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生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない  作者: しめさば


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アミー、村デビューする

 生まれてからずっと、薄闇に沈む地下ダンジョンしか知らなかったアミーにとって、地上の村は眩しいほど鮮やかに見えることだろう。

 家々の木壁、風に揺れる麦畑、遠くで響く水車の音――そのすべてが斬新で、首が捥げてしまうんじゃないかと思うほどに落ち着きがない。

 もちろんそれだけではないだろう。その行動の半分程度は警戒もしている。そのせいか、足取りはほんの少しだけぎこちない。

 村人たちの好奇の視線が集まるのは、仕方のない事である。


 だが、そんな緊張を吹き飛ばすように、陽気な声が飛んできた。


「まあまあ、可愛らしいお嬢さんだねぇ! この娘……フードルさんとこの孫娘かい?」


 通りの端で呼びかけてきたのは、丸い頬に優しい笑みを浮かべたおばさんだ。

 ただでさえ珍しい魔族の住人。それが増えたとなれば気にならないわけがない。しかもまだ子供だ。


「いや、そうではないんじゃが、これから村で世話になる予定じゃ。のう、アミー?」


 クリスの後ろに隠れながらもコクリと頷くアミー。

 そんな対応にも嫌な顔一つせず、おばさんは背負っていた大きな籠をよいしょと降ろす。


「そうなのかい? それじゃぁこれはお近づきの印だ」


 籠からつやつやとした果物をひょいと取り出したおばさんは、それを勝手にアミーの手のひらへ乗せる。

 しかし、それだけでは終わらない。


「食べ盛りなんだからもっと食べないと!」


 おばさんの手が籠とアミーとを往復し、気が付くとアミーの両手には溢れんばかりの果物の山。


「あの……これ以上は……」


「え? なんだって?」


「えと……ありがとう! ……ございます……」


 勇気を振り絞ったアミーの言葉に満足したのか、おばちゃんはその手を止めるとアミーの頭を豪快に撫で、俺に一礼して去って行く。


「嵐のようなおばさんだったな……」


 なんとなく予想はしていたが、初っ端にしてはパワフルな邂逅だったのではないだろうか……。

 有無を言わさず押し付けられた果物を抱え、立ち尽くすアミーは申し訳ないが滑稽だった。


「アレは少々特殊じゃが、ここの村人は皆あんなもんじゃ。魔族を恐れる奴は最早いまい」


「なんで……」


「お互いを理解しているから――じゃろうな。ホレ九条、なんと言うておったか……む……む……無能?」


「無明と和合だ……」


「そうそれじゃ」


「ムミョウ……と、ワゴー?」


「ああ。無明とは”無知から起こる恐れ”のことを差し、和合とは”違う者同士でも理解しようとすれば共存できる”という理念のことだ。姿形が違うからこそ未知を恐れる。それは人間だけじゃない。獣や魔物、魔族だって変わらない本能のようなものだろう。相手を知ろうとするよりも、拒み攻撃するほうが簡単だ。だが、互いを知りさえすれば、敵意など必要ない事にも気付ける。大事なのは、僅かなきっかけと歩み寄る姿勢を見せること――なんじゃないか?」


 光がなければ闇を恐れるように、互いを知らなければ疑いが生まれ、恐れに繋がる。

 恐怖だけではない。苦しみや怒りも、多くは無知から生まれると、仏教は説いているのだ。

 しかし、ひとたび相手を知り、胸の内にあるものを理解すれば、憎しみは薄れる。互いに違うようで、実は同じ恐れから拒絶し合っているだけだと気が付くからだ。

 人と魔族が顔を合わせ、言葉を交わし、日々の営みを分かち合う。その積み重ねが無明を少しずつ払い、恐れを理解に変える。

 だからこそコット村では、種族の垣根を超え、多くの者達が肩を並べて暮らせているのだろう。


「あー……。少し難しかったか?」


 まるで思考が一瞬止まったかのように、口元をわずかに開けたまま固まるアミー。

 驚きとも感心ともつかぬ表情で、ただ呆然と俺の顔を見つめている。


 しかし次の瞬間、その表情はゆるやかに柔らぎアミーはまぶたを瞬かせると、キラキラと目を輝かせ祈るように両手を合わせた。


「確かに! さすがは魔王様!」


 凄まじい脱力感が俺を襲う。

 俺の言う事を理解し、共感してくれたのだろうことには安堵したが、その返しが全てを台無しにした――と、言っても過言ではない。


「……いや、だからさぁ……」


 ワザとなのか、それとも本気なのか。その表情は冗談を言っているようには見えないのだが……。

 アミーがどういう子なのかは、まだ見極めの段階なのでなんとも言えないところだが、子供相手に本気になるのも違うような気もする……。


「え? 陛下とは呼んでませんよ?」


 確かにそうは言ったが、もちろんそういう意味ではなく、根本的な問題なのだが……。


 ここはやんわりと、訂正しておくべきだろうと思った矢先、次々と現れる村人にその機会を阻まれる。


「おや? 領主様の客人かい?」

「ほれ、これも持って行きな!」


 等の声が上がり続け、気付けばアミーの細い腕には折れてしまいそうなほどの籠や包みが積み上げられていた。

 山盛りの果実に、ぎっしり詰め込まれた野菜、さらに焼きたての温かな菓子まで。

 その重みにアミーの腕はぷるぷると小刻みに震え、それはもはや歓迎というより試練である。

 積まれた荷はアミーの顔を完全に覆い隠し、前方確認すら危うい有様なのだが、その表情に笑顔が灯っている事は想像するまでもないだろう。


 荷物の山に隠れながらも、アミーは村の温もりを、全身で受け取っていたのである。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直に感じた気持ちで結構でございますので、何卒よろしくお願い致します。

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