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生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない  作者: しめさば


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予想外の珍客

「本当にいいんですか?」


「はい。覚悟は出来ています」


 シャロンとのデュラハン見学ツアーを終え、コット村へと戻った俺はシャロンを自分の部屋へと連れ込んだ。

 いつもは俺が座っている椅子にそっと腰を下ろしたシャロンは、ぎゅっと強く目を瞑る。


「いきますよ?」


「早くして下さいッ――」


 シャロンは恥ずかしそうに艶やかな髪をかき上げ、悩ましげな甘い吐息を漏らす。

 俺はその前に少し屈むと、生唾を飲み込んだ。


「失礼します……」


「……んっ」


 ゆっくりと伸ばした手がシャロンの肌に触れる。

 逃げるように身をよじらせるシャロンに構わず、指先に全神経を集中させた。

 そこから伝わってきたのは、ほのかな弾力を持った柔らかな感触。


「もう……いいですかッ……」


「すいません。もう少しだけ……」


 じんわりと興奮した様子で身もだえするシャロンの衣服が着崩れ、白い肌が惜しげもなく露になる。


「なるほど……。なかなか興味深い……」


 俺がくにくにと弄り倒しているのは、シャロンの耳だ。エルフ族特有のそれが気になって、夜も8時間しか眠れない。

 デュラハン観察のお礼として、何かできることがあればと言い出したのはシャロンの方。決して俺が無理強いをさせている訳ではない。

 強い光を当てれば、それを貫通して薄っすらと赤みを帯びるほどに繊細なそれは、先っぽからくるくると丸めることも出来てしまうほど柔らかい。


「……あッ……九条様……そろそろ……ッ!」


 親指をなぞらせるとつるつるとした感触が心地よい。少しひんやりとしていて人間の耳より凹凸は少なく端麗だ。

 指先でその先端を優しく弾くと、シャロンの身体がピクリと跳ねる。


「ひゃぅッ!?」


「すいません。痛かったですか?」


「いえ……大丈夫です……」


 ほんのりと頬を紅潮させたシャロンは息も荒く、何処か虚ろな視線をあさっての方向へと落としていた。


「ありがとうございました。良い経験になりました」


「そう……ですか……」


 力なく椅子にもたれ掛かるシャロンは艶っぽく、何か勘違いしてしまいそうだが、決して疚しいことはしていない。

 エルフの耳だ。誰もがそれに興味を持つであろうことは必然であり、機会があれば触ってみたいと思うのが人の(さが)

 かの偉人、アイザック・アシモフは言った。

『人間は無用な知識が増えることで快感を感じることができる唯一の動物である』と。



 それから1週間ほどが過ぎた。哀愁を帯びたノーマンがトボトボと村を出て行ったのが3日前。

 俺は、面会許可証を持った者がコット村を訪れるとの連絡を受け、そわそわと落ち着かない様子で待っていた。

 今度はどんな貴族が来るのか? それとも王族か? 面倒事だけは止めてほしいと願いながらも、お茶をすすりながら食堂の出入口を凝視する。

 俺の隣には強面のワダツミとコクセイが待機中だ。ちょっと凄んでもらえば恐れをなして逃げ出すに違いない。


「おい、おっさん。気持ちはわかるが、他の客が逃げるからもう少し落ち着きなよ」


 溜息をつきながらも、呆れた様子でお茶のおかわりを持って来たのはレベッカ。

 客は現在俺だけだ。そもそも逃げ出すほど客は入っていない。


「ああ。すまんな」


 確かに苛立ちを隠せずにいるがそれもそのはず、既に予定の時刻は過ぎている。お茶のおかわりはこれで通算10杯目だ。

 今朝には着くと聞いていたのに、窓からは眩しいほどの西日。そろそろ冒険者達が帰ってきてしまう時間帯である。

 とは言え、ここは異世界。日本のように時間通りに電車が走っているわけじゃない。

 多少の遅刻は大目に見るが、8時間遅れは怒っていいレベルだろう。

 こちらの準備は万端であり、何時でも来いと鼻息を荒くしていたのだが、それも既に過去の話。

 ワダツミとコクセイのやる気はゼロだ。


 そして待つこと10時間。そいつがやって来たのは村の門限ギリギリ。

 食堂の扉がゆっくり開くと、申し訳なさそうに顔を出した猫耳の少女。

 食堂内をきょろきょろと見渡し俺を見つけると、晴れやかな笑顔で手を振った。


「あっ! こんばんにゃ!」


 小走りに近づいてきた猫耳の少女は俺の事を知っている様で、荷物の中から2つの書簡を差し出した。


「九条様で間違いないかにゃ? こっちが面接許可証で、こっちが領主様……レストール様からのお手紙にゃ」


 それを聞いて思い出した。レストール卿が22番ダンジョンの権利書を送ると言っていた事を。恐らくはそれを届けに来たのだろう。


「ああ……」


 許可証はひとまず置いておき、レストール卿からの書簡を開封すると、ズバリそのものであった。

 遠くから来たのだ。遅刻に対しての謝罪はないが、むやみに責めたりはせず水に流すことにした。


「確かに受け取った。遠路はるばるご苦労様」


 そう声を掛け、猫耳の少女を見上げた時、ふと何か違和感を覚えた。何処かで見たような気がしたのだ。


「……何処かで会ったような……」


「ジオピークスで会ってるにゃ。九条様がシルビア様とセレナ様を買った時、隣にいたにゃ」


「ああ! 思い出したあの時の……」


 シルビアとセレナが奴隷として売られていた店で一緒になって売られていた奴隷である。


「今はシルビア様とセレナ様のお屋敷で、使用人として働いているにゃ。まさか本当にレストール様の御息女だとは思わなかったにゃ」


「そうだったのか」


 彼女達との関係はわからないが、目の前にいる猫耳少女の表情に影はなく、満足気だ。

 街の町長に使用人として雇われているなら、奴隷としては悪くない奉仕先なのではないだろうか?

