クズ王子は、国王陛下と謁見する
三か月ぶりに、国王陛下とお目通りする。
赤絨毯が敷かれた謁見の間は必要最低限の護衛騎士だけが残り、人払いされているようだった。
金色の髪に白髪が交じるようになった国王陛下は、少しだけ疲れているように見える。
なんでも、西の国で起きた内戦の影響で、難民が西方国境に押しかけているらしい。その対策に頭を悩ませているようだった。
西方国境付近にはシララバスという、天を衝くほど高い木が生える森林地帯が広がる。
シララバスは根も深く、掘り起こすのは難しい。そのため開墾がされておらず、魔物も多いことから野放しの土地とされていた。
鬱蒼と木々が生えていることから、潜伏もしやすい。そのため、西方国境から他国に攻め入られたら、国は危機を迎えるのではないかと昔から囁かれているような土地だ。
西の国というのは、獣人国である。獅子の王が国を統べる、比較的平和な国だと聞いていた。いったい何が起きたというのか。
新聞は五社分、毎朝読んでいたが、そのような情報は報道されていなかった。
「まさかそのような状況になっているとは……」
「情報を伏せているからな。国民らは、獣人を恐れているがゆえに」
「そういうわけでしたか」
力が強く、短気、我慢を知らない獣人を怖がる者が多いという。
先ほど神獣ラクーンとの会話に出てきた獣人伯爵は、狼の耳と尻尾をもつ人間に近い見た目の亜人だ。一族は総じて温厚な気質で、国内でも慈善活動に精を出している。
獣人といっても、全員が全員凶暴なわけではないのだ。
国王陛下は獣人の受け入れを拒否している。けれども、力任せに入国する者もいて、追跡に失敗し野放し状態になっている獣人もいるようだ。
「この混乱を鎮めるために、聖女がやってきたのかもしれぬな」
「あ――そう、でしたね」
獣人の国の内戦話に衝撃を受け、聖女マナが姿を現した件についてすっかり失念していたようだ。
「神出鬼没の聖女など、頼りにできぬ。自分達でどうにかせねばならないだろう」
現状、送れるだけの騎士は投入しているという。けれども相手は力の強い獣人。制圧に苦労しているのだという。
「国王陛下、難民はどれくらいの人数なのでしょうか?」
「三百から五百程度だ」
獣人国は小国だ。難民が押し寄せたといっても、他の国ほど規模は大きくない。けれども、力の強い獣人達が一致団結して押し入ったら、たまったものではないだろう。
「帝国は魔法で獣人の侵入を防いでいるようだ」
さすが、魔法国家と言えばいいのか。帝国と戦争になったさい、魔導兵器のおかげで我が国は蹂躙されたのを覚えている。敵に回したくない相手だ。
「帝国に借りを作るのもシャクだ」
どうすればいいものか、日夜話し合っている最中だという。聖女の力でどうにかできたらいいのだが、今この場にいて解決策を提示してくれるわけではなかった。
現場の騎士達も疲れ切っているという。傷付けず、拘束せず、ただ追い返すというのは、 かなりの労力が伴うのだろう。
「もうこのような状況ともなれば、侵略と判断して殲滅させる他ない」
「お待ちください、国王陛下」
難民を手に掛けたとなれば、獣人国と戦争になる可能性がある。獅子王は激しい気性で、一度戦場に立ったら猛烈な強さを見せるという噂を耳にした覚えがあった。
「獣人国は敵に回したくない。わかっておるが、このままだと騎士達が消耗されてしまう。ふたつの命を天秤にかけた場合、国民に傾くのは仕方がなかろう」
「しかし――」
何か平和的な打開案があるはずだ。力の強い獣人を、どうにかする方法を。考えろ、考えろ――!
「どうにもできないだろう。シララバスが広がる森に逃げられたら厄介だ。これ以上、獣人族とのいざこざを長引かせるわけにはいかない」
「国王陛下、それです!!」
耳にした国王陛下のお言葉のおかげで閃いた。シララバスと獣人の難民、一気に解決する方法を思いついたのだ。
「それとはなんだ?」
「難民を全員受け入れるのです」
「なんだと!?」
「ただし、条件付きで」
長年、西方国境付近の開墾問題は悩みの種だった。人の力では、シララバスを伐り倒し、根を掘るという作業が難しかったのである。
けれども、獣人の力があれば簡単に開墾できるだろう。その昔、獣人国があった土地にも、シララバスは生えていた。それまで誰も開墾できなかった土地だが、ありあまる力を使って伐り開いていったのだ。
「難民を受け入れる代わりに、シララバスの森を開墾させるんです。その後、そこに彼らを住まわせて守護させたら、西方国境の守りも強固になる」
「なるほど――! それは、思いつきもしなかった。詳しい話を聞かせてくれ。すぐにでも、枢密院の承認を取ろう」
「はい!」
そんなわけで、西方国境の難民救出のための動きが始まる。
食料やテント、開墾道具などが現地に運ばれることとなった。
聖女の件がなかったら、知らなかった情報だろう。
魔法学校に通っている間に、国が危機に陥るところだった。
これも、聖女マナが国を救ったことになるのだろうか。
だとしたら、彼女に感謝しなければならない。
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