23※セドリック視点
誤字脱字のご報告、評価と感想をいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
感想の返信は、完結した後に一つ一つお返ししたいと思っておりますので、ご容赦ください。
これを書く前に、頂いた感想を読ませていただきながら、いろいろと考えました。
4つほど書いてボツにし、結局こんな時間の投稿になりました。
当初考えていたものとは少し違うものになりましたが、楽しんでいただけると幸いです……。
今日は、あと1話、出来上がり次第更新します^^
レイチェルとは、結局あれからずっとショーンとして会っている。
レイチェルから、平民になるつもりだと聞いた時は、驚きすぎて顎が外れてしまうかと思った。同時に、もうレイチェルに見放されていると思うと消えて無くなってしまいたくなる。
任務を早く終えて、はやくレイチェルに謝らないと……。
でもレイチェルは公爵令嬢という地位を捨てて平民になろうと決めているぐらいセドリックのことを嫌っている……。
もういっそのこと、ついた嘘を死ぬまで突き通そうか……。
最近は何処にいても何もしていてもレイチェルのことばかりを考えてしまう。卒業まであと一月に迫りそうなのに、子爵の尻尾はまだ掴めない無能な自分を罵りながら、作成途中の報告書類に字を書きなぐった。
すると、焦った気持ちから字を間違えてしまい、思わずペンを折ってしまいそうになり、バンっと音を立てて机に置いた。
最近はまるで自分が別の人間になってしまったようにコントロールができない。怒りの感情を含め、そのほかの感情も全てうまく抑制ができないのだ。こんな自分だから子爵の尻尾を掴むどころか影さえ踏むことができないんだと思い、深い息を吐きながら頭を抱え込んだ。
――レイチェルに会いたい……。
レイチェルは、ショーンを可愛いと言った。
正直、あの時は嬉しくて舞い上がりそうだった。
でも、レイチェルはショーンに可愛いと言ったのだ。セドリックにじゃない。ショーンは自分なのに、ひどくイライラする。そんな資格はどこにも無いくせに、だ。
レイチェルはおそらくショーンのことを憎からず少しは好意を持ってくれていると思う。それが死ぬほど嬉しいのに、同じぐらいどうしようもなく悲しくて心が引き裂かれてしまうような気持ちになる。ショーンが俺だと分かれば、レイチェルはきっと俺の元から居なくなってしまう。そう思うと目の前が真っ暗になる。
兄を支えて、この国を守っていくことが使命だと思っていた。素晴らしい兄を支えて、役目を果たすことがセドリックの責務であり、俺がこの世に生を受けた理由とすら思っていた。なんの不満もなかったし、未来になんの不安もなかった。
あの日、あの場所で、レイチェルの目を見るまでは……。
レイチェルが困ったような顔で笑い、温かい目でショーンを見るたびに、子供のように泣いてしまいそうな自分がいる。過去の自分も、レイチェルに柔らかい視線を向けられるショーンも殺してしまいたい。
そんなことを悶々と考えているところに、生徒会室の扉が勢いよく開けられて、現実に引き戻された。
吐き気のする現実を運んできたのはクリスで、彼は俺が座っているデスクの前に強張った顔で近づくと手に持っていた書類をバーンと音を立てながら叩きつけた。
「おい!急いでレイチェル嬢を回収しろ!……彼女が危ないっ」
唐突すぎる知らせに呆然とするが、レイチェルの名前が出たことで、頭がゆっくりと回り始めた。
「あの野郎、コソコソと何か企んでやがると思ったら、レイチェル嬢を誘拐するつもりだ!」
ハッとして、クリスが持ってきた書類を急いで掴みあげ、目を通していく。
「――残念ながら、まだ証拠はねえ。いや、正式にはそれらしいものはあったんだが、今朝そいつが死んじまいやがった」
クリスの話によると、子爵から大金を受け取っていた男を捕まえ聴取をしていたのだが、その男が今朝自ら命を絶ったらしい。その男は裏の世界では名が知れていて、人身売買専門の組織に身をおいて金を荒稼ぎしていた悪党らしい。
我が帝国では人身売買は禁じられているが、貧しい平民の間では残念ながら頻繁に起こっていた。もちろん、父上もギルバート兄さんもその件には頭を悩ましていて、なんとか対策を立てても、次なる抜け道が生まれ人が売買されてしまうのだ。
そんな組織に身をおいている男が、レイチェルの周りを嗅ぎ回っていたらしい。クリスが怪しんで、男の調査を始めると、その男が頻繁に子爵家を出入りしていたのだ。
「くそっ! せっかくブチ込めそうな証拠を握ったと思ったのに、腹が立つぜっ! とにかく、そいつは死んだが、レイチェル嬢が安全とは言えない状況だ」
俺はゴクリと音を立てて唾を飲み込んだ。
――レイチェルが危ない……そう思うと居ても立っても居られなかった。
はやくレイチェルを安全なところで守らないと……!
「――分かった。とりあえず、公爵家に行って話をしてくる……!」
「おい待てよ。――その前にもう一つ報告がある……エレーナ・ハイムは黒だぜ?」
椅子から勢いよく立ち上がって、急いで公爵家に向かうとする俺を止めたクリスの言葉に驚いて振り返った。
「――証拠は……掴んだのか?」
「いんや。でも、俺のカンがそうだと言ってる」
いつもなら、お前は動物かと突っ込むところだが、この時の俺はそんな余裕などなかった。なぜなら、こういったクリスのカンは外れたことが無かったからだ。
それに、エレーナ・ハイムと逢瀬を重ねていた俺もそれには気づいていた。気づいていた上で、子爵の尻尾を掴むためわざと泳がしていた。敵は手の内で飼って転がすに越したことはない。
「――そうか……」
「ま、こんなことはお前も分かってんだろうけどさ。一応な。あの女は、ただの子爵の駒じゃねえ。むしろ、子爵があの女の駒だ」
最近はレイチェルのことで頭がいっぱいな俺は、エレーナと会っても任務のことなんて忘れて上の空だった。そんな俺を見て、焦り始めたのかエレーナのボディータッチはどんどん積極的になり始めていた。しかし、俺には彼女の光の力は通用しないので、ただ鬱陶しいだけだった。
虫が集ってきた時のように、払い除けてしまいたいと何度考えたか分からない。しかし、その度にレイチェルのことを思い出し、はやく任務を終えなければと考え堪えてきた。
しかしレイチェルに手を出そうというのなら話は別だ。
子爵の尻尾を掴めれば、あとはどうでもいいと思い、エレーナの件は兄さんに丸投げしようかと考えていたが、俺が直々に裁いて……否、捌いてやろうと思い手を握りしめた。




