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生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない  作者: しめさば


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もふもふアニマルビレッジ

 コクセイの一族と別れ、その余韻を引きずりつつも、ベルモントの酒屋で土産用の酒を選んでいた。

 スタッグ産ではないのが玉に瑕だが、カイルは別にグルメというわけではない。恐らく飲めればなんでもいいのだ。


「ミア。どれならスタッグ産と言ってもバレなそうだ?」


「えぇ……。お酒なんか飲んだことないからわかんないよ……」


「だよなぁ……」


 こちらの世界の酒の知識は皆無である。仕方ない。こうなったら適当に高そうな酒を購入しよう。

 それなりの値段なら、たとえバレても文句は言うまい。


「オヤジ。これをくれ」


「ありがとうございます。いかほどご用意致しましょうか?」


「全部だ」


「……は?」


「この樽をまるごと頼む」


 ここの酒屋は量り売り。大きな樽に入った酒が棚にズラリと並べられ、そこから蛇口のような物を捻り、自前の容器に好きなだけ入れるというシステムだ。

 しかし、酒を入れる容器を持っていない。ならば樽ごと買えばいいだろうと考えたのだ。カネならある。


「お客さん、冗談はほどほどに……」


 俺の恰好はどう見てもお金持ちにはみえない。酒を樽で買っていく大口の客なんて貴族か飲み屋くらいなものだろう。

 店主から見れば冷やかしのようにも見えるはず。

 ジロジロと値踏みすような視線を向ける酒屋の店主であったが、それは俺の胸の辺りでピタリと止まる。

 恐らくは見たことがないだろう輝きのプレート。それは冒険者の最高峰たる証。


「――ッ!? もっ……申し訳ございません。すぐにご用意致します!」


 店主が奥からゴロゴロと転がして来た樽は、恐らく新品未開封の物だ。

 内容量は不明だが、正月にやる鏡開きで使う酒樽より大きく、ドラム缶より少し小さい位だから、おおよそ150リットルくらいだろう。

 その酒樽を言い値で買い取ると、店主はそれを馬車に乗せるのを手伝ってくれた。 コクセイ達と別れ、丁度開いてしまっていた馬車にそれを乗せ、酒屋の店主に見送られつつコット村へと馬車を走らせたのだ。



