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悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う  作者: せららん
悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う
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 あれから、あれよあれよと言う間に時は過ぎていき、私はいま王城のとある一室に軟禁されている……。



 いや、なんで!?なんでなのっ!?

どこでどう間違ったの!?教えて下さい、神様妹様っ!!



 豪華絢爛の一言につきる広々としたこの部屋には、それにつりあう豪華でおしゃれな家具達が置かれていた。

 天井が突き抜ける様に高いこの部屋の唯一の大きな窓からは、王家自慢の薔薇庭園(ローズガーデン)が一望できる。3メートルの高さはあり出入り自由な窓は、魔法によってガチガチに施錠されていた。

 この窓をこじ開けるのは5大貴族の全員が揃っても無理だろう……。


 そして、この部屋の寝室にある、これまた大きくてお姫様仕様の寝心地抜群のベッドの上で、私は嘆いていた。



 そう……前世を思い出して今日で約半年が経過した。

 あれから怪しまれない様に、それまでのレイチェルとして完璧に過ごしていたはずだ!……穴抜け魔法の件以外は。


 今日で学園の卒業式を2週間後に迎え、ゲームではその卒業式に殿下から婚約破棄され、いじめの件も纏めて断罪され、身分剥奪後に平民に落とされるはずなのに……。


どしてこうなったぁぁ!!


 うぉぉぉとベッドの上でのたうち回っていたが、ノックの音がしたので、ムクっと起き上がり大人しく隣接されたメインルームに行く。

 白を基調にした美しい装飾のテーブルについてから、公爵令嬢らしくスッと背筋を伸ばし入室を促した。

 すると私つきの侍女であるメアリーと、何人かの王城勤めである侍女がガラガラと食事を乗せたワゴンを押しながら入室してくる。侍女たちは、私に深々とお辞儀をしてから、テーブルに料理を並べ始めた。


「お嬢様、夕食のお時間です」


 なんとも良い香りが部屋に漂う。豪華な部屋に豪華な食事。この世界の軟禁は、(わたし)の知っているものとは随分と差があるようだ。

 今日の夕食も王家抱え込みの腕利きシェフが腕によりをかけた美味しいメニューなのであろう……。思わずコクリと喉がなるが、私には聞かねばならないことがある。


「メアリー……私は、いったいいつお家に帰れるのかしら」

「お嬢様……申し訳ございません……メアリーにはお答えできません」


 そう言って、本当に申し訳なく頭を下げるメアリーを、ここに来てから何度見かけたことか……。


「ーーメアリー。あなたはいったい誰の侍女なのかしら」

「お嬢様……メアリーは由緒あるご立派なソイルテーレ公爵家のレイチェルお嬢様にお仕えし、お嬢様のためであればこの命をかけることもいといませんわ! メアリーは、この命つきるまでレイチェルお嬢様つきの侍女にございますっ!」

「……。」


 不信の目で見ていると、メアリーはあたふたと全身を使って話し始めた。


「お嬢様がさぞかし不安であられることも、このメアリー理解しているつもりです!……しかしながら、いまは殿下のお言葉通りにすることが、お嬢様にとって最善の道であると思います! 旦那様や奥様も、ご納得の上、殿下にお嬢様の身を預けておられるのです。なので、どうかお嬢様! 今暫くはご辛抱くださいっ」



