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ざっと、この乙女ゲームの世界の背景を思い出してノートに纏めてから、重要なレイチェル自身のことと攻略対象者のことを、これまた覚えている限り書き込んでいった。
私、レイチェル・ソイルテーレ公爵令嬢、現在18歳。
聖ウラングランド帝国にある、紋章持ちのみが通う学園、聖青薔薇学園5年生であり、今年卒業予定だ。
この世の全ての紋章持ちが義務として通わねばならない、聖青薔薇学園こそが、この乙女ゲームの舞台である。
この学園には、聖ウラングランド帝国の者だけでなく、グレートフィール王国とアイゼンゲイン公国の紋章持ちも通う義務がある。
この他国からの留学生の中にも攻略対象が居たはずだが、残念ながら今のところ詳細は覚えていない。
レイチェルから一番近い攻略対象は、レイチェルが5歳のときに帝国から定められた婚約者、セドリック・ウラン・ハイデン第二王子である。
セドリックとはレイチェルが5歳のときに婚約が結ばれた。何故かは、よく分かっていない。
貴族会議を何度も重ね、熟考された結果であると、首相である父のアルミストは言っていた。
そして、レイチェルの5歳年上の兄である、アルデイム・ソイルテーレも攻略対象の一人だ。
攻略対象にしてはやや地味な見た目なので人気かどうかはさておいてだが……。
アルデイムは、先祖返りのレイチェルにずっとコンプレックスを抱いていて兄弟仲はよろしくない、という設定だったはずだが、私の知っている兄は過保護なシスコンブラザーだ。
「俺の、レイチェルが可愛い」という題名のアルバムを兄の部屋で見つけたときはドン引きだった。
レイチェルは兄の過剰な愛に引いてはいるが、兄を尊敬していて兄弟仲は悪くなかったはずなので、この部分は設定と違う。
ちなみにヒロインちゃんが、アルデイムを攻略対象に選ぶと、レイチェルは不慮の馬車事故によって死ぬ。しかし、ヒロインちゃんは既にセドリックを選んでいるようなので、この馬車事故エンドは既に回避できている。
ありがとうございます!ヒロインちゃん!
嫌がらせどころか、むしろ命の恩人としてお礼を言わなければならない!
そんなヒロインちゃんこと、エレーナ・ハイム子爵令嬢のことも思い出さなきゃね!
確か、年はレイチェルとセドリックと同い年の18歳。
学園入学ギリギリの12歳まで市井で、踊り子の母と共に平民として暮らしていたが、母親が亡くなったことで、父であるハイム子爵に引き取られ、子爵令嬢となった。
ハイム家に受け継がれる光の紋章も受け継いでおり、学園に通うことになる。
この光の紋章の力は、ほとんど魅了の魔法と言って良い。
対象になる人の心に住まうあらゆる闇を、その光で照らし払うのだ。そして闇を払われた側は、幸福な気持ちに満ちあふれる。
エレーナはこの力で各攻略対象と仲良くなっていき、最終的にハッピーエンドかバッドエンドにたどり着く。
この世界のエレーナ・ハイムが、私のように前世を持った転生者なのかは不明。
また、私の他に転生者がいるのかも不明。
次にその他の攻略対象についての数少ない記憶をたぐり寄せ、ノートに書き込もうとしたがやめた。
どちらにせよ、この世界のヒロインちゃんはセドリックを選んだのだ。その証拠に私がセドリックの婚約者で、ヒロインちゃんにねちねちと嫌がらせもしている。
バッドエンドになるほうが難しいセドリックルートでは、その他の攻略対象に鞍替えすることも無さそうだ。というか出来ないと思う……。
これはもう勝利は目前ね……ふふっ。
私は不健康なまでの真っ白い肌には不釣り合いの、血色が良すぎる真っ赤なリンゴのような唇をつり上げながら、ノートを大事にしまった。