すべては同じ終着へ
世界樹の根が蔓延る地下都市から脱出し、俺達が宿に帰ると、ガストンさんは「世話になった」とだけ言い残し、リブレスへの帰路に就いた。
魔導船運搬の許可が出たのだから、トゥームレイズに居座る必要は既にない。ロルグラムとの話し合いで、運搬計画に目処がついたとのことで、帰国を早めたらしい。
それはこちらとしても好都合なのだが、それよりも、待てど暮らせど帰ってこないのは、金の鬣トラちゃんだ。
見張りとして置いておいたデスナイトからはなんの反応もなく、暫く待ってはいたのだが、結果から言うとその日は帰ってこなかった。
だからといって特に問題はないのだが、強いて言うなら、頭蓋の欠片へと戻ってしまったトラちゃんを回収するのが面倒なことくらい……。
それから数日。エルザが俺の部屋を訪ねてきたので、聞きたかったことを聞いてみる。
「で、エルザは何時から知っていたんだ?」
「そうじゃのぉ……。世界樹の動きに変化が見られるようになったのは、お主がグランスロードへ赴いていた頃か……」
別に尋問をするつもりはなく、咎める為でもないのだが、そんなにも前から知っていて何故教えてくれなかったのかという疑問は当然だろう。
自分の家が狙われているのだから、ザルマンに頼まれずとも対応していた。
「何故、黙っていた?」
「あの頃のお主に、それを伝えたところで、ワシらを信用したか?」
それはそう。確かに当時のネクロガルドには、不信感しかなかった。しかし、その日から今日まで、タイミングはいくらでもあったはずだ。
「じゃぁ、グランスロードから帰還した後に言ってくれれば……」
「ふむ……。では、仮にそのことを伝えたとして、どう対策していた?」
「どうって……。当然、迎え撃つ準備はするだろ? 心構えが出来ているのと、そうじゃないのとじゃ雲泥の差だ」
「甘いな。ダンジョンに侵入を許した時点で負けは確定。それともお主は、地中を自在に動き回れるとでも?」
「あの両刃剣か……」
恐らくは、馬鹿正直に真正面から戦ったりはしないのだろう。ダンジョンを崩落させてからが、グルームワーデンの本領発揮なのだ。
身動きの出来ない地中では抵抗すらままならず、出来たとしてもあの硬さ。
植物だからこその強みを生かした戦術――と、いったところか……。
「わかったじゃろ? 何処かで迎え撃つ必要があるんじゃよ」
「……最初から、ドワーフの地下都市を犠牲にするつもりだったのか? 本当に、それ以外に方法はなかったのか!?」
結果的には、108番のダンジョンを守るため、トゥームレイズの地下都市、そのひと区画を犠牲にする選択をしたということ。
住民に被害はなかったようだが、俺の所為で住む場所をなくした者達がいる――そう言っても過言ではなく、このままでは申し訳が立たない。
一言あっても良かったんじゃないかと思ってしまっても、罰は当たらないだろう。
「仮に、お主のダンジョンを守る為、トゥームレイズの地下都市を使って迎え撃つ――と言ったところで、お主は了承しないじゃろう?」
「それは……」
わかっている。文句があるなら、今回よりも確実性の高い代案を出してからにしろ――と、そう言いたいのだろう。
「そう案ずる事はない。元々トゥームレイズは、世界樹対策にと地下街を広げてきたんじゃ。今回の出来事は、ある意味想定の範囲内なんじゃよ」
「……すべて、お前の掌の上でのことだと、そう言いたいのか?」
「違う。ただ噛み合っただけに過ぎん。仮にドワーフとエルフが争う事になったら、世界樹は脅威以外の何物でもない。ならば、その対策は必要じゃろう? 世界樹の警備が厳重なのは当然。だが、それは地上に限っての話……」
いざという時の為の保険……。いや、この場合は、心臓部の無力化――と言った方が正しいか……。
俺がいなくとも、ドワーフたちは最初から情勢の悪化を念頭にいれていた――ということだろう。
世界樹が当たり前にあるからこそ、それがなくなった時、エルフ達は大きく弱体化する。
魔導船のような大食漢はハリボテと化し、潤沢な魔力に頼っていた魔術師たちは本来の実力を発揮できない。
そうなれば、リブレス国内は大いに混乱するはずだ。
「ワシ等の目的は知っておるじゃろ? 神を相手にするのなら、世界樹も然りじゃ」
ドワーフたちは、ネクロガルドに拠点と資金を。ネクロガルドは、豊富な知識を提供する。
確かに、両者にとってはメリットだが……。
「ネクロガルドが推し進める世界樹対策って、もしかして俺の事じゃないよな?」
「結果として、そうなってはしまったが、元々はそうではない。想定はしていたが、時期が早すぎたんじゃよ。お主が世界樹への対抗策なら、最初から根を切るなどと生易しい事は言わず、世界樹そのものを枯死させてしまえ――と言っておる」
現在の情勢を鑑みれば、世界樹を枯らす――というのは、少々やり過ぎということか……。
とはいえ、ドワーフたちが困っている事に変わりなく、成り行き上、丁度いいところに俺が来た――といった認識なのだろう。
エクアレイス王国としては、サザンゲイアに恩があり、手伝ってもらうには都合がいい――と、考えてもおかしなことではない。
「ザルマンは、世界樹の根がお主のダンジョンを狙っている事を知らぬ。ただの善意……いや、国益のために協力してくれていると思っておるだけじゃ。表向きは、それでよかろう。結果的には、108番のダンジョンを守る事に繋がるが、ドワーフどもを助けるついでだとでも思えば良かろう。感謝こそすれ、誰もお主を攻めたりはせん」
確かに、エルザの言う通りではある。世界樹の侵攻は牛歩並みだが、放っておけば被害は増していたはず。
真剣な眼差しで耳を傾けていたミアも、カガリと一緒にうんうんと頷いている。
それらを踏まえ、自らの選択が正しかったのか――という、燻っていた胸の迷いは、ひとまず晴れた。
今更、俺の所為で――なんて言い出したところで、話が拗れるのは火を見るより明らか。
「そうか……。なら、深くは追わず、ひとまずは静観しておこう」
その言葉に、一息ついたと茶を啜ったエルザだが、ホッとしたのも束の間。
「それで、エルザさんの用事は?」
首を傾げるミアに、エルザは思い出したかのように手を叩く。
「おぉ、そうじゃったそうじゃった。お主のゴーレムもどきが完成したと、連絡があったんじゃよ」
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