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クズ王子は、魔法の適正を調べる

 今後起こる可能性が高いオーガと邪竜の襲撃に備え、魔法の勉強を真面目に取り組む。

 これまで真剣に取り組んでいなかったからか、魔法の基礎ですらほとんど身についていないというのが現状である。

 しかしまあ、言い訳もあった。王太子たる私は魔法学校の学習以外に、七カ国の外国語に加えて歴史、数学、工学、哲学、医学を習うために家庭教師を寮に招いている。

 貴族の者達は皆、護身魔法を習得するために魔法学校に通っている。王家が推奨しているという理由で通う者も多い。

 世界的に魔法使いが減少しているため、対策として建てられた学校なのだ。

 王太子たる私が魔法学校に通う最大の理由は、生徒を集めるため。王族の在学中は、生徒がぐんと増える。そのため、魔法の習得に興味がなくとも強制的に入学を命じられるのだ。

 未来の国王に、魔法の知識は必要ない。護衛もいるので、自分で身を守らなければならないような状況にはならないだろう。そんなわけなので、魔法に関する学習が疎かになるのも仕方がない。

 かつての私はそう思っていた。

 今は違う。繰り返される人生の中で、私の処刑以外の死因は魔物による襲撃だった。

 味方はカイしかおらず、彼女は殺されてしまった。

 私が魔法を習得し、共に戦っていたら勝てたかもしれないのに……。


 魔法の成績はどれも平々凡々きわめてふつう

 攻撃魔法に魔法薬、補助魔法に防御魔法、召喚術などなど、どの教科も教師から褒められた覚えはない。

 魔法はどれが自分に向いているのか、まったくわからなかった。


「神獣ラクーンよ」

『あ、ひゃい!?』

「今、声をかけられるとは思っておらず、気を抜いていたな?」

『そんなことは――あるかもしれません』


 私が与えたクッキーを貪り食っていたようだ。

 神獣とは神聖で厳格な生き物だと思っていたが、神獣ラクーンはその辺の獣と変わらない。食っちゃ寝、食っちゃ寝を繰り返している。


「そのクッキーまみれの毛で、私の肩に乗るなよ」

『もちろんです』


 神獣ラクーンの食い意地とクッキーまみれの毛なんぞどうでもいい。

 魔法についての質問をする。


「私の魔法の適性など、わかるだろうか?」

『調べることは可能です』

「そうか。頼みたいのだが、どうすればいい?」

『では、四大元素エレメンツの魔法を見せていただけますか?』


 四大元素というのは、世界を構成する火、地、風、水に関する魔法である。

 魔法学校で習う、基本中の基本の魔法だ。


 魔法を受け止める魔法陣が刻まれた平皿シャーレをテーブルに置き、呪文を唱える。

 まずは火魔法から。


「巻きあがれ、火よフォティア!」


 マッチ棒に灯したような小さな火が、ポッと一瞬浮かび上がって消えていった。


『あ、あー、火魔法とは相性がよくないようですね。いやはや、火を魔法で具現化させるだけでも難しいと言われていますので、及第点かと!』


 なんだか気を遣っているような言動である。はっきり火魔法は才能がないと言えばいいものの。


 続けて地魔法を試してみる。


「うちふるえろ、地振動(ヴィブラシオン)!」


 平皿が僅かにカタ、と音を立てて動くばかりであった。


『え、えーっと、つ、次、風魔法に挑戦してみましょう』


 少し集中力に欠けていたか。今度は目を閉じて雑念を追い出してから、呪文を唱えてみる。


「舞い上がれ、風よヴィント!」


 そよ風が通り過ぎていく。以上だ。


『最後は、水魔法ですね』

「ああ」


 一学年のときにしたさいは、平皿から水が溢れるくらいだった。同じ魔法を試してみよう。


「湧き上がれ、水よヒュドール!」


 平皿に、雨粒の一滴ほどの水が生じた。

 なんというか、私の魔法は習った当初より酷く劣化しているようだった。


「四大元素の魔法は、向いていないようだな」

『みたいですね』


 当然、上位魔法である雷、氷、闇、嵐などの魔法は使えない。念のため呪文を唱えてみたものの、何も起きなかった。


 魔法薬で戦うという方法もあるものの、こちらは付与魔法が得意でないと使いものにならない。授業で調合を行っているので、自分がいかに普通の成績であるかというのはわかっていた。


「どれだけ努力しても、私に魔法の才能はないようだな」

『いいえ、そんなことありません! そ、そういえば、今思い出しました! 〝奇跡のエヴァンゲーリウム〟の設定資料の話を、以前神様からお聞きしていたのですが、王家の方々は回復魔法を得意としていたようです!』

「初耳なのだが」

『ゲームの裏設定らしいです』


 なんでもその昔、王家の者達は魔物から国民を守るために、自らの力で傷を癒していたらしい。


『けれども、何代か前の王妃様が不貞の末に産んだ子どもを王太子としたため、王家の血がこっそり途絶えてしまったようです。そのため、回復魔法の能力も途絶えてしまったと』

「な、なんだと!?」


 私ですら知らなかった王家の歴史にギョッとする。なんでも、当時の王妃が墓場まで持っていった秘密だったため、知っている者はいないという。


「まさか、王家の血筋が断絶していたとは……!」

『あ、でも、何代かあとに従妹婚をしているので、まったく王族の血が流れていないわけではないみたいですよ』

「直系の血を守ることこそ、務めだというのに」

『それはそうですけれど……』


 王家の血筋問題はいったん置いておこう。

 回復魔法が得意だったと聞いたが、魔法学校では習わない。

 聖属性と光属性の魔法は、神学校に通う神父や修道女見習いのみが習得するようになっている。


『回復魔法は、神への祈りです。ちょうど、キャンディの缶で口を切ってしまったので、試してみませんか』

「この食いしん坊め」


 開封の仕方がわからず、噛みついて開封しようとしたところ口を軽く切ってしまったようだ。神獣ラクーンは神の使いだが、回復魔法は使えないという。本当に、伝達しかできない獣のようだ。

 さっそく、教わった呪文を試してみる。

 回復魔法は創世神への信仰と、日々の祈りの力が源となる。神へ祈りなんか捧げない私に展開できないと思っていたが――。


祝福よベネデッタ、不調の因果を癒やしませ」


 大きな魔法陣が浮かび上がり、部屋の中は眩い光で包まれる。思わず、目を閉じてしまった。


 光が収まったあと、そっと瞼を開く。


『わー、すごいです! 口の中の傷が回復し、人間界に適応できないために感じていたけだるさも回復しました!!』


 ……どうやら私は、回復魔法の才能があったらしい。 

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