「九条殿、我らもここらでお暇させていただく」


 コット村へと近づくとワダツミが別れを告げ、白狐も重い腰を上げた。


「おや、なら私達もそろそろだな……」


 2匹の魔獣が立ち上がると、別れの挨拶とばかりに俺とミアに頬ずりを求め寄り添う。


「ワダツミも白狐も、ありがとうな」


「いやなに。これくらいなんてことはない」


「元気でな」


 ワダツミと白狐は会おうと思えば何時でも会える距離なのだが、コクセイとの別れが尾を引いてしまっているのか、車内は妙にしんみりとしていた。

 2匹の獣は走り続ける馬車から飛び降りると、仲間を連れ森の奥へと帰って行く。

 ミアはその後ずっとカガリを撫でていた。まるで別れの淋しさを紛らわせるかのように。


 紅く染まっていた空が紫へ、そして次第に暗がりへと飲み込まれた空は、地平線の先に見える淡くぼやけた光をより際立たせていた。

 松明の炎が燃え盛る村の入口。『プラチナプレート冒険者の住む村! コット村へようこそ!』の看板が見えて来ると、帰ってきたという実感が湧いて来る。

 その看板の隣。村の西門から手を振っているのはカイルだ。俺達の帰りを誰よりも先に気付いたのだろう。

 狩猟適性持ちのカイルがトラッキングスキルを用いれば、魔獣のカガリに逸早く反応を示すからだ。


「おかえり。九条、ミアちゃん」


「ああ、ただいま」


 カイルは俺達が帰ってきたことを喜んでいると言うより、お土産の方が気になっているみたいだ。

 俺達よりも後ろの馬車の方に目線が泳いでいた。

 馬車の一団が村のギルドの前で停止すると、ギルドからはソフィアが迎えに出て来ていた。


「九条さん、ミア。おかえりなさい。大変だったそうですね」


「ただいま、支部長!」


「ただいま帰りました。報告はどうします?」


「荷下ろしの後で大丈夫ですよ。今日はもうギルドは閉めちゃいますので」


「すいません。ではそうします」


 ソフィアは、ギルド本部からの連絡である程度の出来事は知っているようだ。

 カイルが村の門を閉め、小走りで駆け寄って来ると、従魔用飼料の積み下ろしを手伝ってくれた。


「これはどこに運ぶ?」


「ひとまずギルド前に積んでおいてくれ」


「九条の旦那! コレは何処に?」


 御者の男が指差したのは、金貨の入った複数の革袋だ。


「そうだ、ソフィアさん。ギルドってお金を預けておけるんですよね?」


「ええ、大丈夫ですよ。いかほどですか?」


「じゃぁ、金貨で3000枚ほどお願いします」


「「さ……3000!?」」


「あ、支部長。私は5000枚でお願いします」


「「ご……5000!?」」


 金貨が1000枚あればそこそこ立派な家が建つ。この日より村1番の金持ちはミア、そして俺が2番目だ。2人が驚くのも無理もない。

 結局、従魔用の飼料の置き場は自分の部屋にはなく、ソフィアには申し訳ないが、またしてもギルドの部屋を借り、其処へ一時的に保管しておくという形になった。


「九条、この樽は何処に持って行きゃいいんだ?」


「ああ、そうだ。それはカイル用の土産だ。是非受け取ってくれ」


「マジかよ! これ全部か!? さすが金貨を3000枚も持って帰ってくる男はやることがちげぇや!」


 カイルは酒樽にキスすると、それをゴロゴロと転がしながら嬉しそうに食堂へと運んでいく。


「ん? 持ち帰らないのか?」


「何言ってんだよ。今から飲むに決まってんだろ? 九条達も晩飯はまだだろ? 荷下ろしが終わったら一緒に呑もうぜ」


「そうだな。そうするか」


 ふと笑みがこぼれた。誰にも気を遣う必要のないこの雰囲気の方が、俺には合っているのだろう。

 貴族位の話を蹴ったのは勿体なかったかな? とも思っていたが、そんな考えはすぐに消えた。

 張り切るカイルと、荷下ろしを手伝ってくれた御者達へのせめてもの礼として晩飯を御馳走する。

 カイルの土産に買った酒は高いだけあって美味かった。そしてカイルはそれをベルモントで買った物だとは気付かなかったのである。