 きっと良き縁に恵まれたのだろう。


「……」


 グイっと一気にお茶を飲み干す俺に対し、ジッと笑顔を絶やさない猫耳娘は微動だにしない。


「ん? まだ何か?」


「お迎えが来るまで九条様にお仕えしろと言われているにゃ」


 突然の申し出に困惑する。


「はぁ? 何故だ?」


「シルビア様からそう仰せつかっているにゃ。レストール様とシルビア様は現在王都にて公務の最中。それが終われば迎えに来る手はずになっているにゃ。御2人とも九条様に会うのを楽しみにしているにゃ」


「マジかよ……。それで、そのお迎えとやらは何時来るんだ?」


「正確にはわからないにゃ。国王様と王女様との謁見が済み次第とのことにゃ」


「そうか。だが、俺に使用人は必要ないからその間は自由にしててくれ」


「そうはいかないにゃ。主様の言い付けは絶対。何が何でもお世話するにゃ」


 腰に手を当て胸を張るその姿は、鼻息も荒くやる気は十分だが、既に空回りすることは確定している。

 こんな所で言い争っても仕方ない。


「まぁ、好きにしろ。やってもらうことなんか何もない。俺は貴族じゃない。お前の寝床なんて用意出来ないから、住む場所は自分で探せよ?」


「問題ないにゃ。アンカースのお嬢様から部屋を貸してもらえることになってるにゃ。面会許可証をちゃんと読むにゃ」


 ネストからの面会許可証を開封すると、それとは別に1通の手紙が入っていた。内容は目の前の猫耳娘が言っている事とほぼ同じ。

 これを機会に使用人の扱い方を覚えろとも書いてあるのは100歩譲っていいとしても、誰から教わればいいんだよとツッコミを入れる相手はいない。

 ひとまず、1番遠く離れた部屋の鍵でも渡しておけば文句はあるまい。


「はぁ……わかった。後で鍵を渡す。どの部屋でも文句は言うなよ?」


「九条様の隣の部屋だと指定されているにゃ。離れてたら出来るお世話も出来ないにゃ」


「それは――ッ」


 そこで口を噤んだ。垂れる冷や汗。非常にマズイ。

 俺の隣の部屋はシャーリーが使っているのだ。無断で部屋を使用していることがネストにバレる。

 こちらから言い出すのと、隠していた事が明るみに出るのとでは、その印象に雲泥の差がある。

 シャーリーが早く家を探さないからこんなことに……。

 いや、人に責任を押し付けるのはやめよう。俺が甘く考え、鍵を渡してしまったのがいけないのだ。

 選択肢は2つ。俺とミアが一時的に別の部屋を使い、その隣に猫耳娘を住まわせるプランA。

 もう1つは、シャーリーに一時的に出て行ってもらうプランBだ。

 どちらにしろ猫耳娘は暫く見張っておく必要がある。


「どうしたのかにゃ? ダメなのかにゃ?」


「いや、大丈夫だ。ただ少し掃除をさせてくれ。まさか誰かを住まわせるとは思わなかったから、廊下に荷物を積みっぱなしなんだ……」


「別に構わないにゃ。むしろそれこそ使用人の仕事。掃除は任せてくれて構わにゃいよ?」


「待て待て。触ると危ない危険な物もあるからここはプロに任せろ。掃除が終わったら呼びに来るからここで待っててくれ。……そうだ。腹は減ってないか? 長旅は疲れたろう? これも何かの縁だ。奢るから食事でもどうだ?」


「生活費は全てシルビア様が負担してくれるにゃ。問題ないにゃ」


 ああ言えばこう言う……。このままでは埒が明かないので、ここぞとばかりに強気に出た。

 こういう時こそ権力を使う場面だろう。


「俺が奢ってやると言ったんだ。俺の飯が食えないってのか? それともお前が俺の従魔達の餌になるか?」


 地面に伏せっていたコクセイとワダツミがむくりと起き上がると、猫耳の少女は悲鳴とは思えない可愛らしい声を上げる。


「ピッ……」


 カタカタと小刻みに震える猫耳の少女を見て、ハッとなった。自分で言っておいてなんだが、強く言い過ぎである。

 貴族の使用人にそんなこと出来るわけがないのだが、俺ならやり兼ねないと思われたのだろう。

 これでは脅しと取られても文句は言えない。


「すまん。言い過ぎた。冗談だと思って流してくれ……」


「で……ですよにぇー……。でも、折角にゃんでいただこうかにゃー……?」


 全く誤解は解けていないが、この際だ。

 レベッカに大盛のプラチナプレートを注文し、ワダツミとコクセイに猫耳娘の見張りを頼むと、俺はシャーリーを探しに食堂を飛び出した。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


よろしければ、ブックマーク。それと下にある☆☆☆☆☆から作品への応援または評価をいただければ嬉しいです。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。正直に感じた気持ちで結構でございますので、何卒よろしくお願い致します。

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