おまけ〜セドリックとクリスフォードによる幕間〜
異世界転生日間ランキング1位本当にありがとうございます(;;)
信じられない気持ちでいっぱいです……
お礼にはならないとも思いますが、感謝の気持ちをこめての、おまけです。
少しでも楽しんでいただけますよう願ってます^^
「――おい……セドリック……。俺はレイチェル嬢を守れと言ったんだ」
「ああ。だから、守っているじゃないか」
「――お前の部屋の隣に閉じ込めてかっ!?」
「うん。あそこなら、なにがあっても安心だろ?」
「――お前なあ……。もっと他のやり方があるだろう!?」
「いや、これが最善だ。これ以外いい案はない」
「あのなぁ……公爵家に居てもらってお前の騎士団を付けてやりゃあ済むだろう」
「クリスはレイチェルを分かってない。だいたい、レイチェルはセドリックを嫌っているんだよ? そんな嫌いな奴から、理由も説明されず身を守るためだと言って騎士団を送られて一日中ずっとそばにおいてみろ。監視されてると疑って、百パーセント逃げ出すに決まってる」
「――だからってなぁ……いいか? よく聞けよ? お前がやっていることは、軟禁っつうんだよ! この馬鹿王子がっ!」
「――随分な言われようだな。それに軟禁だなんて物騒な言い方をしないでくれ。俺はレイチェルを大切に保護しているんだよ。クリスは本当のレイチェルを知らないから、そんな呑気なことが言えるんだ。俺としては、まだまだ足りないぐらいだよ。いっそのこと、レイチェルを小さくして俺の胸ポケットに入れて持ち運びたいぐらいだ」
「――お前が馬鹿でいくとこまでイっちまったのは分かったよ……お前が王家の人間で、ドリュフェルノ竜帝王の厄介な加護を紛れもなく受け継いでいるってのもな」
「――どういう意味?」
「――なんもねえよ……しかし、良いのか? お前、こんなことして、ますます嫌われるぜ?」
「あぁ……もういいんだ……もう嫌われるところまで嫌われているからね、平気さ。というか、俺が何をしようとレイチェルはどうでもいいんだよ。好意の反対は無関心って言うだろ?」
「――お前なあ……鏡貸してやるから、今と同じこと、もういっぺん言ってみるか? ひどい顔してんぞ? とてもじゃねえが、平気ってツラじゃねえよ」
「…………そうだね。クリスの言う通り、平気……では、ないよ。でも、嫌われてもいいからレイチェルを守りたいんだ」
「――セドリック……」
「やっと何が大切か分かったんだ。過去の馬鹿な俺はできなかったけど、今回はレイチェルを絶対に守るって決めたんだ」
「安心しろ。お前は今でも馬鹿だぜ?」
「分かっているさ。決して褒められたことをしているわけじゃないって。こんなことをしてもレイチェルには嫌われる一方だって。でも、それでも彼女に傷一つ付けさせたくないんだ。今の俺にできることは、それしかないから」
「――はぁ……お前も大変だな……いっそのこと、もう本当のこと言っちまえばどうだ?」
「ははっ。俺もそれは何回も考えたよ……。でも、ひっくりかえっても俺はこの帝国の第二王子だ。何者に化けたところで、俺はこの責務から、自分という存在から逃げられないんだ。それに……途中で任務を放り投げたほうが、レイチェルに嫌われる気がするんだ」
「……」
「――打ち明けるなら、あの日あの場でじゃなくちゃだめだったんだ。もうすでに、レイチェルをたくさん傷つけてしまってるのに、任務まで途中で放り投げて縋り付いたら、レイチェルにも嫌われるし男としても人間としても王子としても、全てにおいてダメになる。もちろんそれでレイチェルが許してくれるなら、今からでも縋り付きに行くけど、レイチェルはきっとそんな俺を許してくれないと思うんだ。曲がったことは死ぬほど嫌いだしね」
「――なら、せめて、セドリックとして愛してるって言えばどうだ?」
「エレーナと逢瀬を重ねているのにか?」
「――あぁ、そうだったな……」
「でも、この件が片付いたら言うよ。愛してるって。何百回でも、何千回でも、何万回でも。謝り倒して、みっともなく縋り付いて、足枷になってでも、どこにも行かせない。行かせるもんか。無関心でも嫌われてても良いんだ。そばにいてさえくれればね」
「――やりすぎだ、馬鹿。俺は、もしレイチェル嬢が望むのなら、放してやるのも愛だと思うぞ?」
「――驚いた。レイチェルと同じことを言うんだね……そうだね……レイチェルもクリスも優しいからね。でも、俺は思慮に欠けていて、自己中心的でエゴイスティックで最低な第二王子だからね。そんな優しさは持ち合わせていないんだよ。嫌われても無視されてもなんでも、大切なものは側に置くんだ。絶対に誰にもやらないし、どこにも行かせない。これが、史上最悪の俺の愛だよ」
「――ほんと最悪だな、お前……それが出来る立場にあるのが、さらに最悪だよ。大精霊ウラン様もなんでこんな奴を子孫として選んでしまったのかねえ」
「なんとでも。レイチェルが側にいない地獄に比べたら、どこもかしこも楽園だからね」
「お前、ほんと馬鹿な。……でも、嫌いじゃないぜ? そんな馬鹿なお前も。お前の、相手を絞め殺しそうな醜悪な愛もな」
「ふふっ。ありがとう」
「どういたしまして。……しゃあねえから、ことが片付いたら、俺も一緒に謝ってやるよ」
「それは、心強いな。でも、遠慮しておくよ。もしレイチェルがクリスを好きになったら、お前のことを殺さなくちゃいけないし、俺も一番の親友のクリスを殺したくないからね」
「おいおいおい……さすがにそれはねえぜ?」
「地の底の俺よりはクリスの方が魅力的に映るかもしれないからね。可能性は芽になる前に摘んでしまわないとね」
「――――はぁ……レイチェル嬢が今からかわいそうになってくるぜ」
暗く光るセドリックの瞳を見ながら、クリスフォードは心の中でレイチェルに手を合わし、ウランに祈りを捧げたのだった。




