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何かに集中したい時、あなたはどんなことをするだろうか。
誰の参考にもならないと思うけれど、私は何かを集中して考えたい時、ダビデ様のおっぱいを描くようにしている。
小六の時から数万回以上は描いたダビデ様のおっぱい。
高校生になった私は、もはや画像すら見ることなく、それをあらゆる角度で描けるようになっていて、ダビデ様のおっぱいを無心で描いていると、不思議と私の心は安らいだ。
ここで話を整理したい。
まず、途中経過はどうにせよ、敷島くんは私のことが好きらしい。
私も敷島くんのことは嫌いじゃない。……いや、むしろクラスの中では、かなり好感が持てる男子だと思っている。裏表のない、さっぱりとした彼の性格は、率直に言ってかなり好きだ。
そして、最も重要なことは、敷島くんが私のことを気になっている以上に、私は敷島くんのおっぱいが気になっているということだ。
しかし、敷島くんのおっぱいは敷島くんの一部であると考えれば、敷島くん本人に対する好意と彼のおっぱいに対する好意を分ける必要があるのだろうか。
……むしろ、敷島くん本人への好意とおっぱいへの好意は、足し算ではなく、掛け算なのではなかろうか。
そんな自分でも理解不能な論理が頭の中でもたげはじめた時――、
突然、スケッチブックに描いたダビデ様の右乳首が、私の頭の中へ直接話しかけてきた。
『大葉菜津。それは巨乳好きの男が、巨乳が好きだからという理由だけで、巨乳の女子と付き合うのと同じなんじゃないのかい?』
右乳首は紳士的な落ち着いた声で言った。
確かにそうだと思い、私はうなずいた。
『君がおっぱいよりも敷島くんのことが好きだというならそれもいいだろう。しかし、本当に君はそうなのか? おっぱいが好きという理由で敷島くんと付き合うことは、敷島くんを傷つけることになるんじゃないのかな?』
整然と正論を述べる右乳首に、私はもう一度うなずいた。
敷島くんを傷つけることだけはしたくない。
断ろう……、そう思った瞬間、今度はダビデ様の左乳首が私に話しかけてきた。
『ちょっと待て。もし敷島くんが彼氏になってくれたら、お前は敷島くんのおっぱいを見放題、描き放題なんじゃないのか? 向こうだってお前の見た目から好きになったんだ。おっぱいを理由に付き合うことの何が悪い』
左乳首は言った。
確かに……と、私は頬に指を当てて考え始める。
『ダメだ、大葉菜津! 左乳首の甘言に惑わされるんじゃない! おっぱいを描かせてもらうために付き合うなんて、そんなの敷島くんに失礼だ!』
『うるさい、右乳首! 本人同士が納得してそうするなら、利用し合ったっていいじゃないか!』
『そんなの健全な恋愛とは言えない!』
『何が健全だ! そんなのくそくら――』
ぱたん、と、
私はスケッチブックを閉じて、不毛な脳内一人芝居を強制終了させた。
(本当にどうしよう……)
結局、いくら考えてみても結論は出なかった。
ふと部屋の時計を見てみると、時間は午前零時を過ぎていた。
一度寝れば、頭がすっきりして何か良い考えが浮かぶかもしれない。
そう考えた私は、部屋の明かりを消し、ベッドの中へもぐりこんだ。
目を閉じると、私の脳裏に敷島くんのおっぱいが浮かんだ。
私のことが好きらしい敷島くん。
敷島くんのおっぱいが好きな私。
生まれた時から一緒にいる敷島くんとおっぱい。
なんだかちょっと三角関係みたい。
(……相当疲れてるな私。さっさと寝よ)
私は不意に気持ちの悪いポエムを思いついてしまった自分に苦笑いをし、ゆっくりと呼吸をして気持ちを落ち着かせてから眠りについた。