 この王城の一室に軟禁されて七日間、同じセリフを何回聞いたことか……。

 私は、私のことを疎んでいるはずの殿下により、何故だか大切に軟禁されているのだ。

 この七日間、外どころかこの豪華絢爛な部屋から一歩たりとも出られていない。これを軟禁と言わず何と言うのか……。


「さ、お嬢様。夕食をお召し上がりください」


 いや、いらないわ。と断りたい所だが、この美味しい香りに抗えそうもなし、せっかく作っていただいたシェフに申し訳ないし、何より食べ物に罪はないもの。食べますとも。

 そう思いながらカトラリーに手を伸ばしたとき、数回のノックの音との後見慣れた婚約者が入ってきた。


「やぁ、レイチェル。今日も無事に一日を過ごしたみたいだね。安心したよ」


 セドリックは優雅な微笑みとともに爽やかに入室し、私に話しかけながら公式な場でいつも着用している手袋を脱いで侍女に渡し、用意させたイスに腰掛けた。


「ええ、本日もつつがなく一日を過ごさせていただきましたわ。この部屋から一歩も出られない軟禁状態をのぞきましては……」

「ふふっ、これも全て、君を思ってのことだよ、僕の可愛いレイチェル」

「ーーあら、私はいつから殿下の可愛い人になったのかしら。ねえ、メアリー?」


 向かいの席に腰掛けた殿下を見て、持とうとしていたカトラリーを元に戻し、両手をテーブルの下に下げながらメアリーに流し目を送った。


「ーーお嬢様……」

「何を言ってるんだい、愛しい人。僕たちが5歳のときから結ばれているじゃないか。そのときから、君は僕のもの。僕は永遠に君のものだよ、レイチェル。」

「あら、そうでしたの?私、てっきり殿下のお心は他所にあると思ってましたのよ?私たちは国のため、陛下の命によって政略的に結ばれ、その関係も残すところあとわずか……そう、お聞きしていたはずですわ。殿下の、可愛いお方(エレーナ様)から」

「お嬢様、それは……!」

「いや、いいんだ。ありがとう、メアリー」

「あらあら、殿下には可愛いお方がたくさんいらっしゃるようで羨ましいですわね。ねぇ、メアリー?」

「ち、違います!メアリーは先ほど申し上げました通り、レイチェルお嬢様一筋にございますっ!」


 もうそれは必死に身を乗り出して熱く語るメアリーを、私は出来るだけ冷えた目を維持して見つめる。

 メアリーの真意を確かめる為に……。


「では、メアリー。そんな大切な主である私よりも、殿下を優先し庇うのはいったい何故なのかしら?」

「そ、それはっ……!」

「私がここ数日、貴方に訊ねていることはこういうことよ。……メアリー、貴方はいったい誰に仕えているのかしら?」

「お嬢様っ! どうかっ、メアリーのお嬢様への忠誠心のみはお疑いならないで下さいませっ! メアリーはっ、メアリーは……!」


 はらはらと涙が出そうなぐらい目を潤ませながら言い淀むメアリーは、いまにも犬の様にクーンと鳴きそうだ。

 しかし、レイチェルは冷たい態度のまま至って冷静にメアリーに問いかける。


「ーー可笑しいわね。私に忠誠心を尽くしてくれていたメアリーは、私と同じものを見て聞いて体験したはずで、私の気持ちを理解してくれているものだと思っていたのだけれど……。どうやら私の思い違いだったようね?」

「いえっ! メアリーの心は痛い程、お嬢様のお気持ちを感じましたわっ! はじめは、お嬢様のことを苦しめる殿下のことが憎くて憎くて、それはもう毎晩どうやってこの恨みをはらしてやろうかと思っていたぐらいでっ!……でも、殿下はっ……そのっ……実際に殿下のお話を聞くと……メアリーはっ……!」

「ーーでは、私のために心を痛めてくれたメアリーは、お優しい殿下のお言葉を聞いて心変わりをした……ということかしら?」


 そもそもメアリーとは、殿下とエレーナの仲を何度も一緒に見かけてきたはずだった。その度に、いつも一緒いる学友の5大貴族令嬢達以上に、怒り狂ったり涙を見せながら同情していたのが、私つきの侍女メアリーだったはずだ。


 そして、私がここに軟禁されたきっかけもメアリーだった。


 いつものようにメアリーが淹れてくれた美味しいお茶を飲んだと思ったら急激に眠たくなり、起きたら王城にあるこの豪華絢爛クジャク部屋に居たのだ。

 いったい何処の世に、忠誠を誓う主に睡眠薬を盛って誘拐を手助けする侍女が居るのか……目の前にいた。


「そんなっ!心変わりなどっ……! いえ……確かに考えを変えたところはございますが……でも、メアリーが第一に考えるのはいつもお嬢様の身の安全にございますっ!」

「へぇ……そう。貴方も、殿下と関わってから、面白い冗談を言う様になったようね? では、私はメアリーにお礼を云わなればいけないのかしら……薬入りの美味しいお茶を淹れて、私を閉じ込めてくれてどうもありがとう、メアリー?」

