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生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない  作者: しめさば


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世界樹防衛システム

 ドログたちが都市部を抜け、安全地帯でもあるトンネル内部へと辿り着くと、皆が一様に肩を落とす。

 疲労だけではない。唯一の希望が絶たれてしまった絶望感も、それに拍車をかけていた。

 膝から崩れ落ちるドログ。最後に見た、ルートホロウの親玉が頭から離れず、最悪を考える。


「……九条殿は、死んでしまったのか……?」


 その言葉にワダツミが首を横に振るも、ドログは顔を上げる力もないようだ。


「くっ……最早、打つ手もなくなったというわけか……」


「戦士長ッ……」


 悔しさに落ち込むドログを囲むドワーフたち。その肩に手を置き慰め合う様子は、辺りに悲壮感を漂わせる。


「勝手に殺すな……と、言いたいところだが……。まぁいいか……」


「無駄に希望を与えるよりはマシだろう。勘違いで助太刀を……などと、やる気を出されてもかなわん」


 ワダツミとコクセイは、ドワーフたちを避難させ、再突入させない為の見張り役として九条から派遣されただけ。


「どう? ちゃんと全員揃ってる?」


 そこへ、現れたのはシャーリー。弓を下に構え、警戒した様子を見せながらも、安全地帯との境界線をひょいと跨ぐ。


「シャーリー殿! 九条殿は!?」


 ガバっと顔を上げ、シャーリーに食って掛かる勢いのドログだったが、その返事は軽いもの。


「さぁ? でもまぁ、大丈夫じゃない? 九条が大丈夫って言ってたし」


 肩をすくめ、あっけらかんとするシャーリーに対し、その態度が気にくわなかったドログは、目に見えて機嫌を悪くする。


「あのバケモノを相手に、九条殿を置き去りにしたのかッ!?」


 それには、シャーリーだけではなく、ワダツミとコクセイも目も丸くした。


「結果的にはそうね。まぁ、九条はどちらかって言うとソリストだから、問題ないって」


 九条を思っての発言だということを理解した上で、シャーリーは砕けた口調を崩さなかった。

 ただ、真実を述べているだけなのだが、深刻さを前面に出せば、それだけ不安を煽ることになる。その裏には、ドログたちを心配させまいとするシャーリーなりの配慮があった。


「言っちゃ悪いけど、九条からしてみれば、あんたたちなんてノイズでしかないわけ。逆に聞くけど、あの状況でまだ作業が出来ていると思う? 無理でしょ? だったら九条に任せなさいって」


「……九条殿が心配じゃないのか?」


「まったくと言ったら嘘になるけど、少なくともあんたたちよりは私の方が、九条との付き合いは長いし? なにより、九条を信じてるもの」


「それでも、何か出来る事が……」


 中々腑に落ちない様子のドログに、流石のシャーリーも痺れを切らす。


「だーかーらぁ、何もないんだって。邪魔だっつってんの。あんたたちなんてルートホロウより先に、ロードの瘴気に当てられてポックリ逝っちゃうから。死にたくなかったら大人しくしててよ。めんどくさいなぁ」


 シャーリーのいきなりの豹変に、面食らうドログたち。

 とはいえ、ここで退いてはドワーフの名折れ。ドログは何か言い返せないかと口を開くも、シャーリーの後方から睨みを効かせる2匹の魔獣に気が付くと、視線が泳ぎ、言葉は言葉にならないまま、胸の奥に沈んでいった。