「九条、あんまりデカイ声で騒ぐなよ?」


「なんでだ?」


「村の奴にバレたら全部なくなっちまうだろ!」


 確かに大宴会になれば、この大きな樽も一晩でなくなってしまうだろう。

 結局、土産の酒はその場にいた者達で分け合いながら、小さな宴会を楽しんだ。

 飯が終わると、酒が入った所為かギルドへの報告も忘れ、俺とミア、そしてカガリは自分の部屋で泥のように眠ったのだ。



 次の日の朝、部屋の扉を勢いよく叩く音で目が覚めた。


「九条さん! 起きてください! 早く!」


 ソフィアの声だ。それで思い出した。

 やべぇ、報告忘れてた……。


「はいはい、今開けまーす」


 寝ぼけ眼のまま扉を開けると、不意にソフィアにその腕を掴まれ、グイグイと引っ張られる。


「早く! 早く来てください!」


「えっ!? ちょ……ちょっと!」


 抵抗することは出来たのだが、その切羽詰まった表情は何か不測の事態が起きた事を匂わせていた。


「ミアとカガリは後から来い!」


 すぐに頭を切り替え、そのまま引っ張られながらも部屋を出る。

 ミアはテーブルの上に置いてあった魔法書を、カガリはメイスを咥えると、瞬時に俺を追いかけた。

 階段を駆け降り食堂から外に出ると、3匹の魔獣とその仲間達が唸り声をあげ、睨み合っていたのだ。


「……何してんだよ……」


 そこにいたのは昨日別れた従魔達。白狐にワダツミ、それとコクセイである。


「おお、いいところに来た九条殿、こうなったら九条殿に決めてもらおうではないか」


「いいだろう。結果がどうであれ、九条殿の言うことには従えよ?」


「うつけ共が……。人から見ればウルフ族は敵だ。私達以外は無理だとわからぬのか……」


 なんで魔獣達がいるのかはさておき、昨日の今日でもう再会とは……。感動の別れは何処に行ったんだ……。


「で? 何しに来たんだ?」


 盛大にため息が漏れた俺に対し、ミアはちょっと嬉しそう。

 俺は食堂備え付けの長椅子にドカっと腰を下ろし肘を膝に置くと、不躾な目を従魔達に送る。


「俺達は九条殿の従魔となったのだ。この首にかけてあるプレートという物があれば人間の街に入ることが出来る」


「ああ、人に迷惑をかけなければな」


「ということは、俺達にとってそこは未開な土地。そこを新たな縄張りにしようとやって来たのだ」


「コクセイ! 外の森は我等の縄張りだ。その森に所縁のあるこの村も我等が縄張り。この意味が解らんとは言わせぬぞ!」


「何をバカな! 森と村はどう考えても繋がっていないではないか! そんな言い訳が通用するとでも思っているのか!?」


「九条殿、バカなウルフ達は放っておきましょう。人間に無害な私達こそ、ここを縄張りとするべきです。そうでしょう?」


「……つまり、お前達はこの村を縄張りにしたいと、そう思っているわけか?」


「そうなのだ! やはり九条殿は話が早くて助かる」


 またしても盛大な溜息が出た。


「あのさぁ……。強いて言うなら村は人間の縄張りだよ。なんだよ新たな土地って……」


「「あ……」」


「あ……。じゃないよまったく……。解散しろ解散」


「ええー。コクセイ帰っちゃうのー?」


 ミアはコクセイに駆け寄ると、無理矢理その体によじ登る。

 カガリより一回り大きいコクセイは、ミアだと乗るのにも一苦労だ。


「帰れとは言ってない。居てもいいが、縄張り争いはするなってことだ。村の中は中立地帯にすればいいじゃないか。それでも不満なのか?」


 コクセイ、ワダツミ、白狐の3匹はお互い目を合わせると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ頷いた。

 村は人間の土地。そんなこと言わずともわかる事だ。だが、そうでも言わないと格好がつかないのだろう。

 ウルフ族の誇り故に、素直に口には出来ぬ想い。それは俺と一緒にいる為のポーズなのだ。

 それに俺が気付かないとでも思っているのだろうか?