「ーーっ! お、お嬢様っ! そ、その際はっ、本当に申し訳ございませんっ! ですがっ……!」

「ーーそこまでだよ、レイチェル」


 それまで、黙って聞いていた殿下が口を開いた。

 優しい笑みを浮かべているつもりだろうが、私から見れば胡散臭いの一言だ。


「妬いているのかい? 僕の可愛いレイチェル。でもこれ以上、君を慕っているメアリーをいじめすぎては可哀想だよ。僕の愛しい人はこの世でただ1人、レイチェルだけなのだから安心して」

「あら、さすがは十数年私に仕えたメアリーまでもお味方につけた殿下ね。お言葉遊びがお上手ですこと」

「ーーレイチェルが、僕のことを信じられないのは分かっているさ。でも、君に長年仕え今でもこれほど君のことを慕っているメアリーを疑うのはいけないよ?」

「……」

「ーー今はまだ、ここに君を留める理由は言えない。でも、僕もメアリーも君のご家族の願いは一緒だよ。レイチェル……君を守りたいんだ」


 私の目をしっかりと見据えてそう言うセドリックの目に、嘘は無いように見えた。あまりにも曇りの無い綺麗な眼差しに思わずドキッとしてしまう。

 何も言い返さず、でもなんだか悔しくてジトリと湿った目線を送っている私に、セドリックはふっと軽く笑って見せた。


「さ、せっかくの料理が冷めきってしまう前にいただこうか」

「ーー。また一緒にお召し上がりになられるのですか?」

「もちろんだよ。レイチェルとこうやって二人で向かい合って、朝食と夕食をとるのが毎日の楽しみだからね。さ、食べようか」



 この七日間、セドリックは毎日必ず、朝と夕方にこの部屋に訪れていた。

 私の口からは毒しか出ていないはずなのに何が楽しいのか、それ等の嫌みをヒラリとかわしながら一緒に食事をとる。それはそれは、もう爽やかに微笑みながら、嫌みをかわしていくので、悔しいったらありはしない。


 今もこうして目の前で優雅に野菜のスープを飲んでいるセドリックを見ていると、思わず左頬がヒクヒクと痙攣した。


 いったいなんのつもりなの、この道楽浮気王子め……!こっちはこれからの大事な人生がかかっているのよ!?


 乙女ゲームはストーリがエンディングを迎えれば終了だが、この世界で実際にレイチェルとして生きている私の人生は、死ぬまでエンディングなんて迎えれないのだ。

 いや、ヒロインちゃんが間違ったルートを選んでしまえば、私もゲームと共に人生に幕を下ろさなければならないのだけど……


 いや、でもセドリック殿下ルートは王道で一番簡単な攻略対象だと妹が言っていたはずだ。

 選択肢も何を選んでも好感度が上がっていき、エンディングまでサクサク進んでいける相手らしい。

 あまりに簡単すぎるため、バッドエンドになる方が難しいと、妹は逆にバッドエンドになるため奮闘してはハッピーエンドを迎えて撃沈していた。

 バッドエンドになることが難しすぎるため、バッドエンドの存在すらないのではないかと妹は疑っていた。だから私もバッドエンドの際のレイチェルどころか、その他のストーリーなんて知らない。

 そもそも妹からストーリーの流れや、萌えポイントなどは聞かされていたものの、細部の分岐点までは覚えていない。


 でも、レイチェルがセドリックに軟禁されるなんて、どのルートでも聞いたこともなかった。

 もしこのゲームでレイチェルがセドリックに軟禁されるのであれば、それは牢屋でないといけないのではないか?


 詳細なんて知らないし、はっきり覚えていることも少ないけど、今のこの状況がおかしいのは明らかだ。

 こんな状況のなか、本当にヒロインちゃんはハッピーエンドを迎えられるのだろうか……そして私の望みである平民落ちは叶うのだろうか……。


まさかこれが幻のセドリックのバッドエンドルートなのかな……。


 そう考えてしまった途端、ブルブルと身震いがした。

 もしそうなのであれば、これからどんな目に遭うのだろう……死にたくないな……。

 もし死んでしまうエンディングなのであれば、最後に一目あの人に会いたい……。



 カチャカチャとカトラリーの音しか響かない部屋で、思わず呟いてしまった私の声は、思っていたよりも大きく響いてしまった。



「ショーン…」


 

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