表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う  作者: せららん
ヒロインなのに悪役令嬢のバッドエンド迎えました
42/48

11

また間に合わず深夜投稿になってしいました……ごめんなさい(;;)

お待ちどうさまですm(__)m




 よく分からない器具を腕につけられた翌日、あの氷のような瞳を持つ軍人に連れられて初めて白い部屋の外に出た。

 平民にはまずいないだろうという綺麗に整った中性的な顔に似合わない大きな背中の後ろを歩く私を、さらに数名の兵が後ろから追いかけている。部屋を出る前に両手首に魔法具を追加で付けられた時は背中から冷や汗が流れ落ちたが、移動の期間中のみだと説明を受けてほっと胸をなでおろした。

 

 あの不気味にぐらい真っ白い空間から初めて外に出た私には、どこもかしこも何もかもがカラフルに見えた。石畳の床や、平民街では見たこともない豪華な壁や柱。そして何と言っても、手入れが隅々まで行き届いた庭園を見たときは、驚きと感動で息が止まりそうになった。思わず足が止まってしまったところで、前を歩いていた軍人に「さっさと歩け」と怒られてしまった。

 生まれて初めて歩く王城の廊下は、どこを歩いても隅々までピカピカだし、どこを通ってもいい香りがする。平民という身分でこの廊下を通ったものは私の他にも居たのだろうかと考えながらも、物珍しい王城の色々なものへと視線をうつしていた。


 そうしているうちに、私はレイチェルさんの話し相手として、レイチェルさんが待つとある一室へと到着した。

 様々な検査を終えて軍人とともに部屋に入室すると、輝かしい笑顔でレイチェルさんが迎えてくれた。


「エリー! 会いたかったわ」

 

 レイチェルさんは、まるで実の姉のように両手を広げて私を出迎えてくれた。本当は腕の中に飛び込みたいと思ったが、ここに至るまでレイチェルさんの身分がとても尊いものだと思い知ったこともあり、素直に行動できずもじもじとしてしまう。

 そんな私を見て、レイチェルさんはすごく心配そうな様子で私に近寄ると具合が悪いのかと尋ねてきたが、そんなわけではないので私はふるふると頭を左右に動かした。


「……レイチェル様……あの……」

「え! やだ、様なんてやめて」

「……え、で……でも……」

「私とエリーはお友達でしょう?」

「……それでも、身分が違いすぎます……」

「――そんなこと気にしなくていいのよ……と、言いたいけど、そうね……人がいたり公式な場所ではそう呼んでもらった方がエリーのためにはなると思うけど、今は私とエリーだけなのだから、気にしなくていいのよ」


 そう言って悪戯っぽい子供のような笑みを浮かべるレイチェルさんに、私は「はい」と頷きかかけたが、斜め横に軍人の姿が目に入ってしまい、ここにはレイチェルさんと私以外にも人がいることを思い出してしまう。私の視線の先を追ったレイチェルさんは、ふっと軽やかに笑いながらなんでもないように話す。


「あぁ、クリスフォードのことは気にしなくていいのよ。彼は、セドリック殿下の近衛なのだけど、一応念のために私に付けられているだけなのよ」

「……は……はい」

「それに、殿下とクリスフォードも非公式の場では堅苦しい言葉は使わないわ。ね、クリスフォード?」


 レイチェルさんが急に軍人に話を振ったことで心臓がドキリと嫌な音を立てる。


「……えぇ、まぁ」


 明るく質問したレイチェルさんへの返答としては短すぎるものだったが、レイチェルさんは満足そうに頷いて私に向き直った。


「ね? だから、エリーも私のことを友人としてレイチェルと呼んでちょうだい」


 私の両手がレイチェルさんによっていつの間にか握られていて、キラキラとした瞳でそう頼まれると、私には「はい」という答えしか残されていない。


「……は、はい……レイチェル……さん」


 しかしとてもではないが、呼び捨てにはできそうもなかった。そんな私の心情を察してくれたのか、レイチェルさんは少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた後、私をテーブルへと誘った。


「エリーは、甘いもの好きかしら?」

「はい、好きです」


 母さんが元気だった頃は、よくお菓子を一緒に作って家族三人仲良く食べていたことを思い出す。つい心が沈んでしまいそうになり、私は慌てて首を左右に振り現実に帰る行動をとった。


「良かった。私の家が贔屓にしている菓子屋があるのだけど、王室(ここ)のお茶ととても良く合うの。エリーにもぜひ食べて欲しくって」


 レイチェルさんは、ふふっと嬉しそうに笑いながらポットからティーカップにお茶を入れようとする。慌てて私がやりましょうかと声をかけると、「私が友人の証にエリーにお茶を淹れたいの」とやんわりと断られてしまった。

