表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/90

クズ王子は、今後について考える

 手紙を穴が空くほど見つめていたら、カイに心配される。


「クリストハルト殿下、大丈夫ですか? 私が代わりに中を調べましょうか?」

「いや、いい」


 このまま時間を浪費するのももったいないだろう。意を決して、手紙を開封する。


 手紙にはルイーズの長ったらしい自己紹介と、歓迎パーティーを一緒に参加したいという旨、それから王家に対する融資の話が書かれていた。

 そうだった。かつての人生でのルイーズは、王家がそこまで裕福でないことを逆手にとって近づいてきたのだ。おいしいだけの話にまんまと乗って、融資という名の借金が膨れ上がり、彼女と離れられなくなったのである。

 王家の財政が芳しくないのは、王妃殿下の病気が絡んでいた。〝ゼーゲ症候群〟といって、皮膚がのこぎりのように鋭く尖る症状に悩まされている。それは魔法薬でしか治せず、完治は難しい。さらに、その魔法薬はかなり高価なのだ。

 治療費が王家の財政を圧迫しているという、頭が痛くなるような話である。

 この問題は国王陛下がどうにかするとおっしゃっていた。これまでの人生では私がいろいろと手を尽くしたばかりに、王家の金銭問題がこんがらがってしまったのだ。今世は、任せるようにしよう。

 どれだけ金を積んでも、王妃殿下の病気が治らないのはわかっているから。

 ルイーズの手紙は鉄皿に置いて魔法で燃やす。はあと深く長いため息を漏らしてしまった。


「お返事は書かれますか?」

「書かん」


 手紙であっても、ルイーズと関わり合いを持つつもりはない。徹底的に避けなければならない相手だろう。


「ルイーズ・フォン・レーリッツは面倒な相手だ」

「それは、なぜですか?」

「王妃の座を狙っている。王家の財政困難にも気づいていて、支援を申し出ているのだ」


 詳しく説明せずとも、カイはルイーズという存在の厄介さを理解したようだ。


「もしも校内で発見したら、教えてくれ。絶対に関わりたくない」

「承知しました」


 手紙が灰まで燃え尽きたのを確認すると、扉が叩かれる。本日三回目だ。いい加減、うんざりしてしまう。


「カイ、出てくれ」

「お任せください」


 訪問者かと思いきや、そうではなかった。カイは銀盆に載った手紙と共に戻ってくる。


「クリストハルト殿下、アウグスタ・アンナ・フォン・カッセル様からのお手紙です」

「ああ」


 アウグスタ――私の婚約者であり、聖獣に愛されし娘でもある。

 物心ついた時から王妃教育を受けており、王妃になるために存在するような娘だ。

 性格は生真面目で頑固。冗談も通じないほど、厳格な人物である。

 ルイーズは「型にはまったつまらない人間」と評し、聖女マナは「学校の先生みたいで怖い」と言っていた。

 皆が思う理想の王妃となるよう教育されていたので、まさに型にはまったふるまいを心がけていたのだろう。さらに国民の模範となる者に見えるよう、自らを強く律していたのかもしれない。

 そんなアウグスタの努力に気づかず、青臭く浅薄だったかつての私は遠ざけていたのだ。

 今世では、誠意をもって彼女と付き合っていかなければならない。傷つけ、邪魔者のように扱うことなどもってのほかだ。


 アウグスタからの手紙には、歓迎パーティーへの参加を問いかける内容が書かれていた。婚約者がいる場合、パーティーに参加するときは同伴しないといけない。これまでの記憶が戻るまではずっと、すっぽかし続けていた。

 それは、彼女の存在を軽んじる行為だった。今になって、深く反省する。

 今日はきちんとエスコートしないといけないだろう。

 だが、注目を集めるのはごめんである。アウグスタとなんかいたら、注目の的となってしまう。惑わし眼鏡をかけていても、人の視線を感じて居心地悪くなるに違いない。

 遅れて参加し、あとで合流しようと手紙に認める。集合場所は大広間に繋がる廊下に設置された、三代目校長の胸像前と決めておいた。


 手紙を騎士に託し、カイを下がらせる。

 ひとりになった瞬間、「はー」と本日何度目かもわからないため息が零れた。


『いやはや、ご立派でしたよ』

「うわあ!!」


 神獣ラクーンの存在をすっかり忘れていた。考えること、やることがあまりにも多いので、意識もぼんやりしていたのだろう。


『少し行動を変えるだけで、未来は大きく変わっているようです』

「みたいだな。フェリクスが魔法学校に入学してきたのなんて、初めてだ。今まであったか?」

『いいえ、ございませんでした。これも、未来にいい方向へ作用するに違いありません』

「それはどうだか」


 魔法適性が低いフェリクスは、果たして魔法学校で上手くやっていけるのか。心配でしかない。


「たまに、フェリクスの様子も見に行ってくれ。何かトラブルに巻き込まれていたら、すぐに報告してほしい」

『承知しました』


 ひとまず、今後の目標を定める。

 魔法学校で過ごす間は、ルイーズの接近に注意する。それから、アウグスタを冷遇しない。しっかり労い、大切にしたい。

 それからカイとも仲良くなって……どうするんだ?

 これに関しては、まだ不透明であった。すぐに答えはでてこないので、頭の隅に追いやっておく。


 他に、聖女マナの召喚やオーガや邪竜の襲撃、沼地への調査など問題は山積みである。ただこれらが起こるのは、まだ数年先だ。 


「直近の問題としては、アウグスタの聖獣の弱体化か」


 現在、国では魔物の集団暴走に頭を悩ませている。聖獣の守護のおかげで、なんとか街への襲撃を防いでいるのだ。

 しかしながら、突然聖獣の守護力が弱まり、魔物の襲撃を受けてしまう。

 それが原因で、聖女マナを召喚することになるのだ。


「神獣ラクーン、聖獣の弱体化について、何か知っているか?」

『いいえ、まったく。これも、神様は〝奇跡のエヴァンゲーリウム〟のシナリオにおいて、主人公である聖女を活躍させるための、都合のよい演出だったのだろうとおっしゃっています』

「そうか」


 私が悪役王子として自らの意思とは関係なく決められた役割を果たしていたように、聖獣も聖女の存在を際立たせるために力が弱まっていくと。


「本当に、なんなのだ、この世界は!」


 苛立ち、机を叩く。どうにもならない問題を前に、頭を抱えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