「九条殿がそう言うのであれば仕方ないなぁ」


「うむ。九条殿が言うから仕方なく休戦するのだ。仕方なくだぞ?」


 わざとらしいにもほどがある。どうせ俺にしか言葉はわからないのだから、くだらない小芝居なぞせずともよいのだが、その表情はどこか嬉しそう。

 それは従魔達だけではなくミアも満面の笑みを浮かべ、コクセイをひたすらに撫でていた。


「おにーちゃん。折角だからみんなで御飯にしようよ!」


「おお、それは良い考えだミア殿。是非そうしようではないか! なあ、九条殿?」


 切り替えの早いことではあるが、正直それは助かる。

 ギルドから貰った従魔用の飼料は、カガリだけで食べきれる量ではない。腐る前に処分するには願ってもない機会だ。


「しょうがねぇなぁ……。今持ってくるからちょっと待ってろ」


 従魔用飼料を取りに、自分の部屋へと戻る。その足取りは軽かった。

 暫く会えないだろうと思っていた従魔達が戻ってきたのだ。俺だって嬉しくないわけがない。

 10キロ飼料1袋を肩に担ぎ降りて行くと、ミアとレベッカ、それとソフィアで従魔達に木製の皿を配っていた。

 その前に行儀よく座り、尻尾をパタパタとさせている従魔達の姿を見て笑みがこぼれる。ウルフの誇りは何処へやらだ。


「レベッカ、すまない。食堂で使っている皿だろう?」


「違う違う。これはミアに売ったんだ。その金で新しいのを買うから大丈夫だよ」


「なるほど。ミアらしいカネの使い方だ。俺も少しは出さないとな」


 飼料袋の封を開け、並べられた皿にザラザラと流し込んでいく。

 4匹の魔獣達にはちゃっかり大きいサイズの皿が置かれ、それを配り終えるとガツガツと食べ始める獣達。


「なんつーか、犬だなこりゃ……」


「ははは、可愛いじゃないか」


「可愛い? レベッカは怖くないのか? ウルフだぞ?」


「怖い? カガリでもう慣れたよ。プレートをしてるってことは従魔として認められてるわけだし、みんな九条の言うことを聞くんだろ?」


「まあ、そうだが……。ソフィアさんもですか?」


「ええ、まぁ当初よりは慣れましたね。そもそもプレートを付けた従魔を怖がるというのも変な話ですし」


 騒ぎを聞きつけ集まって来た村人達の表情も、恐怖というより興味の方が強そうに見える。その中には村長の姿もあった。

 そこで俺は、あることを思いついたのだ。


「村長! ちょっといいですか!?」


 俺に気付いた村長は、獣達の間を縫ってこちらへとやって来る。その様子からは、やはり獣達を恐れているようには見えなかった。


「呼びましたか? 九条さん」


「ええ、ちょっと相談なんですけど……」



 それから1週間が過ぎた。今日は村に新しい看板を掲げる日だ。

 村の門には大勢の村人達が集まって来ていた。

『プラチナプレート冒険者の住む村! コット村へようこそ!』と書かれていた看板を村の男衆が外し、ゆっくりと降ろされる。

 俺はそれを見て心の底からホッとした。その看板は後で解体して、食堂の暖炉へぶち込む計画である。

 そして新しい看板が同じところへ掲げられ、被っていた布が一気に外されると。感嘆の声と共に盛大な拍手が巻き起こる。

 そこに書かれていたのは、『もふもふアニマルビレッジ』

 …………いや、言いたいことはわかる。皆まで言うな。この名前はミアが考えたのだが、俺は止めたんだ。

 だが会合の結果、これになってしまった……。


 うやむやになっていたが、俺には1つの任務が課されていた。それは村おこしのアイデアを出さなければならないこと。

 村人達はカガリに慣れているおかげで、それほど従魔達を怖がってはいなかった。そこで俺は考えた。従魔達が村に居座るなら、逆にそれを村の売りにすればいいのではないかと。

 ウルフ達やキツネ達と触れ合える村。話題性は十分だろう。

 当たり前だが何か不測の事態が起きれば、俺が全責任を取る覚悟だ。

 その提案は見事採用されプラチナ云々の看板は撤去されたわけだが、御覧の有様である。

 ちょっとした猫カフェのようなものを想像していたのだが、この名前ではどう考えても動物園色が強すぎる……。


 会合で俺の村おこし案が採用されると、何故か看板に書く表題で揉めたのだ。

 俺案の『動物達と触れ合えるコット村へようこそ』と、村長案の『神獣の住まう村』と、ミア案の『もふもふアニマルビレッジ』だ。

 村長の神獣案はかなりの人気だった。確かに白狐やコクセイを見ればそう見えなくもないが、嘘はよくない。

 せめてコット村という文字を入れた方がいいんじゃないかという俺の意見も躱され多数決で争った結果、ミアの案が採用されたというわけ。


「どうなっても俺は知らんぞ……」


 隣でカガリに乗りながらもミアは村人達と一緒になって拍手をしていた。その嬉しそうな笑顔に、口出しなぞ出来るわけがないのである。


 それからというもの、コクセイ達は1度も西の森へと帰っていない。

 狩りをする時だけ外へとふらりと出て行き、日が沈むと村へと戻って来る。それはワダツミ達や白狐達も同じだった。

 いくら中立地帯とは言え寝床まで村の中にすることはないだろうに。

 夜になると獣達は我が物顔で食堂を通り抜け、階段を駆け上がる。

 ギルドの空き部屋が、ウルフ達とキツネ達の寝床になっているのだ。勿論俺の部屋も、足の踏み場がないほどに獣達で埋め尽くされている。


「そろそろ寝るか」


 ベッドで横になっていた俺がそう呟くと、カガリが狐火を消し、窓から漏れる朧げな月光が床一面に蠢く獣達を照らし出す。


「おやすみ」


「おにーちゃん、カガリ、白狐、コクセイ、ワダツミ、それと他のみんなもおやすみなさい」


 カガリを枕にしていたミアは笑顔でおやすみの挨拶をすると、満足そうに夢の世界へと旅立った。

 ベッドの周りには4匹の魔獣と大量の獣達。

 恐らく今日も暑苦しくて夜中に目覚めてしまうだろうなと考えながらも、俺はゆっくりと目を閉じた。


 今はまだここはコット村だが、その名もいずれは忘れ去られる時が来る。しかし、それはまだ少し先の話……。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


よろしければ、ブックマーク。それと下にある☆☆☆☆☆から作品への応援または評価をお願い致します。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直に感じた気持ちで結構でございますので、何卒よろしくお願い致します。

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