 ――――――――――


 俺の前には新たに生まれた3体のルートホロウ。後方の世界樹の根には、先程までなかった節が続々と出来始めている。

 そんな状況だ。目の前のルートホロウの1体や2体を倒したところで、どうにもならない事だけは理解した。


「ワダツミ! コクセイ! あっちを頼む!」


 ドワーフたちの方に湧き出てしまったルートホロウを何とかするべく、ワダツミとコクセイを向かわせる。

 風のような速度で家屋の屋根を飛び移っていくワダツミに対し、コクセイは目の前のルートホロウを飛び越え、世界樹の根を足場に駆け抜けていく。

 それでも間に合わないかと肝を冷やしたその時、シャーリーの一撃が遥か遠方のルートホロウを打ち抜き、事なきを得た。


「あっちはこれでいいとして、こっちはどうしようか……」


 ルートホロウ1体でもそこそこ面倒な相手だとは思っていたが、それが複数。恐らくは無限に湧き出るとなると、やれることは限られてくる。


「シャーリー、撤退の合図を頼む! それとドログさんたちに、やりすぎちゃったらごめんって言っといてくれ」


「……おっけー!」


 僅かに視線を伏せたシャーリー。短い沈黙が流れ、逡巡の色がその表情をかすめるも、すぐにいつもの顔に戻り、何事もなかったかのように合図の矢を空へと放った。


「じゃぁ気を付けて!」


 それと同時。弾けた矢が金属片を振り撒くと、シャーリーの姿は鐘楼から消えた。


「さて……。どう処理するか……」


 ルートホロウを幾ら倒しても意味がないなら、やる事は一つ。最終的には世界樹の根を断てればいいわけで、文字通りの根絶やしだ。

 必要なのは、ルートホロウが太刀打ちできないほどの戦力。パッと思いつくのはスケルトンロードか、四天魔獣皇の一柱とも名高い、金の鬣。通称トラちゃんをよみがえらせることなのだが、どちらにも懸念点が存在する。

 スケルトンロードは、呼び出すのにある程度の集中が必要だ。呼び出した後も気を抜く事は出来ず、その状態でルートホロウからの攻撃を避け続けるというのも骨である。

 ならば、意志を持ち、自律出来るトラちゃんがベストかと思われるが、果たして本当にそうなのか……。


「あいつら仲悪ぃからなぁ……。ファフニールに、炎を吐くなっつって守ってくれるといいんだが……」


 もぐら叩きじゃあるまいし、出てくるルートホロウを1匹ずつ叩いたりする性格じゃないのは理解している。

 地下である為、コクセイ同様に雷を落とす事は難しい。ならば、一面を火の海にしてしまうのが手っ取り早いと考えるのは、自然な流れ。

 それが、地下で行われることが問題なのだ。

 都市構造は不明だが、大規模火災へと発展すれば、不安になるのが酸素量とその通り道。

 この区画だけが酸素不足に陥るなら、俺が退避すれば済む話なのだが、他の都市区画の酸素まで奪ってしまう可能性を鑑みれば、炎での処置は妥当ではない。


「いや、待てよ……。どっちも呼べばいいのか……」


 トラちゃんを先によみがえらせ、その背に乗り俺を守ってもらいつつ、スケルトンロードに集中、攻撃を任せる……というのはどうだろう?

 周囲の人払いは済んでおり、気遣いも無用。今はどちらかにこだわる必要もない。


「そうと決まれば……」


 善は急げと、魔法書の中に手を突っ込み、トラちゃんの頭蓋骨を思い浮かべたその時だ。

 5体に増えていたルートホロウたちが、一カ所に集まり絡まり始めた。


「――ッ!?」


 軋みながらもねじれた指が三つ編みのように絡み合い、足元を這う根が結合する。

 互いがお互いを締め上げてゆく異様とも言える光景に、俺は目を奪われるほかなかった。

 樹皮がはじけ、芽吹くように新たな腕が突き出す。悲鳴とも笑いともつかぬ音を漏らしながら、ひとつの巨躯が姿を現したのだ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直に感じた気持ちで結構でございますので、何卒よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
一筋縄ではいかないと分かってはいたけれども植物系の厄介さが前面に出ている相手だなあ。 それでも遠慮しなければ何とかできそうな辺りは流石といったところだが何やら大物の予感。 ウドの大木であってくれた方が…
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