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前世を思い出してから、一月が経過した。
いつものようにメアリーに起こされ、メアリーとその他数人の侍女に準備を手伝われる。
前世を思い出してから、それまでは当たり前だったことも違和感を感じたり、恥ずかしく思うことも多々あったが、疑われない為にもそれまでと同じように生活している。
その成果のおかげか、この一月、レイチェルとしてとくに変わったことは何も無い。
嫌がらせをやめたことと、新たに加わった趣味……とも言える、将来のための個人勉強会を除いては……。
今朝もいつも通り家族と朝食をとるために、メアリーと一緒に屋敷の食堂へと向かった。
食卓につき、家族と朝の挨拶を交わしながら、今朝も美味しいご飯をいただく。この食事も、前世を思い出してからは、それまでよりさらに美味しく感じるようになった。
美味しくご飯を食べている私に、父のアルミストが声をかける。
「レイチェル、学園では最近上手くいっているのか?」
「ええ、お父様。つつがなく過ごしておりますわ」
「殿下とは順調なのかい?」
「ええ、お兄様。そちらも変わらずですわ」
「レイチェル……もし、もしもよ? もしも、殿下とのことで何か悩んでいるのならお母様や家族に言ってちょうだいね? 私たちはどんなときも、あなたの味方よ?」
「ありがとうございます、お母様。何かあれば、相談しますわ」
この会話からは伝わらないと思うが、レイチェルは家族から溺愛されている。
ゲームでは陰湿で暗い印象だったレイチェルは、この世界では非常に珍しい黒髪黒目の持ち主なのだ。
この黒髪黒目も、異常に白い肌と真っ赤な唇も、ソイルテーレ公爵一代目であるアルベルト・ソイルテーレからのものだ。
これまでのソイルテーレ家の者は、いたってごく普通の茶髪茶目である。茶髪は平民にもよくある色で、この世界の貴族はほとんど派手な色を持っているため、ソイルテーレ家の見た目はいたって地味なのだ。
そんな中、アルベルトの先祖返りのような私が生まれれば、それはもう家族全員に猫可愛がりされた。
当然、王家や五大貴族の者、その他の貴族達の間で有名になり、レイチェル・ソイルテーレの名を知らぬ者は貴族には居ないぐらいだ。
日本人だった怜から見れば、陰湿で暗い印象でしかない見た目も、この世界では非常に珍しい姿なのだ。
そしてソイルテーレ家の人間は、色は地味であるものの、やはり貴族らしい整った容姿をしているため、レイチェルの顔もかなり整っていた。
夜な夜な行っていた抜け穴魔法の研究をやめて健康になったことで、陰湿な雰囲気もマシになったと思う。
やっぱり睡眠不足は乙女の大敵だなと考えながら、朝食を食べきり、これまたいつもの通りメアリーと共に学園に向かった。