ギャレット、九条の地雷を踏む
「それは、これからの話し合い次第……そうだろ?」
「そうだな。……座っても?」
「ああ」
ギャレットたちの対面に位置するソファに皆で腰を下ろす。
真ん中に俺。その左右にクリスとフードルにアミーだ。
「さて、どこから話そうか……」
こちらの目標は、グリンガム兄弟の懐柔だ。キャラバンでの出来事をギルドに報告されては困る。
相手を動かすには、言葉を並べる順番ひとつすら侮れない。
どこから切り出し、どこで踏み込み、どこで引くか――その段取りこそが、説得の成否を左右すると言っても過言ではないだろう。
最悪、敵対する事になるかもしれないが、出来ればそれは避けたい。それが、クリスとアミーの願いでもあるからだ。
「まどろっこしいこたぁ好かねぇ。単刀直入でいいぜ? その代わり、俺たちも聞きたいことは聞かせてもらうがな」
「聞きたいこと?」
「……恐らくはお前達と一緒。ギルドの事だよ。今後、お前達がどう出るのかでこっちの動きも変わってくるしな」
なるほど。確かに擦り合わせは必要だ。
「こちらとしては、今回の事を公にするつもりはない。お前達も冒険者を続けたいだろ?」
「……だから黙っていろと?」
「結果から言うと、そうだ。どちらにとっても妥当な落としどころだと思うんだが……」
「それは……脅しか?」
「違う。あくまで一つの提案だ。最終的に判断するのはそっちで、俺は強要も強制もしない。こちらにはこちらの言い分があり、もちろんそちらにもあるだろう。だから、お互いがより良いと思えるような方法を模索しよう――と言っているだけだ」
今回の呼びかけに応じない――という選択肢もあったにもかかわらず、こうして交渉の場に顔を出してくれているのだ。恐らくだが気付いているのだろう。
俺たちがアミーを保護した――という事実をギルドに知られると、キャラバンの生き残りであるグリンガム兄弟にもいらぬ疑いが掛けられる。
つまり、俺たちの不利になるような証言は、最悪自分の首を絞めることにもなりかねないということだ。
「仮に……俺が魔王で、君たちが自分の正義を信じ、あるいは信念を貫き、ギルドにありのままを報告したとしよう。それは賞賛に足るものだとは思うが、恐らくギルドの反応はそうじゃない。彼等がまず君たちに聞く事は、アミーやクリスから余計な知識を植え付けられていないか――だ……」
ギルドが地下で魔族を飼い、そこから得た技術を、さも自分達の発明であるかのように豪語し頒布していたとなれば、信用問題は免れず、炎上間違いなしである。
グリンガム兄弟がアミーと接触したとすれば、それを知られた可能性を考慮し、対応するはずだ。
「そもそも、それは本当なのか? プラチナの錬金術師が魔族で、アミーの父親だってのは……」
「恐らくな。王都のギルドをクビになった支部長が、現在俺の……領主の右腕として働いてくれているんだが、彼からのリークやオーガたちの話。魔具と呼ばれる物の性質等を総合的に判断した結果、間違いないと思う……。証拠になるかはわからんが、ベリトの作った魔剣は王都スタッグのギルドからシルトフリューゲルへと運ばれている最中に奪われた物。300年前という時代背景も一致する」
黒翼騎士団がその輸送馬車を襲い、手に入れた物だということは、本人たちから聞いている。
「幸い、ギルドの連中はアミーの顔を知らない。知っているのはキャラバンの生き残りであるお前達と、俺の関係者だけ。当然俺たちから情報が漏れることはない。……だったら、正義感を貫き危ない橋を渡るよりは、無難な道を選んだ方が得策じゃないか?」
「嫌だと言ったら? 俺たちを殺すか?」
「まぁ、それが面倒もなく一番賢いやり方だとは思うが、そんなことはしないさ。最初に言ったが、こちらとしてはクリスとアミーの救助に尽力してくれたことに感謝しているんだ」
「じゃぁ、どうする?」
「そうだなぁ……。面倒なことになったなと思って、次の一手に頭を悩ませる日々が続いて胃が痛くなるんじゃないか?」
現実問題あり得る話。そうなったらそうなったで最善の索を考え出すまでだが、ストレスで体調は崩しそうだ。
「そういうことを言ってるんじゃねぇ。俺たちに対してどうするのかを聞いてるんだ」
「別にどうもしないが? 交渉が決裂した結果そうなっただけの話で、法に触れてるわけでもない。君たちに対する報復措置なんて考えてないから安心してくれ。俺たちの相手が、君たちからギルドに変わるってだけの話だ」
「そんなわけねぇだろ。きれいごとを抜かすんじゃねぇ。この場に俺たちを呼びつけたのは、それを阻止するためだろ? こういう時は、脅して口を封じるってのが定番だろうが」
「そう言われてもな……」
グリンガム兄弟はサディストなんだろうか? それとも、そういう世界に生きてきて誰も信じられなくなっている――とか?
確かに、報復はしないと公言している俺たちに遠慮している……もしくは、罪悪感で報告し辛い……というのはあるかもしれないが、なぜ俺がそのわだかまりを解消させるために、報復手段を考えねばならぬのか……。
「何かしらの報復が必要なら……そうだな……。君たちグリンガム兄弟が実は俺達の仲間で、スパイとして冒険者ギルドに潜伏させている――って、噂を流す……とかどうだ? 地味に効くだろ?」
ギャレットが俺たちのことを報告し、ギルドがどういった判断を下すのかは知らないが、経験上、ギルドは保身に走るだろう。
今回のキャラバン失敗は、口を封じる口実としては丁度良い。その責任をグリンガム兄弟に擦り付け、プレートを剥奪。冒険者としての信用を失墜させれば、誰も彼等の話に耳を傾けなくなる。
それでも尚ギルドに不利益をもたらすと思われれば、最悪もあり得る。
報復としては弱いかもしれないが、俺がやろうとしていることは、ギルドと似たようなものである。
グリンガム兄弟が俺たちのスパイだという噂が広まれば、その疑いを晴らすのは難しい。当然その信用は揺らいでいき、徐々に孤立し始める。
ただ一つ。違う点があるとすれば、命までは奪われないということだ。
それはあくまで噂に過ぎず、確証などないのだから。
「……はっ! 流石は魔王。汚ねぇ手を考えやがるじゃねぇか」
「そうだろう? 俺も身をもって経験しているから、効くんじゃないかと思ったんだよ。俺の気持ちも理解出来て一石二鳥……。そうは思わねぇか?」
そう。これは俺を魔王と呼び、諸悪の根源として世界から孤立させよう――などと考えた奴とまったく同じ手法である。
しかも、俺の場合は信用をなくすなんて、生易しいものじゃなかった。
軽い口調で始めた言葉も、声の温度が静かに下がり笑みの影が薄れると、やがて俺の口元からは一切の感情がなくなった。
その言葉の意味に気付いたのか、それとも俺の鋭い視線がそうさせたのか……。ギャレットの唇はかすかに痙攣し、声になる前の息だけをかすかにこぼす。
結果、ギャレットたちは、またしても黙り込んでしまったのだ。
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