 ティーカップに注がれたお茶は、黄金に輝いている。こんなに綺麗に輝くお茶を見たことがなくて、つい「わあ」と感嘆の声が漏れた。そんな私の反応を嬉しそうに眺めたレイチェルさんは、ポットの横にある瓶からジャムをひとすくい取ってお茶にゆっくりと溶かしていく。ティースプーンをゆっくりかき混ぜるレイチェルさんの姿も優雅でとてもきれいで思わず見とれてしまう。ティーカップから薔薇のいい香りがしたことで、ジャムが薔薇からできたものだということが分かった。


「さ、召し上がってちょうだい」


 そう言って、美味しそうな焼き菓子とともにお茶が置かれた。こんな優雅な食事は生まれて初めてで何からどう手をつけていいか分からない。食器も見たことがないぐらい繊細で綺麗だし、もし誤って割ってしまったらと考えると冷や汗が止まらなかった。


「……そんなに緊張しないで? エリーが好きなように楽しんで?」


 優しく微笑みながら促してくるレイチェルさんに従って、私は恐る恐るティーカップを手に取りながら口元に運ぶ。これまで嗅いだ薔薇の香りの中で一番上質でいい香りがしたと思えば、柔らかな甘みが口の中に広がる。


「……! 美味しい……!」


 意識せず、そう漏れ出ていた。レイチェルさんは「よかった」と嬉しそうに微笑んだ後に、自分もお茶を手に取り楽しみ始める。

 ここに滞在する中で食べるものは全て美味しいものだったが、その中でもダントツで美味しい食事だった。


「何か、生活に不自由はない?……って質問も変ね……あんな何もない部屋不自由に決まっているわね」


 お茶を飲みながらレイチェルさんが口を開いたかと思うと、本人の中で完結させてしまう。


「い、いえ……そんなことはありません。お食事もとても美味しいし……」

「……はやくあそこから出れるようにしてあげたいのだけど……私の力不足だわ。ごめんなさいね?」

「いえ! そんな……! レイチェルさんにはもう十分良くしてもらっています……今日、こうして部屋から外に出られたことも、全てレイチェルさんのおかげです……本当にありがとうございます」

「お礼なんていいわ。当たり前のことよ。……でもそうね……あそこから出たことも今日が初めてだったのね……胸が痛いわ……」


 レイチェルさんがそう言って本当に悲しそうな顔するものだから、私はどうしていいか分からずオロオロとしてしまう。そんな私を見てレイチェルさんは困ったようにふっと笑っていた。


「……あなたの弟さんのことだけれど」

「……! ユリウスですか!? 何かあったのですか!?」


 急に出た弟の話題に驚いて思わず立ち上がってから、ハッとしする。後ろからカチャリと音がしたと思えば、部屋の隅にいたはずの軍人が私のすぐ後ろまで来ていた。右手は腰の剣のグリップへと添えられている。


「クリスフォード! やめなさい! エリーはただ驚いただけだわ」


 私を冷たい目で見下ろす軍人とレイチェルさんに、慌てて謝罪を述べながら席に再びついた。すると軍人はまた部屋の隅へと下がっていった。


「こちらこそごめんなさいね。みんな大げさで本当嫌になってしまうわ」


 レイチェルさんはこめかみに手を当て、部屋の隅にいる軍人を恨めしげに睨みながら、疲れた様子で呟いていた。


「急に弟さんの話をして驚かせてしまったわね」

「い、いえ……すみません……」

「いいのよ、謝らないでちょうだい。……ただ、私の方で様子を見ている最中だからもう少し待ってねって言いたかっただけなのよ」


 優しげに微笑むレイチェルさんに、私は勢いよく頭を下げお礼を言った。レイチェルさんはまた困ったように笑っていたが、私の本心は地面に這いつくばってお礼を言いたいぐらいだった。しかしそんなことをしてもこの方は喜んでくださらないどころか、また寂しそうに笑うのだろうと思うと、これぐらいで止めるべきだと判断したのだ。この方が寂しそうにする姿は見たくないと思ってしまったから……。


「さ、今日はエリーの話を聞かせてちょうだい?」

「……私の話……ですか?」

「えぇ、あなたの話を聞きたいの。私こう見えても、何度も市井に降りていたのよ?」


 とんでもないことを暴露するレイチェルさんに驚いてしまう。部屋の隅にいる軍人に目をやるとピクリとも表情を動かしていないので、この衝撃の事実は周りの人間が知ってたのだろうかと考えた。


「エリーがどういう風に育って、どんな人生を送っていたのかとても気になるの。教えてちょうだい?」


 純粋な好奇心というよりは、私に心を寄り添わせてくれているのだろうと思う。私は、コクリと小さく頷いてから、覚えている範囲での己の生い立ちや好き嫌い、家族の話をレイチェルさんに話していくのだった。

 話し始めて少し経つ頃には、この部屋にレイチェルさん以外の人間が居たことなんてすっかり忘れてしまっていた。それぐらいレイチェルさんは私の話を真剣に、そして暖かく聞いてくれていた。


 レイチェルさんの話し相手という役目を頂いた初日は、こうして幕を閉じたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