クリス、絶体絶命!?
「うぉぉぉ! がんばれ私ぃぃッ!」
オーガたちを連行するギャレットたちから離れ、街中を爆走するクリス。
ギャレットとオーガたちが民衆の注目を集めている今、クリスは勝手知ったる地元の土地勘を生かし、単独行動を任されていた。
――――――――――
旧ロバート邸に住んでいた老夫婦を不憫に思いながらも身動きが取れないよう縛り付けると、適当な部屋に閉じ込め作戦会議。
「ブルーノさん……。そうは言うけど、捕らえたオーガを街の外に連れ出すのは不自然じゃない?」
「まぁ、そうだろうな。衛兵だって馬鹿じゃねぇ。故にやらなきゃならねぇことは三つ。移動用の馬車の確保とオーガたちを匿う拠点。それと脱出する為の根回しだ」
ブルーノは王都スタッグの手書きの地図をテーブルの上へと広げ、指を指す。
「今俺たちがいるのはココ。そして冒険者ギルドはココだ。オーガたちを連行するのは、ギャレットのアニキとロルフのアニキにやってもらう。それが冒険者ギルドに着く前に馬車を確保。オーガたちを乗せ、ひとまず姿を眩ませる」
旧ロバート邸から冒険者ギルドまでは約一時間。20体を超えるオーガたちを徒歩で連行するのは非現実的である。
加えて脱出後、コット村まで行くことを考えると馬車は必須。幌付きであればオーガたちの姿を隠せるし、しばらく街を徘徊しても怪しまれることはない。
「馬車は俺が確保する。脱出は夜中。それまでに南門の衛兵は買収しておく。……問題は、それまでオーガたちを匿っておく場所だが……」
それが一番の難題であった。オーガたちを馬車の中に隠せたとしても、一日中王都の中をぐるぐると周回させるわけにはいかない。
夜中だから馬車が走っていないということはないが、その数が激減するのは言わずもがな。
求めているのは、馬車ごと姿を隠せる場所。しかし、その規模の倉庫を当日いきなり貸してくれる商会があるかと問われると、正直言って難しい。
「……あるかも……。しかも、脱出まで手伝ってもらえるかもしれない……」
そんな都合のいい場所あるわけがない。誰もがそう思っている中、クリスの言葉にギャレットは目を見開き、椅子を蹴って立ち上がる。
「なに!? それは何処だ!?」
勢いよく詰め寄るギャレットに、クリスは思わず身を引き、曖昧な笑みを浮かべた。
「確実じゃない。私の考えが確かならってだけの話」
「少なくとも、俺たちよりはマシだな。可能性があるなら、それに賭けよう」
「よし! なら、そっちはクリスに任せたぞ!」
――――――――――
ギャレットとロルフがオーガたちを連れ出した後、アミーの入った箱を背負ったアシュラとクリスは、裏口から脱出。
向かう先は、最寄りの衛兵詰め所。その目的はただひとつ――。探している店の所在を突き止めるためだ。
できるだけの人通りの少ない路地を選んではいるが、やはりアシュラを連れては目立つ。
かといって、仕舞う箱にはアミーが入っているため、そうもいかない。
日が傾き始めた頃、見えてきたのは衛兵の詰め所。入り口の上には王国の紋章が掲げられ、開け放たれた扉の奥からは、かすかに紙をめくる音や、鎧の擦れる金属音が漏れ聞こえてくる。
その前に立つ衛兵がクリス気付き、眩しげに目を細めると、槍を軽く構え直す。
「すみません! 少しお尋ねしたいことが……」
「んあ? どうした、そんなに息を切らして……。もしや悪漢にでも襲われたか?」
「いえ、それは自分でなんとかできるので……」
クリスの胸に光るのは、ブロンズのプレート。更にその視線の先には、アシュラが控えている。
「うお、なんだそれ……。ゴーレムか?」
「ええまぁ……。そんなことより道をお聞きしたくて……」
「ああ、そうだったな。何処へ行きたいんだ?」
「グレイブヤード・ミートってお店なんですけど……」
「グレイブ……。うーむ、聞いたことがないな……。ちょっと待ってろ」
一瞬悩んだ様子を見せた衛兵の男性は、詰め所の中に引っ込んだ。
それから数分。戻ってくるも、その表情は芳しくない。
「すまないね。皆知らないみたいだ。なんだったら商業区の方の詰め所で聞いた方が確実だとは思うが……」
街の衛兵といえど、この王都にひしめくすべての店の所在を把握しているわけではない。
彼らの任は治安の維持であり、商人や職人の細かな営みまでは管轄外だ。
「そうですか。ありがとうございます」
深く一礼して、すぐさま商業区へと向かうクリス。
餅は餅屋。食堂として商売しているのなら、商業区に店を構えている可能性が高い。
しかし、その当ては外れてしまった。
「本当に、聞いた事もないんですか!?」
「ああ、何度言われようと、見たことも聞いた事もないね。逆にそんな奇妙な名前の店、あったら忘れるはずがない。そうは思わないかい?」
確かに一理あるなと納得してしまったクリス。商業区の衛兵にまでそう言われては食い下がるわけにもいかず、クリスは可能性のありそうな心当たりを回り、聞き込みを続けた。
街の情報が集まるであろう酒場に加え、飲食店であるが故に取引のありそうな食品関係の商会等々。その悉くが全滅である。
「もう、強行突破しちゃってもいいんじゃないかなぁ……」
人気のない路地裏の片隅で、放置されていた木箱に座り溜息をつくクリス。
もはや王都に未練はなく。コット村に帰れるならお尋ね者も厭わなかったが、グリンガム兄弟の三人には迷惑をかけられない。
アシュラさえいれば、王都の兵など敵ではない。最悪は独断でも逃げる程度の時間は稼げるんじゃないかと思案していたその時だ、
アシュラが何者かの気配に反応し、静かに抜刀。
その視線の先は、光の届かぬ路地の奥。
「ちょっと待ってくれ! 俺たちにやり合う気はねぇよ」
路地裏の暗闇から明かりも持たず、現れたのは二人組の男女。一見普通の中年夫婦だ。
それが裏路地から出てくるという状況が、既に普通ではないのだが、彼等はクリスの事を一方的に知っていた。
「お前だろ? グレイブヤードミートのことを聞き回ってるって奴は。案内してやるよ。ついてきな」
それだけ言って、暗闇へと消えていった二人組。
怪しさは満点だが、むしろそれこそがクリスの求めていたもの。自分の考えは間違ってはいなかったのだと、クリスはそれについて行った。
――――――――――
案内されたのは、街灯もない暗がりにある寂れた宿。苔むした看板には小鳥の楽園と書かれていた。
その店内も薄暗く、ロビーや受付には誰もいない。そのまま地下に足を踏み入れると、待っていたのはグリンガム兄弟とオーガたち。
「おお、来たか」
「来たかって……。なんでギャレットさんたちがココに?」
「あ? クリスがここにオーガたちを匿うって話じゃなかったのか?」
グレイブヤードミートを見つけ、オーガたちを匿う目処が付けば、迎えを寄こすという手筈ではあったが、既に全員が集合済み。
それを、都合よく捉えるべきかとクリスが思案を巡らせた瞬間だった。
部屋の外が騒がしくなったと思うと同時に、部屋の扉が開け放たれる。
「――ッ!?」
そこにズラリと並んでいたのは、王国軍の騎士たちであった。
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