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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
第一章 転生――そして絶望

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クズ王子は、護衛騎士の秘密に気づく

 思い返してみたら、聖女マナや男爵令嬢ルイーズのどこに魅力を感じていたのか、まったくわからない。

 それ以前に、私は王太子。未来の国王となる者だ。恋や愛で王妃となる女性を選ぶ権利などない。

 そもそも、だ。王妃教育を受けていないふたりに、王妃なんぞ務まるわけがないだろう。

 なぜ、私は彼女らを愛し、アウグスタを婚約破棄してしまったのか。考えているうちに、頭が痛くなる。


「我がことながら、まったく理解できない」

『聖女マナ様に関しては、あなた様が好印象をいだくような言葉を、間違ったらリセットを繰り返しながら言っているので、無理はないのかもしれません』 

「なるほど。では、男爵令嬢ルイーズに関しては?」

『クリストハルト様を一度毒殺されているので、何か惚れ薬的なものを盛っていた可能性があります』

「そうか」


 どちらにせよ、ふたりに関しては警戒が必要だろう。


『それで、引き受けていただけるのでしょうか?』

「世界を救うって、具体的には何をすればいいんだよ?」

『そちらも、考えていただきます』

「ノープランだったのか!」

『はい!』


 清々しく感じるほどの、曇りなきまなこと返事だった。ぐったりと、うな垂れてしまう。


「なんか、特別な力を神から授かったり、神の助言が聞こえたり、そういうのはないのかよ?」

『ないですねえ。あ、でも、代わりにこの私が、クリストハルト様のお傍でお仕えします』

「お前、何ができるんだ? いつも、聖女マナの傍であたふたしているだけの印象しか残っていないが」

『えー、何か事件が起きたときに、実況するとか?』

「とんでもない無能神獣じゃないか!」

『仕方がないんですよおー。私、ただの伝令兼神様への報告係なのですから』

「それは確かに」


 盛大なため息がでてくる。どうやって世界を救うかは、自分で考えるしかないようだ。

 正直、こんなお役目など引き受けたくない。ただでさえ、私は未来の国王である。やらなければいけないことは、山のようにあった。


「というか、今の私はいつの私なんだ……?」


 鏡がないかキョロキョロしたところで気づく。ここが、魔法学校の寮の寝室だということに。


「まさか、十代に戻っているのか!?」

『はい、そうです! 十八歳の春から、世界を救っていただきます』

「いや、私はまだ了承していないだろうが!」

『これまでと同じように、聖女マナに攻略され、悪役令嬢アウグスタにざまぁされ、男爵令嬢ルイーズに陥落する人生を送るというのですか?』

「勘弁してくれ」


 シナリオ通り殺される人生は、神とやらが決めたことなのでどうにもならないのだろう。けれども、これまでの無残な死の記憶と共に、誰かの言いなりになって世界を救えとか、そういう話はごめんだとも思う。


「私の人生は、意味のないものだったのだ。もういっそのこと、記憶をすべてなくして、これまで通りでいさせてくれたらよかったのに」

『クリストハルト様、それでは、いつも味方でいてくれた、護衛騎士であるカイ様を、無駄死にさせるおつもりで?』

「――っ!!」


 カイ・フォン・ヴァルヒヘルト――私のたったひとりの親友であり、護衛騎士だ。

 何回も繰り返す人生の中で、たったひとり、カイだけは私の味方でいてくれた。

 私を庇うあまり、何度も酷い死なせ方をさせてしまった。


 斬首刑のあと、私と首を並べて晒し者になったこともあった。

 とっくに死んでいるはずなのに、なぜか記憶に残っている。

 国を破滅に導き、罪人とまで言われた私と首を並べられるのは、彼にとって最大の不名誉だっただろう。

 突き放しても、突き放しても、カイだけは私の味方でいてくれた。


「そういえばカイは!?」


 魔法学校時代は同室だった。

 大人になってからは常に板金鎧をまとって素顔を見せなかったが、魔法学校時代は普通に制服をまとって暮らしていた。


 この時間帯だったら、起こしにきているだろう。時間に厳しい彼が、来ないなんてありえない。


『カイ様でしたら、お話しするのに邪魔だったので、そちらで眠っていただいております』

「なっ!?」


 寝台から飛び降り、太陽の光を遮断するカーテンを開いて振り返る。

 すると、カイが倒れている姿に気づいた。

 朝早い時間だったが、魔法学校の制服をきっちりまとっていた。カイはいつもそうだった。だらしない姿など、一度も見たことがない。


「カイ! カイ!」


 名前を呼んでも、長い睫が縁取った目はピクリとも動かない。仕方がないので、頬を叩いて起こす。


「カイ、起きろ」

「んんっ……」


 形のよい唇から、色っぽい吐息が漏れる。

 よくよく見たら、眠るカイの姿は色気があった。

 見てはいけないものを見ているようで、咄嗟とっさに目をそらす。

 そういえば、カイはあまりにも言い寄られるので、全身を覆い隠す板金鎧をまとうようになったと言っていた。


 聖女マナより、アウグスタより、ルイーズよりも、カイのほうが美しいだろう。

 今になって気づいたのだが……。


「おい、神獣ラクーン、カイに何をした!?」

『ただ眠っているだけです。もう少ししたら、きっと目覚めるはずですよー』

「どうしてカイをこんなふうにする必要があるのだ」

『いや、私、何回目かのクリストハルト様の人生で、カイさんに斬りつけられたことがあるんです』

「お前、何をしたんだよ」

『クリストハルト様に忠告しに行っただけですー』

「それだったら、カイの討伐対象だ。カイは悪くない」


 私に近づく正体不明な存在ものは、カイが問答無用でたたき切る。

 それが、聖女マナが連れていた神獣ラクーンであってもだ。


『最後まで話をさせていただくために、カイ様には眠っていただきました』

「わかった、わかった」


 ひとまず、カイを寝台に寝かせよう。

 眠りにくいだろうからジャケットとベストを脱がせ、抱き上げる。

 と、その瞬間、不可解なやわらかいものに触れた。


「な、なんだ、これは!?」


 一度寝台に寝かせてから、今一度確認する。

 カイの胸に手を当てると――膨らみを確認できた。

 その様子を見た神獣ラクーンが、ズバリと指摘する。


『カイ様は女性なのでは?』

「は!?」


 今までの人生の中で、一番大きな声が出たように思える。


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