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悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う  作者: せららん
悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う
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20※セドリック視点

日間異世界転生ランキング3位、ありがとうございます!m(_ _)m

驚きすぎてひっくり返りそうです…

こんな順位を頂けるなんて恐縮ですが、本当に嬉しいです(;;)

誤字脱字のご報告、ご感想、たくさんの評価、本当にありがとうございます!

ゴールデンウィーク中の完結を目指して引き続き頑張ります^^



 あの話から数日後……エレーナ・ハイム子爵令嬢が学園に入学してきた。学園に入学したということは、紋章持ちだと認めたようなものだ。しかし、兄から聞いた話では、彼女の紋章が光の加護ではない、新しい紋章として登録されたらしい。

 ごく稀に平民の間に新しい紋章を持った者が生まれてくる。彼女はその一例として神殿に認められ登録されたようなのだ。

 神殿を買収したか、もしくは欺いたか……どちらにせよ、聖ウラン教を国教にしている帝国では大罪である。後者であれば、俺の任務も相当厄介で厳しいものとなりそうだと思い気を引き締めなおした。

 

 まずは、その新しい紋章とやらの有無を調べるため、予定通りごく自然にエレーナ・ハイムに近づいた。





◇◇◇◇◇





 学園から戻り、自宅である王城の長い廊下を歩く。毎日、数名の下女によってピカピカに磨かれている廊下は、光によって歩く者の姿を鏡のように映し返している。

 希少な魔獣の皮で作られた靴がコツコツと耳当たりの良い音を響かせていた。

 

 突き当りまで歩くと大きな扉があり、その奥は兄ギルバートの執務室として機能していた。王家の紋章が刻まれた扉を数回ノックし入室する。


「やぁ、兄さん。今いいかな?」


 兄は相変わらず眉間にシワを寄せて難しい顔をしていたが、俺を見てからペンを机の上に置き、ソファーに座るよう促した。お言葉に甘え、兄の執務室に合うように作られた落ち着いた色の上質な革張りのソファーに腰掛けながら、報告に入る。


 兄に任務を頼まれてから、約三ヶ月経過していた。


 俺はエレーナ・ハイムに容易に近づくことに成功していた。それはもう拍子抜けするぐらい簡単だった。回数は多くはないものの、女性貴族を摘発したこともあったので、女性に近づくという任務自体は初めてではない。だが、ケースがケースだっただけに、俺は慎重になり久々に緊張までしていたからこそ、なんともあっけない結果にため息が出そうになった。


「――新しい紋章だけど、どうやらそれは嘘のようだね。エレーナは間違いなく光の加護を持っていて、その加護を俺に使っているし、周囲にも使っている。これに関しては、もう幾つか証拠も揃っているよ」


 エレーナ・ハイムは、俺と出会った瞬間から、光の加護の力を使ってきた。彼女がおそらくワザと落としたハンカチを俺が拾い、渡したときだった。身体中をかける暖かなものに、思わずウットリとしてしまったのでよく覚えている。

 しかし、大精霊ウランの力をほぼ受け継ぎ、さらには竜帝王ドリュフェルノの加護までも持っている王家に生まれた俺には、遠く及ばない力だった。


「あれは、確かに危ないね。王家以外は多分イチコロだと思うよ。特に異性に対しては、力の相乗効果も見られたよ。一応、レイチェルとクリスを含めた5大貴族の者には守護魔法をかけて対策しておいた」

「――そうか……それは苦労をかけたな。後の重鎮達は俺が対応しておこう。それで、力の発動条件と力量は分かったか?」

「うん。発動条件は、相手の体に一瞬でも触れることだね。触れている時間が長ければ長いほど、力は強くなるみたいだよ。でも、エレーナはどうやら自分の力について把握しきれていないみたいなんだ」


 俺が推測するに、エレーナ・ハイムは、どうやら無意識に力を使っていると思われた。つい先日まで平民として市井で暮らしていた彼女は、紋章やその力について学んだことなどないと言っていた。

 これは対策を練る上で、良いようにも悪いようにも捉えられたが、兄の浮かない表情を見ると後者だったようだ。


「つい、この間まで市井で過ごしていたらしいからね。ほとんど力をコントロール出来てないって言ってもいいぐらいじゃないかな」


 エレーナに近づき、彼女のことを調べる中で一番厳しかったことは、彼女の力を受けているフリをすることだった。

 女性向けの恋愛書物や舞台などから学びつつ、エレーナが喜びそうな言葉や仕草を徹底していた。半ばやけくそになって、やり過ぎてしまったかと焦った時もあったが、彼女はうっとりとしていたので安心した。

