九条、グリンガム兄弟と対峙する
村の広場では、温かな午後の陽気を熱気に変えてしまうほどの野次馬たちで埋め尽くされていた。
何をしていたのか手桶を持ったまま駆けつけた者、仕事を放り出して肩を並べる者、子どもを肩車して背伸びする者――皆が目を輝かせ、中央を囲んでいる。
緊張と好奇心が入り混じったざわめきの中、日の光だけが淡々と地面を照らし、まもなく始まる一戦を待ち構えていた。
「三対一!? 相手はゴールドだぞ!?」
「いくらなんでも、ありゃないわ。弱い者いじめにならなきゃいいが……」
「そう思うなら、止めた方がいいんじゃねぇか? お前んとこの領主様だろ?」
「は? 何いってんだ。逆だよ逆」
「逆って……。まさか……三対一だぞ!?」
「知らねえなら黙って見てろよ。領主様が勝つに決まってんだろ。あまりデケェ声じゃ言えねぇが、魔王って呼ばれてるのは知ってるだろ?」
「そりゃそうだが、それは使役してる魔獣込みの話だろ?」
「カーッ! これだからトーシロは……。なんもわかっちゃいねぇな。見てみろ? そもそも立ち姿からして格が違ぇ。気付かねえのは、お前みたいなよそ者だけさ」
――そんな囁きが波のように広がり、野次馬たちの興奮は最高潮。
「どうしてこうなった……」
野次馬に囲まれた広場の中央。そこに立っているのは、俺と3人の冒険者。グリンガム兄弟である。
交渉に失敗した――訳じゃない。あの時、話は纏まりそうだった。それなのに、クリスが余計な一言をいわなければ……。
――――――――――
サーペンタインガーデンのVIPルームに漂う重苦しい雰囲気。
俺の言動に怖気づいたのか、黙りこくるグリンガム兄弟。
それならそれで状況を利用してやろうと、強めの圧をかけていく。
「……で、どうするんだ? ギルドにチクるか、無難にやり過ごすか……。まさか、この期に及んで嘘は良くない……なんて言わないよな?」
「……それは……」
「考えてもみろ。お前達もギルドに騙されていたようなもんだろ? オーガ討伐なんて言っておいて、裏では魔族を捕獲させようとしてたんだぞ? それが争いによる勝敗の結果であるなら、運命だと言えるのかもしれないが、相手は抗う事さえできない子供。捕獲というより誘拐だろ。違うか?」
俺の言葉に、ギャレットはわずかに気圧されたように肩を揺らす。
その反応を見逃すつもりなどない。今が好機だと間髪入れず言葉を重ね、迷いを断ち切らせるため一気に畳みかけた。
「お前達は、子供を攫ってギルドから報酬を貰い、それで満足なのか? その結果を他の冒険者に自慢できるのか? 俺達は魔族を捕えたんだと胸を張って言えるのか?」
腐っても冒険者だ。正義の味方……とまでは言わないが、盗賊や強盗の類でないことは確か。だが、やっていることはそれと一緒だ。
世界的に見れば、魔族に人権などないのだろうが、だからと言ってアミーを前に非道になりきれるかと言われれば、そうじゃなかった。
だからこそ彼等はアミーとクリスに力を貸した。
「ぐっ……」
ギャレットの顔が歪み、あと一押し――と思ったその時だ。
中々前へと進まない話し合いに業を煮やしたのか、クリスが呆れたように口を出す。
「もう。まだるっこしいのは嫌だ……なんて言っておきながら、何を悩んでるの? 答えが出ないなら、冒険者らしく力のぶつかり合いで決めればいいじゃない。勝った方が言うことをきく。シンプルイズベストでしょ? ホラ、前に言ってたじゃない。魔王って言っても所詮は人間。寝首を搔いてやる――とかなんとか……」
それを聞いたギャレットの顔色は一気に変色。視線は泳ぎ、声はいきなり裏返る。
「――ッ!? いや! それは……言ったような……言ってないような……」
それが本心なのか。それとも、クリスの前で強がっただけなのかは知らないが、どうにか誤魔化そうとするその態度があまりにも必至で、隠したいものほどこうして露わになるのだろうと、誰の目にも明らかだった。
とはいえ、俺は陰口を叩かれた程度で怒り狂うほど子供じゃない。
ここは一つ。大らかな気持ちで笑って済ませようではないか。
「まあ、威勢の良さは冒険者の花みたいなもんだからな。本気じゃない事くらいわかってるから、そう気にするな」
俺がそう言うと、ギャレットの動作がピタリと止まる。
「……そりゃぁなにか? 俺たちが口ほどにもねぇ――と。そう言いてぇのか?」
「いや、そういう意味じゃ……」
俺がそれを言い終わる前にギャレットが急に立ち上がると、ジョッキに残っていた酒を一気に飲み干し、それをテーブルにドカンと打ち付ける。
「よぅし、わかったッ! 俺も男だ! やったろうじゃねぇか!!」
――――――――――
……と、いうことがあったのである。
もうすでに胃が痛い……。
「こちら側が求めるルールは、己の身一つで戦うこと! それと命を奪うことも禁止させてもらう」
俺に向けてビシッと指を突き立てるギャレットだが、その言い分はちょっと情けなさすぎやしないだろうか?
「まぁ、勝ち目がなくなるってのはわかるけどさ……。それ、ずるくない?」
従魔たちに加えて、ファフナーや死霊術で生み出す戦士たちまで封じられると結構痛い。
俺だって、この世界に来たばかりの頃の俺ではない。
暇を見つけてはバルザックから魔法に関する知識を学ばせてもらっているし、ゲオルグからも武芸のなんたるかを指南してもらっているのだ。
故に戦えない訳ではないのだが、楽にはいかなそう……というのが正直なところ。
「俺からもルールを追加させてくれ。飛び道具と広範囲に及ぶような攻撃は禁止。もちろんそれに属するスキルもだ」
「ふふふ……俺たちにビビってるのか?」
「あぁ、そうだよ……」
俺はただ、周囲への影響を憂慮しただけである。
ギャレットの強がりに、そんなわけねぇだろ――と言いたいところではあるが、もう反論すら面倒くさい。
「さっさとかかってこい。怪我の治療費は払わねぇから、そのつもりでな」
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