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ゴールデンウィークですね。
今日も頑張って3話投稿します^^
短いですが、区切りが良かったのでとりあえず1話めです。
私が前世を思い出してから、すでに5ヶ月が過ぎた頃、セドリックとエレーナの仲は学園中が知るものとなっていた。
今となっては、レイチェルが学園のどこかを歩こうものなら容赦ない視線とヒソヒソとした声が突き刺さる。ほとんどがレイチェルへ同情し、エレーナを非難する内容なのだ。これではどっちが悪役か分かったものではない。
確か妹に聞いていた話では、レイチェルが学園で同情されていたなんて話はなかったはずだが……。
何かがおかしいと思いながらも、セドリックとエレーナの仲は順調のようなので、放置することにした。
以前、エレーナからも直にセドリックとは卒業後一緒になると報告されたわけだし、大丈夫だろう。
全てはあの二人が上手いことくっついちゃえば良しなのだ!
だけど、ここ最近エレーナの身の回りではまた怪奇現象が起こり始めているらしい。もちろんレイチェルの仕業ではない。
誰かが故意にヒロインちゃんに嫌がらせをしているのだと思う。
あの可愛らしい見た目で多くの男子生徒のハートを鷲掴みしているヒロインちゃんだ。男子生徒の中には婚約者がいる者もいるらしいので、恨まれる要因は大いにある。レイチェルが過去エレーナを恨んでいたように……。
しかしレイチェル以外に、セドリックをも味方につけた支持率の高いヒロインちゃんをいじめようとするなんて、勇気のある者も居たものだなぁと感心した。
◇◇◇◇◇
「計画は順調かい?」
「えぇ、全てとは言えないけど、大凡は順調ね」
「そうか……」
この頃になると、私が市井に降りる際は必ずショーンと会うようになっていた。
「なぁに?私の平民化計画が上手くいきそうなのが不満のようね?」
「── 不満……そうだね……」
「貴方、自分の顔を鏡で見てごらんなさい?まるで、お菓子を取られた子供見たいよ」
「はは……それは、情けない顔だろうな……君に幻滅されそうだ」
こんな元気のないショーンを見たのは初めてかもしれない。
ショーンは、下を向いたまま、食べていたケーキをつつきながらボウっと眺めている。そんなショーンの姿が、私にはとても可愛らしく映った。
ここ数ヶ月、短い間だけど、ショーンと過ごした日々は甘く濃厚で、そして陽だまりのように暖かいものだった。
ショーンの頭の回転の速さや、彼なりに正義感の強いところ。はじめは何とも腹の読めない男だと思っていたが、知り合っていけば意外に素直なところ。そして、時折ふとした時に感じる優しくて暖かいと言うには温度の高すぎる視線。私には、彼の全てが愛しく思えていた。
そして、この気持ちはおそらく一方通行ではないと、気づいている。そして、それはショーンも同じだろう……。
「そんなことないわ。ショーンはどんな顔をしていても可愛いもの」
ショーンは弾かれたようにわたしを見てから、困ったように苦笑いを浮かべた。
「ーーまいったな。男として、可愛いと言われて喜ぶべきではないのに、君に言われると舞い上がりそうだ」
「ふふっ。可愛いわね、ショーン」
「くそっ、やめてくれ」
滅多に言わない悪態をついて、わざと不貞腐れたように下を向くショーンの耳はうっすらと赤みをおびていた。
本当に可愛らしい……。
男性に対して可愛いと思うのは失礼だと思いつつ、普段が完璧で頼りがいのあるショーンだからこそ、ふと見せる一面がとても可愛らしく感じてしまうのだ。おそらく私だけに見せる、彼の貴重な一面が、今は世界のどんな珍しく美しいものより綺麗で大切なものに思えた。
本当に、この暖かい時間がずっと続けば良いのに……。
そう思うと、胸がきゅっと締め付けられ、恋愛独特の甘い痛みが胸に広がる。そう言えば、いつかセドリックがエレーナに似たようなことを言っていた。
あのときは、三文芝居のような薄っぺらいセリフだなんて思ってしまったけど、きっとセドリックもこんな気持ちになっていたのだろうなあと思うと、あれほど理解出来なかったセドリックの気持ちに少しだけ寄り添えた気がした。
それにしても、顔を伏せたまま居心地が悪そうに、私の視線に気づかないフリをしているショーンは可愛い……。願わくば、この甘い痛みが2人のこれからの人生の中で、美しい思い出として、いつまでも残りますように……。
そっと胸の中で唱えながら、目の前のカップを口につけた。




