、額から角が生え、戦斧を持つ姿は、ある条件のもとで変化した姿だという。


「オーガは激しい感情――主に怒りを抱くことにより、肌を赤く染め、額から角が突き出し、身体は一回り以上も大きくなるという、魔物のような姿になるようです」


 感情を制御できない幼少期のオーガの子どもは、常に赤い肌に角を生やした姿で育つのだという。


「ということは、オーガは何かに怒り、私達を襲撃したということになるのか?」

「ええ、間違いないかと」


 いったい何に対して怒っていたのか。わからない。


「どうやって私の執務室に侵入してきたのかも謎だ」


 襲撃事件後、調査したものの証拠は何も出てこなかった。


「戦闘モードに変化したオーガが、隠密活動をしながら執務室に侵入することは難しいでしょう」

「それもそうだな。だったらなぜ、突然現れた?」

「それは」


 カイは言葉を切り、悔しそうに唇を噛む。


「何か思い当たる節があるのならば、はっきり言ってくれ。今世でも、オーガと相見える見込みはあるのだから」

「わかりました」


 意を決したように、カイはある可能性を口にする。


「魔法に精通した誰かが、誘導したのかもしれません」

「転移魔法でいざった、ということなのか?」

「ええ」


 転移魔法というのは、一瞬のうちに場所から場所へと移動する高位魔法である。

 術式を展開させるのが大変難しく、使える魔法使いは現代ではほぼいないとまで言われている。五十年ほど前には、国の賢者と呼ばれる大魔法使いが転移魔法を使っていたようだが、百名以上いた弟子は誰も使えなかった。


「わからないことを考えても、時間の無駄だな」

「ええ」


 ただ、警戒しておくに越したことはないだろう。


「今、私達に必要なのは、味方を作ることだと思う」

「味方、ですか」

「具体的に言うと、護衛だ」


 私の身辺を守る護衛騎士はカイ以外にも大勢いる。けれども、彼らは国王陛下に命じられて、私を警護しているだけに過ぎない。

 カイのように、自ら私を守ると志願した者はいないのだ。


「護衛騎士達はよくやってくれている。けれども、オーガに襲撃された日は、誰も助けにこなかった」


 何か物音がしたらやってくるはずなのに、その日は不思議と誰も部屋に入ってこなかったのだ。


「もしかしたら、部屋に音を遮断する魔法がかけられていたのかもしれない。そうだとしたら、オーガに襲われたさいに役に立たないことは目に見えている」


 あの日、オーガを前にした私も身体が硬直して動けなくなっていた。当時はオーガを前に腰を抜かしていたのだと思っていたが、今思い返すとおかしい点があったように感じる。


 カイがオーガの爪で裂かれた瞬間、駆け寄ろうとしたのに身体が硬直したように動かなかった。


「あのとき、影縫いにされた状態だったのかもしれない」


 影縫いというのは人の影に呪文を刻んだナイフを投げ、その場に縫い付けて動けないようにする魔法だ。

 その昔、暗殺に利用されたことから、国内では禁術扱いされている。


「敵はオーガをも利用する、狡猾な魔法使い、ということなのでしょうか?」

「かもしれない」


 この辺も、誰が犯人なのか調査する必要があるだろう。


「聖女マナが出現しただけでも頭が痛いというのに……」

「ええ」


 ひとまず、次にやることは決まっていた。新しい護衛探しである。


「職業斡旋所でお探しになるのですか?」

「いいや、あそこは素性の知れぬ者も多い」


 一応、身分を証明するライセンスを発行しているものの、職業斡旋所で働く者達は金さえ渡せば基本的になんでもする。

 敵が私の護衛を買収した場合、敵に回る可能性があるのだ。


「でしたら、職業斡旋所に登録した者は危険かもしれませんね」


 だったらどこで探すのか。カイの疑問に答える。


「西方国境にいる、獣人を護衛にしたい」

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