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悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う  作者: せららん
ヒロインなのに悪役令嬢のバッドエンド迎えました
35/48

おまたせしましたm(__)m

本日より連載再開していこうと思います!

毎日更新頑張ります!

また最後までお付き合い頂けますと幸いです^^


 

 目が覚めて一番最初に目に入った、一点の汚れもない白い天井は、それまでの人生で一切見覚えのないものだった。部屋中に広がる薬品の匂いも、自分が寝ている簡易的な寝具も全てが身に覚えのないものばかりで、ひどく不安な気持ちになる。それになんだか、とても長い夢を見ていたような気分だ。


「目が覚めたか、エレーナ・ハイム」


 急に聞こえた知らない男の声にハッとして体を起こそうとするも力が入らない。なんとか目線だけ声の方にやると、高級そうな軍服を着た男性が居た。男の目線が冷ややかなものだと気づくまでにそう時間はかからなかった。

 エレーナ・ハイムという名前になんだか聞き覚えはあるものの、自分ではないと悟り少し安心した。


 きっと人違いだろう。だからこんなに冷たい目で見られているのは自分じゃない。――そう思うと幾分か心が軽くなった気がした。

 人違いであることを話そうとすると、喉が強烈に痛んだ。

 吃驚すると同時に咳き込んでしまい、息がまともにできなくなる。しばらく苦しんでいると、他の男性がいつの間にか私を支え背中をさすっていた。

 体から香る強い薬品の匂いから医者であることが分かった。


 この薬品の香りには苦い思い出がたくさん詰まっている。

 踊り子の母が病に倒れて息をひきとるまで、家はこの匂いでいっぱいだった。

 背中を摩られながら、当時の情景がありありと脳に浮かぶ。


 しばらくして咳が落ちつくと医者は私とアイコンタクトをとった。その医者の目がどこか冷たいものに感じるのは気のせいだろうか……。

 医者は簡単に私の意識確認をすると、決められている問診を機械のように行った。

 喋ることのできない私は、辛うじて動く首で答える。医者の質問にYESなら頷き、NOなら横に一度振った。質問のほとんどにNOと答え終わる頃には、自分と医者との間に大きな違いがあることに気づく。


 医者は私を18歳かと聞いたが、私は13歳だ。名前もエレーナ・ハイムなんて大層な名前じゃなく、ただのエリーだ。平民である私に家名なんてものはない。目が覚める前にいた場所も思い出せない。思い出せるのは母さんが半年前に死んだことと、弟のユリウスのことだけだ。

 私が質問にNOと答える度に、医者の眉間にはシワが刻まれていく。機械のような口ぶりも、怪訝そうな態度も全てが気になるし、怖かった。

 エレーナ・ハイムさんに間違われているということは分かったので、なんとかそれを伝えようと考えるが、痛む喉と動かない体ではどうしようもなかった。


 私は踊り子をしていた母ソニアの娘だ。名前も平民の間では有りふれたエリーで、ハイムなんて立派な家名もない。

 歳も今年で13歳だし、根本的にエレーナ・ハイムさんとは違う。


 簡単な質問が終わり、怪訝な顔で離れようとする医者の袖を一生懸命手を動かし掴んだ。

 この間違いを正さなければ、何か大変なことになると思ったからだ。私は、何か大変なことに巻き込まれていると思い始めていた。

 医者は怪訝な顔のまま私の手を何でもないかのように払うと、部屋を出て行ってしまった。


 唖然としたまま、それでも頭をしっかりと働かせる。

 医者は途中で嘘をつくとどうなるか分かっているかと言っていたが、私は嘘なんてついてないし吐くつもりもない。

 だって、そんなことしても私に何のメリットもないから。


 医者が出て行った後すぐに、さっきの綺麗な軍人らしき人が戻ってきた。

 綺麗な顔をして高級そうな軍服を着ているから、きっと唯ならぬ人だと学のない私にも分かった。ぜったい間違っても自分と同じ平民ではない。

 軍人は左手に持っていたものを私にかざした。

 そこには私が見慣れている私ではない全く別の女の人が居た。

 あまりに見慣れない姿に、男が持っているものが鏡だと気づかなかった。


「どうだ。これでもまだくだらん嘘を突き通すつもりか? エレーナ・ハイム」


 軍人の冷たい瞳が私を貫いた。

 私は、エリー……。エレーナ・ハイムさんなんて知らない!

 鏡に映る女の人も分からない。

 ユリウス……ユリウスなら分かってくれるはず……!

 

 鏡に映る女の人はひどく悲しげで苦しげで混乱しているように見える。――まるで今の私と一緒。

 

(許さないっ! 許さない許さない許さないっ!)


 突如、頭の中で声が響いた。

 夢の中で聞いたような声だ……。


(諦めないで……幸せになって……)


 思わず目を瞑るとさっきとは違う優しい声が聞こえた。

 

 私はそのまま声に呼ばれるように意識を失った。

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