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クズ王子は、まさかの来客を迎える

 それから揚げたジャガイモと白身魚の塩焼き、蒸したてのパン、スープを食べて、食後のデザートとしてチョコレートタルトを食べた。すべて、立ち食いである。

 立食パーティーのように優雅ではないものの、出来立てほやほやの料理はどれもおいしかった。


 予想外だったのは、神獣ラクーンが思っていたよりも大食いだったこと。

 小さな身体のどこに食べ物が入って行くのか。謎である。


 お腹も膨れた状態で帰る。来たときと同じく、地下通路を通って寮に辿り着いた。

 部屋はシーンと静まり返っていた。時刻はお昼過ぎ。おそらく、寮の昼食会がある時間だろう。


「これからどうなさいますか?」

「夜の歓迎パーティーには参加しようと思う」


 惑わし眼鏡の効果を試してみたい。きっと、誰も王太子である私を発見できないだろう。


「カイはどうする? 私が行くからといって、無理に参加する必要はないが」

「同行します」

「無理はしなくてもいい」

「いえ、無理はしていません。私も、このイヤリングやクリストハルト殿下の魔技巧品の効果を確認してみたいのです」

「そうか」


 ならば、夕方まで休んでおくようにと命じておく。護衛も他の騎士と交替だ。


「クリストハルト殿下は、お休みになるのですか?」

「いや、私は――」


 突然、扉が叩かれる。カイがどうかしたのかと声をかけると、思いがけない返答があった。


「フェリクス殿下がいらっしゃっています」

「フェリクスだと!?」


 なぜ、ふたつ年下の我が弟フェリクスが魔法学校の寮にいるのか。惑わし眼鏡を外してから慌てて扉を開くと、瞳を輝かせるフェリクスと視線が交わった。


 私よりも薄い色合いの金髪に、海のように濃い青の瞳――まったく似ていない端正な顔立ちは、母――王妃殿下にそっくりである。

 半年前に会った時よりも、ぐっと背が伸びていた。


「フェリクス!?」


 名を口にしたのと同時に、フェリクスが魔法学校の制服をまとっているのに気づく。

 フェリクスは少し照れくさそうに微笑んでいた。


「お前、どうして魔法学校に!?」

「驚きました?」

「ああ、驚いた。しかし、お前は――」


 フェリクスは誰よりも賢く、魔法の適性が高いのではないかと周囲の期待も高かった。

 けれども、フェリクスの魔力は人並み以下で、魔法を習得しても大した力は揮えないだろうと判断されていた。

 これまでの人生で、フェリクスが魔法学校に入学してくることはなかったのに、どうして? 


「兄上様と一緒の学校に通いたくて、国王陛下にお願いしたのです」

「そんな理由で、魔法学校に入学したのか?」

「だって卒業したら、兄上様はアウグスタと結婚するでしょう? そうなったら、甘えられなくなりますし」

「お前は……」


 第二王子であるフェリクスは、なぜか私を好いている。特に優しくした記憶はないのにどうしてなのか。

 私が愛人を王宮に連れ込んでも、アウグスタを婚約破棄しても、フェリクスは態度を変えなかった。

 何回目かの人生で処刑される前日も、フェリクスは私を逃がすための計画を練っていたと獄中で話を聞いた。計画は実行前にバレて、処刑日当日は軟禁されていたようだ。


 実を言えば、王太子である私を支持する者と、第二王子であるフェリクスを支持する者の派閥が存在する。フェリクス派は少数なので、国王陛下も問題とせずに放置しているのが現状だ。


 大人達の複雑な思いが錯綜しているものの、フェリクスは天真爛漫な様子で私を慕っていた。


「僕、新入生の挨拶をしたんです。そのあと、兄上様からお言葉を賜れると思っていたのに、代読でガッカリしました。どうして始業式にはいらっしゃらなかったのですか?」

「それは――」


 カイが一歩前に出て、説明してくれた。


「クリストハルト殿下は具合がよろしくなく、部屋で安静にしていたのです」

「カイ・フォン・ヴァルヒヘルト、お前には聞いていない!」


 別人のような口調でカイを注意するフェリクスを前に、どうしてこうなったのかと眉間に皺が寄ってしまう。

 ずっと以前から、フェリクスはカイを敵対視しているのだ。


「カイの言うとおりだ。午前中は気分が優れなかった」

「でしたら、歓迎パーティーも不参加ですね」

「いや、歓迎パーティーは参加しようと思っている」

「本当ですか!?」

「ただ、人が多いから、私を見つけられるかわからないがな」

「わかります! 兄上様の周囲は、いつも多くの人達で賑わっているので」


 果たしてそうだろうか?

 惑わし眼鏡をかけていたら、さすがのフェリクスも発見できないだろう。


「フェリクス。学校は結界が張られているから、魔物の一匹すら侵入できない。かと言って、絶対に安全、安心ではない。日々、警戒を怠らずに過ごすように」

「はい、わかりました! 日々、命を守るように務め、王族として恥じない行動を、心がけたいと思います」


 最後に、フェリクスは姿勢を低くし、頭をこちらへ向ける。撫でてほしいのだろう。

 幼いころは頭を撫で回していたものの、ここ最近はしていなかった。

 微妙に恥ずかしい気持ちになったものの、私を慕って魔法学校にまでやってきたのだ。仕方がないと思い、頭をぐりぐり撫でてやる。


「兄上様、ありがとうございます。それでは、またあとで」

「ああ」


 フェリクスが帰り、安堵するのと同時に長椅子に腰を下ろす。


「カイ、フェリクスがすまなかった。まだ、子どもなのだ。許してくれとは言わないが、大目に見てやってくれ」

「いいえ、構いません」


 温厚なフェリクスが、なぜかカイの前でだけは激しい気性を見せる。

 これまでの人生では、そのような言動などなかったのに。


「カイ、フェリクスと何かあったのか?」

「いえ、思い当たる節がまるでありません」


 初対面のときから、あのような態度に出ているらしい。その現場を見るたびに注意しているものの、改める様子はないようだ。


「フェリクス殿下にもそりが合わない人間のひとりやふたり、いるでしょうから」


 再び、扉が叩かれる。今度は妹マリアンヌでもやってきたのか。

 警戒しつつ扉を開いたら、手紙が載った盆を持つ男子生徒が緊張の面持ちで立っていた。


「ク、クリストハルト殿下、こ、こちらを、お預かりしてまいりました」

「手紙か。誰からだ?」

「ル、ルイーズ・フォン・レーリッツ様からです」


 男爵令嬢ルイーズからの手紙に、一瞬目眩を覚えてしまった。

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