九条、エルザと今後を話し合う
「で? エルザはなんで黙ってた?」
「はて? なんのことかのぉ?」
リリーとの話し合いを終え、ネクロガルドの隠れ家でもある小鳥の楽園で夜を待つ。
アミーとアシュラは先にコット村へと向かったが、オーガたちはその数故にそうはいかない。
その脱出作業。深夜、オーガたちを乗せた馬車で王宮を目指し、そこからファフナーでまとめて荷台ごと運び出すことにしたのだ。
「俺がサザンゲイアに向かった後、陛下にオーガたちのこと話したんだろ? ネタは上がってるんだぞ!?」
テーブルの上にライトがあれば、それでエルザの顔を照らし、かつ丼でも食わせてやりたい場面。
別にそれ自体を責めるつもりはない。ただ、話してしまったのなら、何故それを俺に報告しなかったのか……。
「別にええじゃろ。むしろ話しておいて良かったんじゃないかの?」
結果から言えば、リリーが知っていたおかげで、大きな騒ぎにならずに済んだのは確か。
「俺の計画が上手くいっていれば、陛下が知らずとも、なんとかなっていたんだ」
「それが上手くいかなかったんじゃろ?」
「ゔ……」
認めたくはないが、それはそう。クリスがグリンガム兄弟に情を移さなければ、恐らく上手くいっていた。
「クリスを叱責するのか? 可哀想にのう。一生懸命に任務をこなしたというのに……」
「誰もそんなことは言ってない」
「むしろお主がクリスに謝るべきではないのか? エルフが攻めてくるかもしれないこと。言ってなかったんじゃろ?」
「そりゃ仕方ねぇだろ。クリスとの接触は不可能だ。あくまで無関係を装う必要があったんだからな」
クリスが任務に失敗し、脱落した時の保険として、ガストンに魔石の情報を流した。
エルフと冒険者が争えば、どちらも無傷とはいかないはず。
仮にエルフが生き残れば、俺が直接手を下してもギルドに俺の存在は隠し通せるし、冒険者が残ればネクロガルドの構成員でも太刀打ちできる程度には数を減らしていたはずである。
とはいえ、今回の計画が色々とズレてしまったのは、俺がクリスを信じ切れなかった事が原因でもあるだろう。
「ここだけの話、クリスがそんなに頑張る奴だったとは思わなかったんだよ! お前もそう思うだろ!?」
「イッヒッヒ……同感じゃ」
ちょっと前までは自立を拒み、家の温もりに甘えてたクリス。王都への移住という吊るしたニンジンが魅力的過ぎたのか、何か心境の変化があったのか……。
過程はどうあれ、結果は賞賛に値する。
「なんだったら、今後クリスの世話はワシ等が担当しよう。アミーだけじゃなく、オーガもキッチリ救助したからの」
「まぁ、好きにすりゃいいとは思うが、お前はクリスの錬金術が目当てなだけだろ?」
魔剣であるイフリートを分解し、新たな魔道具を作り上げるほどの技術力は、最早駆け出しとは口が裂けても言えないレベル。
クリス曰く、ベリトの残した書籍を読み漁っただけらしいが、その胸元で揺れるブロンズプレートは、輝きをなくすほどに黒ずみ、最早ブロンズでない事は確実だった。
「なんじゃ? 反対せんのか?」
「そりゃ、どうするのかは本人次第だからな。自分の人生だ。ただ、王都に移住するまではウチの領民だってことは忘れるなよ?」
「普段は領主など柄じゃない――などと言っておきながら、こんな時は領主面か?」
「当たり前だ。領民の安全を守るのは当然だろ? それとも何か? 非人道的な事をやろうとでもしてるのか」
「そんなわけなかろう。悪いようにはせんよ」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるエルザだが、その言葉に嘘はないだろう。
もうエルザとも長い付き合い。怪しさは満点だが、もう慣れた。
ネクロガルドの目指すところにブレはないのだろうが、こちらの不利益になるようなことはしないし、仮にクリスがネクロガルドに加入したところで、その役どころは錬金術師。今回のように前線に送られるようなことは決してない。
「それよりもお主、ギルドの方はどうするんじゃ?」
「そうなんだよなぁ……」
キャラバンが解散してくれれば、後処理もほぼ必要なく、手っ取り早かったのだが……。
クリスとグリンガム兄弟は、帰還してしまっている。当然ながら、ギルドはキャラバンに起こった出来事を聴取するだろう。
「ダンジョンは崩落していて進めなかった。エルフに襲われて命からがら逃げてきた――って方向で口裏を合わせるのが理想だが……」
問題はグリンガム兄弟が、それに乗ってくれるかである。
俺に直接の面識はないのだが、過去シャーリーとひと悶着あったらしく、クリスの話だと俺は結構恨まれているらしい。
現在はギルドに顔を出されると困るため、王宮にて来賓待遇で過ごしてもらってはいるのだが……。
「コット村に帰ったら、面会の場を設ける。カネで解決できればいいが……」
まるで拝金主義者。なんとも汚い大人のような思考に陥ってしまい、自己嫌悪に陥るも、それが最も有効な手段であるのも確か。
「記憶を消してほしけりゃワシに言え」
「最悪は、そうするかもな……」
クリスからはやめてほしいと言われてはいるが、それもグリンガム兄弟次第。
彼等の口が堅ければよいのだが……。
「たっだいまぁ!」
そこへ元気な声と共に部屋へと入ってきたのは、ミアとカガリと噂のクリス。
「どうだった?」
「うん。こっちは大丈夫そう。ヒルバークさんも王宮に帰ったよ」
ミアとクリスには、旧ロバート邸に住んでいたゼペット夫妻の説得――いや、正確には“買収”を頼んでいた。
表向きには迷惑料として、裏では口止め料として、誰も文句を言えず、且つ不自然ではない金額を用意した。
その交渉にヒルバークを同行させたのは、彼が王宮の親衛隊であり、信用を得やすいという理由からだ。
加えて、オーガたちの処分を騎士団が行ったという“建前”を通すためでもあった。
パタパタと駆け寄り、俺の上に座るミア。そんなミアとは対照的にクリスの表情は曇り気味だ。
「クリスは、まだ決心はつかないか……」
「うん……」
クリスは本当によくやってくれた。その成功報酬は、王都への移住を支援すること。
もちろんその約束を違えるつもりはないのだが、本当に王都に居住することだけが目的なら、住居は必要。
旧ロバート邸は既にゼペット夫妻が住んでいる為、別の家を探す必要がある。
コット村に帰るまで多少時間があるのだから、その間に候補地でも巡ってみたらどうかと提案していたのだ。
「まあ、急ぐ必要もないだろう。一度は村に帰るんだ。ロバートも心配してるだろうしな」
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