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悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う  作者: せららん
悪役令嬢でヒロイン虐めていたけど面倒になったのでシナリオ通り平民になろうと思う
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18※セドリック視点

ここからしばらくセドリック視点です。

今日も頑張って3話投稿したいと思ってます^^



 最近、婚約者の様子がどうもおかしい……。

 以前は、必ず毎日どこかしらのタイミングで声をかけにきていたが、ここ数日は姿どころか影すら見当たらない。


「セドリック様!今日はマフィンを焼いてきましたっ」


 嬉しそうに腕を絡めながら、カゴに入った手作りのマフィンを見せてくるのは、エレーナ・ハイム子爵令嬢だ。


「あぁ、これは美味しそうだ!ありがとう、エレーナ」


 俺は、できるだけ嬉しそうにニッコリと微笑んだ。エレーナは、俺の反応を見て頬をうっすらと染める。可愛らしい彼女の見た目も伴って、その姿は可憐だ。そんな彼女に、慣れたように甘い言葉をかけてから、籠を受け取る。


 ここ最近は、ほぼ毎日、学園の薔薇庭園でエレーナと逢瀬を重ねていた。


「エレーナ、僕のためにマフィンを作ってくれることは嬉しいけど、君の綺麗な指が心配だ。もう、あまり無理はしないで?」

「セドリック様っ!私のことを心配してくれてありがとうございますっ!嬉しいっ」


 遠回しに、もうお菓子はいらないと言ってみたけど、通じなかったようだ。


「私は大丈夫ですっ!セドリック様に喜んでもらえて嬉しいっ」

「ーー僕もだよ!可愛いエレーナが、僕のためにせっかく焼いてくれたんだ。あとで大事にいただくよ」


 熱に浮かされたような瞳でうっとりと見つめてくるエレーナを、できるだけ彼女と同じ熱意を保ったままの瞳で見つめ返した。しばらくの間、お互いを見つめあった後、名残惜しいといった態度で彼女と離れた。

 いつものように、エレーナを教室に送った後、生徒会室に入るとクリスが待機していた。


「ーーはぁ……またか?」

「うん。悪いけど、また毒の検査をした後、ビアンカにあげてやってくれ」

「おいおい……いい加減、ビアンカも太るぞ?」

「ーーそうだね……今日は遠回しにいらないって言ってみたけどダメだったよ」

「はぁ……仕方ねえな。今後はビアンカ以外の道も探さねえとな」


 呆れたようにため息をつくクリスに苦笑いを浮かべて、ソファーに腰掛けた。

 ビアンカとは、俺が3歳のときに父上から貰った愛馬の名前だ。クリスはエレーナのお菓子を処分するべきだと言ったが、市井で食べるものに困る民を知っているからこそ、食べ物を粗末にすることはどうしてもできなかった。だから苦肉の策で、毒の検査ののち愛馬に与えているのだ。


「最近、レイチェルはどうしてる?」

「そうだな……いくつか出る選択授業を減らしたみたいだぜ?もう十分に学んだような科目も律儀に出てたのに、どういった心境の変化かねえ」

「ーーそうか……それは少し気になるな。引き続き、よろしく頼むよ」

「おうよ。任せときな」


 ニカッと綺麗な白い齒を見せて笑うクリスに笑みを返して、今日のスケージュール表の確認に入る。

 このときは、まさかレイチェルが市井に下りて居たなんて知る由もなかった……。




◇◇◇◇◇




 俺の名は、セドリック・ウラン・ハイデン。

 この世界の約5割を支配下に置く、(セイント)ウラングランド帝国の第二王子だ。

 帝国の5大貴族のうちの令嬢、レイチェル・ソイルテーレとは、互いが5歳の頃に婚約を結んでからの付き合いとなる。

 父親であり現帝王である、グウェン・ウラン・ハイデン帝王の命により結ばれたこの婚約に不満はないものの好感もなかった。


 ソイルテーレ公爵家は歴代首相一家だ。この帝国のメイン頭脳と言っても過言ではない歴史ある家の令嬢と、第二王子の俺が結ばれるのは何らおかしくない。それに加えて、レイチェルが選ばれたのには王家の秘密も大いに関係していた。


 ちなみに王位継承権は第一王子である兄の、ギルバート・ウラン・ハイデンにある。兄に何かあったときのみ、俺に継承権が回ってくるのだが、おそらくそのようなことは無いだろう。そのための5大貴族だ。


 将来ゆくゆくは帝王になる兄ギルバートを一番近くで支え、もしものときのスペアとして国民を安心させる存在になることが、俺の役目であり使命である。


 兄ギルバートは恐ろしく真面目で冗談の通じないような堅物だが、国民はもちろん貴族や神殿からの信頼もあつい。そんな兄を持てて幸せだとも思う。

 そして、婚約者のレイチェルもまた、この兄ギルバートと似たような真面目を絵に描いたような令嬢だった。あのソイルテーレ公爵家の令嬢だけあり、頭が良い上に物分かりも良かった。しかし、良く言えば真面目、悪く言えば冗談や軽口を言い合うなんて夢のまた夢のような面白みの無い人間だと思っていた。