 女性は甘い砂糖菓子のような言葉が好きだと思っていたが、ここまでとは思っていなかった。演技力に自信があったが、流石に少し疲労が溜まってきていた。


「今ちょうどクリスに手伝ってもらって、ハイム子爵についても調べてるところだよ」

「――そうか。その調子だと卒業までには片付きそうだな」

「うん。たぶん、このまま順調にいけばおそらくはね。」

「――レイチェル嬢とは、どうだ?」


 兄の質問に、クリスからの報告を思い出して少し返事が遅れてしまう。兄はそれを良くないものとして捉えてしまったようで、眉を下げ少し申し訳なさそうにする。


「レイチェル嬢は何も知らないからな……彼女には悪いことをしたな……改めて、公爵夫妻にフォローしてもらえるよう俺から伝えておこう」

「――ありがとう。最近は少し距離を置かれているだけで、おそらくは大丈夫だと思うよ」


 学園での俺とエレーナの評判は少しずつ下降している。初めは、内密に逢瀬を重ねることを考えていた。しかし、あらゆる目立つところで声をかけてくるエレーナを無下にすることもできず、結局は学園で噂される逢瀬となってしまった。俺は、これを逆手に取り子爵の尻尾を掴もうと、今ではワザと大胆に逢瀬を重ねている。

 エレーナに近付き始めた頃は、レイチェルはまだ頻繁に会いに来てくれていた。しかし、任務がありそれを伝えられない上に、レイチェルを巻き込んでしまうと思い、冷たい態度を一貫していた。レイチェルはそんな俺に何を言うでもなく、相変わらず下を向いたままだった。

 そしてこの頃は、俺とエレーナの逢瀬の最中に通りがかっても、どこか他人事のように見ていた。その様子からして、レイチェルは怒っているというよりは、呆れているという表現に近いと思われた。


「まあ、俺たちは元々が政略だからね。そんなに心配することもないさ」

「――セドリック……俺がこの件をお前に頼んでおいて、こんなことを言うのは立つ瀬がないことは分かっている。だが、お前の女性に対する対応は、少し思慮に欠ける時があるぞ。レイチェル嬢とお前は確かに政略で結ばれたが、一人の女性の人生を預かる身なのだ。もっと、大切にしてやれ。お前が父上と母上に大切にされているように、レイチェル嬢も公爵夫妻にとっては掛け替えのない大切な娘だ。政略だろうと何だろうと、いずれ夫になるお前は、妃となるレイチェル嬢を大切に守ってやる義務があるのだ。分かるだろう?」


 兄は椅子から腰を上げ、ソファーに座る俺の側に座ると、心底心配だと言うような表情で俺の肩に手をおいた。

 

「そもそもレイチェル嬢とお前が政略で結ばれたのは、王家の事情が大いにあるのだ。レイチェル嬢からすれば、そんな事情に巻き込まれたに過ぎん」


 俺とレイチェルが婚約することになったのは、何も身分が釣り合うといった理由からではない。

 王家の男は必ずと言って良いほど、大精霊ウランの力だけでなく竜帝王ドリュフェルノの加護を受け持つ。このドリュフェルノの加護こそ、今まで王家が王家として成り立ってきていた大きな理由だ。しかし、この竜の力は同時に厄介な問題も残した。

 竜の加護を受けた王家の者は、他者を圧倒する力を持っている。そんな力を持つ者の赤子を、普通の者が身籠もれば命はない。竜の加護を持つ赤子は腹の中にいる間、母親からの魔力の供給が必要となる。しかし、その途方も無い供給量に魔力の量が追いつかないと、母親は腹のなかの子共々死んでしまうのだ。

 ヒューベルトから4代目の王が、この悲惨な体験をして、王家の歴史に刻まれることになった。そして今現在も、王家の秘密として大切に扱われている。

 以後、王家に嫁ぐ者の資格は、身分よりも魔力の量が重視されるようになった。しかし、魔力の多い者は身分の高い者に多いこともあり、必然とこの二つはセットになってしまった。

 その他に年齢や性格などできるだけ考慮してから慎重に選ばれるのだ。


 そして、レイチェル・ソイルテーレもまたそうして慎重に選ばれた婚約者だった。


「――いずれレイチェル嬢にはお前の子を産んでもらわねばならんのだ。第二王子として俺の隣に並ぶお前を支えることは容易なことではないはずだ。お前は、そんな妃に常に感謝の気持ちを持たねばならん。お前が好き勝手相手を選べないように、レイチェル嬢もそうだ。ならばせめて、お前が彼女を幸せにしてやるべきだ。分かるだろう?」


 母上譲りの柔らかい髪を撫でられる。もう来年で18だが、兄にとってはいつまでも可愛い弟として映るらしい。

 俺は特段嫌がるそぶりもせず、大人しくされるがまま受け入れた。


「――そうだね……兄さんの言う通り、これからはもっとレイチェルのこともちゃんと考えるよ」


 俺がそう言うと、兄は優しい笑みを浮かべて、再び俺の頭を撫でた。

 初対面の人が見たら恐ろしく貫禄のある兄だが、俺に対しては良い兄であり、甘い兄だった。

 そんな兄からの珍しい説教に、確かに少し思慮に欠けていたと、その日1日考え反省することになった。



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