6
放課後、水飲み場に並んだ私と敷島くんの構図は、昨日のそれとほとんど同じだった。
ただし一つ違ったのは、呼び出したのが敷島くんではなく私だったことだ。
「敷島くん。昨日の答えをする前に、聞いて欲しいことがあるの」
私はうつむきながら言った。
敷島くんが静かにうなずく。
「あのね、私は男性の上半身……、特に胸……というか……おっぱいを描くのが好きなんだ」
「……は?」
私の奇妙な告白に、ぽかんとする敷島くん。
……そりゃそうだ。
そう思いながら、私は続ける。
「だから実は私が見ていたのは、敷島くんっていうより、敷島くんのおっぱいだったの。私は敷島くんのおっぱいを見てみたい、描いてみたいってずっと思ってたの」
私は自分の気持ちを言い切った。
敷島くんはしばらく、私の言葉の意味が理解できないようだった。
しかしその後、敷島くんはまわりをきょろきょろし始めると、おもむろにブレザーを脱いで、Yシャツを胸のあた
りまで一気にまくりあげた。
「えっと、なに? ……これでいい?」
そこには、私がずっと頭の中で思い描いていた通りの素敵なおっぱいが現れた。
私は敷島くんのおっぱいに目が釘付けになり、口元を手で覆って興奮した。
そんな私を見て、敷島くんは急に照れて赤くなり、Yシャツを下ろした。
敷島くんは呆れたような表情で私を見て、言った。
「……つまり、大葉は俺に自分の絵のモデルになって欲しかっただけだった。そういうこと?」
「あ、はい……。つまりそういうことです」
厳密にはだいぶ違ったが、違いを説明するのは面倒だったし、話がややこしくなりそうなので、私はそのまま肯定した。
すると、敷島くんは大きく溜め息をついてその場にしゃがみこんだ。
「あの……、敷島くん?」
「バッカみてぇ、俺……。大葉と両想いだって勘違いして一人で勝手に舞い上がって、告白までしちゃってさ」
頭を抱える敷島くん。
「ごめんなさい」
私は本当に申し訳なくなってしまって素直に謝った。
敷島くんはそんな私に振り返って見た。
「なぁ、一つ聞いていい?」
「何?」
「大葉が俺の胸が好きだってことは何となくわかった。けど、それって俺自身の評価とは別物なんだよな?」
「……どういう意味?」
私が尋ね返すと、敷島くんは少し目をそらして、顔を真っ赤にして答えた。
「大葉にとっての俺って、単なるおっぱいの付属物? おっぱいも俺も両方好きになってもらうことは出来ないの?」
敷島くんはすごい照れた表情をしながら、『おっぱい』という単語を口にした。
野球部らしい爽やかでかっこいいイメージの敷島くんの口から飛び出たその単語に、私の心は強く揺れ動いた。
その時、ふと私は敷島くんと目が合った。
初めてちゃんと敷島くんのことを見た気がした。
「大葉。いつかちゃんと俺のおっぱいだけじゃなくて、俺のことも好きにさせてみせるから、一度試しに俺と付き合ってくれないか?」
敷島くんが頬を真っ赤に染めながら、微笑んで私にそう言った。
私もそんな彼の仕草を見て、顔が赤くなった。
「……ごめん。たぶん、もうなっちゃってると思う」
私は言った。
瞬間、敷島くんは固まった。そして、笑った。
そんな彼を見て、私も笑った。
敷島くんは私に手を差し出し、その手を私はそっと掴む。
「それじゃあ、今度の休み、デートしようか」
敷島くんは笑顔で言った。
「……うん」
私は笑顔で答えた。
「あ! 敷島くん。でも、その前におっぱいを描かせて!」
「はぁ!? まぁ……、別に、いいけど……」
戸惑う敷島くんの手を引いて、美術室へと私は向かった。