 もう一度言うが、俺は真面目で信頼の厚い自慢の兄を持てて幸せだし、その兄をそばで支えていく将来に何の不満もない。そしてレイチェルとの婚約についても同様に不満はない。

 ただそんな兄や婚約者に少し飽き飽きしていたことは事実だ。こんな傲慢で自分勝手な考え方が、後からあんなにも自分を追い詰め苦しめるとは夢にも思わなかった。分かっていたら、未来は変わっていたのかもしれない……。しかし残念ながら、その頃の俺は退屈な日々を、少しでも改善できないかしか考えていなかった。

 

 13歳になり、王族である俺も学園に通い義務を果たすことになった。この歳になると、自分の見た目が婦女子にとって好ましいものであることを自負していた。

 幼い頃からお披露目会やお茶会などで自分に向けられる目線は他と違うということに気づいていたが、それが恋愛を含めたものだと自覚できたのはこの時ぐらいからだろう。

 どうやら、王族ならではの黄金の髪と、母上譲りのアレキサンドライトのようだと讃えられる瞳がご令嬢達には魅力的に映ったようだ。顔つきも母上によく似ているので、母上にぞっこんの父上からも、これでもかと言うぐらい可愛がられてきた。


 第二王子という身分は決して暇なものではない。学園生活に加え、帝王学や乗馬剣術など、学べばならないことは山ほどとあった。しかし、真面目で堅物の兄や婚約者と違い、要領の良い俺は程々という限度を知っていた。ずる賢いと言われてしまえば、そうとも言えるが、俺としてはストレスを軽減して生きるための知恵と言って欲しい。


 15歳を過ぎた辺りから、俺は兄を支えるための勉学の一つとして市井に渡るようになった。民達が日々をどう生き、何に苦しみ、何を楽しんで過ごしているかを知ったり、市井での様々な仕組みを覚えることはとても新鮮で楽しかった。

 そして、この頃から俺に専属の近衛騎士がついた。5大貴族の一つであるアイレヴェール侯爵家子息、クリスフォード・アイレヴェールだ。幼い頃から仲の良い友人だから、公式の場以外では堅苦しいやりとりもない。クリスは、俺が信用できる数少ない人間の一人だったから、単純に嬉しかった。


 一方、婚約者のレイチェルも王子妃教育が一層厳しいものになったのはこの頃からだ。俺は、限度というものを知っているが、兄によく似たレイチェルはそうではない。いくら優秀で頭のいいレイチェルでも、キャパシティは存在する。もっと、肩の力を抜けばいいのにと心の中で何度も思った。



 ーーまさか、レイチェルが俺のことを思って頑張ってくれていたとは露知らず、他人事のように考えていた俺は婚約者として最低だと思う。彼女に嫌われて当然だ……。



 しかし、このときの俺は、政略で結ばれた俺に対して、そこまで思慮してくれているなんて思いもしなかった。だって、彼女が俺と会うときはいつも下を向いていたし、どこか居心地が悪そうにしていたから。俺がどれだけ近づこうとしても、頑ななレイチェルの姿に、いつからか俺も諦め上辺だけで向き合うようになっていった。


 さらに時は過ぎ、市井のことを殆ど掌握できた頃には、王族としての仕事を幾つか任せてもらえるようになった。その中の一つが、貴族が営む店などの総合的な管理だ。

 いつの世も、富に胡座をかき貴族としての役目を果たそうとするどころか、金銭を貪り続け民を苦しめる腐敗した貴族がいる。そんな者達を見つけ、改心するよう仕向けたり、または貴族会議にかけたりすることが主な仕事だ。

 想像していたよりも上手くいくこともあれば、その逆も然りだ。しかし、やりがいのある役目だったし、何よりも俺自身が楽しんでいた。爪を隠して相手に近づき、決定的な証拠を見つけてから叩きのめすことは爽快だった。

 母上によく似ている柔らかい容姿とは真逆な中身だと、クリスにも言われるが、俺も至極そうだと思う。むしろ、厳しい顔つきをしている兄のギルバートの方が俺よりも他を思いやる優しさを持っていた。


 任された仕事が自分に向いていたこともあり、俺の功績はめきめきと上がっていった。

 そして去年、17歳を迎えた時には、父上や兄上を含め5大貴族の現当主にも認められるようになった。


 そんな俺にある重大な任務が言い渡された……。


 

「エレーナ・ハイムに近づいて欲しい」



 全ての始まりは、兄ギルバート・ウラン・ハイデンの一言だった。



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