クロに喋らせてみた
連載中の本編「転生冒険者の獣人奴隷入りハーレム設立への道」のキャラ固め用のショートです。本編の話の都合で平気で改変されることがあります。
時間的には第一章終わった後です。
あたしの名前はクロ。……親は物心付いた時にはもういなかった。
ここからずっと遠くの、東の山の中の郷で同じような親のない子供達と一緒に暮らしてたわ。
世話をしてくれる大人は何人かいたけど、みんなが母ちゃんと慕っていたのはシロガネって名前の獣人だった。同族って言ってたけど髪と尻尾があたしとは違って綺麗な金色。血は繋がってないけどあたしにとっても母親と言って間違いはないわね。優しくて強くて面白い素敵な人だったわ。
……あれ以来何年も会ってないけど、あの人は絶対に死んでなんかないわ。
郷には人間の大人も少ないけどいたわよ。耳と尻尾がある私達と比べると、ちょっと違うし身体も弱いけどシロガネとは友達みたいだった。
大きくなってから郷に来た子達はすごく嫌ってたけど、別に嫌なことはしないしあたしは特に何とも思わなかった。シロガネもその人間達もあたし達に色んなことを教えてくれたわ。
人間と獣人の違い、考え方、暮らしぶり。あの子達が嫌う理由もわかった。
あたし達がこの郷で集まって暮らしているのも人間が原因だった。あたしはあんまりぴんとこなかったけど、もしも親の顔を覚えてたら同じように考えたかもね。
郷にいた人間達は申し訳なさそうにしてた。あたしとあの子達が違うように人間もいろんな奴がいるみたい。
郷にいた子供の中には、あたしと同じ形の尻尾の子が一人いたわ。色は茶色だったけど。
あたしはじぶんのちゃんとした齢を知らないんだけど、身体の大きさも同じくらいだったからその子が同い年にしようって言ってくれた。
性格はボケっとした子であんまり同い年とは思えない感じだったわね。あいつはあたしを妹のように扱ってたけど、どう考えてもあっちのほうが妹だわ。
獣人はだいたい耳と尻尾があって身体が人間より強いんだけど、耳と尻尾は種族によって形が違うわ。あたしとシロガネとチャコは同じ牙の一族、尻尾が細くて長い子は爪の一族って言ってた。変わった角のある子は蹄の一族って言ってたかな。
郷にはいろんな子がいるけど他の村じゃ同族ごとに集落を作ってるんだって。混ざって暮らしてるのはここと王様のいる村くらいらしいわ。
郷の暮らしは貧しかったけど楽しかった。山の中だから冬は厳しかったけど、狩りをしたり小さな畑をやったりもしてた。みんながお腹いっぱいになるくらい食べられることはめったになかったけど、困った時は外から食べ物が送られてくることがあったから何とかなってた。
割と小さい頃から自分の食べる物は自分で獲る方法は厳しく教えられた。みんなで獲った獣はすごくおいしくてうれしい。大人が獲ってきてくれる魔物はもっとおいしかった。でも二本足で歩く魔物はおいしくないし、獣より賢くて強いから獲らないほうがいいことも教わった。
……あ、ゴブリンもあいつが捌いたらおいしくなるんじゃないかしら?
子供も大人もみんな家族でそれなりに幸せだったけど、あたしが十歳の時に郷は襲われた。話には聞いていたけど人間を怖いと思ったのは初めてだった。人間があたし達よりあんなに速くて強いなんてその時まで知らなかった。
家は潰されて、山は燃やされた。大人は獣人も人間もどうなったかわからない。子供はすごく頑丈で冷たい鉄で手を繋がれた。体が重くなって思うように動かなかった。すごく疲れた。ひきずられるように歩くことしかできなかった。
人間に魔法使いという種類がいることは後で知ったわ。魔力を使う人間はあたし達よりも強い。風を起こし火を撃って水と土を操る。獣人には使えない魔法と言う技はあたし達を痛くしんどくさせる。ろくなやつらじゃない。
……まあ、そうでもない魔法使いもいることはいるけど。
捕まってからしばらくのことはあんまり覚えてない。ほとんど狭い暗いところに一人でいた。ご飯は少なくておいしくないし最悪だった。力が出ないから、逃げようにも檻は頑丈で壊せない。
時々明るい所で、あたしを買おうという人間に引き合わされたけど口を利かずに睨みつけてたら売られることはなかった。客を睨むと首輪が熱くなって痛かったけどそんなの関係ない。
今考えたらそこから抜け出したほうが楽になったのかもしれないけど、やって来る人間はどいつも嫌なやつばかりだったから我慢できなかった。店の奴らが言うには他の子供達は割とおとなしく言うことを聞いて買われていったみたい。あの子はどこへ買われたのかしらね。一人で大丈夫かな。
捕まってどれくらい経ったのかは覚えてないけど、あの爺さんに会ったのはあたしが店からどこか他の場所へ移されるという日だった。朝から荷馬車に乗るように言われて、外の路上に連れ出されたと思ったら突然爺さんがあたしのそばに駆け寄ってきた。
後から聞いたんだけど、流行病で亡くしたお孫さんに似ててびっくりしたんだって。今まで店に来た人間とは雰囲気も違うし、あたしも久々に外の空気を吸って機嫌がよかったからつい普通に喋っちゃった。そしたら何かそのまま爺さんの家で店の手伝いをすることになったの。町の隣の村の小さな道具屋だったけど、やってた娘夫婦も亡くなってて爺さん一人で大変だったらしいわ。
いきなり仕事をいろいろ任されたもんだから、郷にいたときよりも人間のことを勉強したわ。忙しかったけどあたしは獣人だからキツイのは身体より頭のほうだった。それ以外は、爺さんも優しくてしんどいことはなかったけど、耳と尻尾は他人に見せないようにきつく言われた。
獣人を家族みたいに扱ってるといろいろと面倒ごとになるんだって。嫌なやつはどこにでもいるのね。
その村での暮らしは三年くらい続いた。秋が来て冬の蓄えが出来た頃に村は盗賊に襲われた。
あたしがいた東のほうの領地はどこも獣人と戦をしてたから、人の行き来はエブールとは比べ物にならない。色んな人間がいた。冒険者も傭兵も魔法使いも、だいたい傭兵として金を稼ぎに来てるような荒っぽい奴らばかり。雇い主や領地の風向きで、仕事がなくなれば野盗なんかはどこにでも湧いた。
もちろん村に備えがないわけじゃないけど、あの時は小さい村のそんなものは役に立たなかった。こっちの田舎とは違って向こうは野盗にも魔力持ちや魔法使いは普通にいるの。あたし程度じゃ何もできない。
抵抗した者は皆殺され、結局、村の長は犠牲を少なくするために盗賊に降伏し、要求に従った。食料や若い女、金になるものは奪われた。あたしもまた売られるハメになった。
……馬鹿。死ね。
東の人間じゃそんなこと考える奴は会ったことない。奴らにとっては魔物や獣相手にするのと同じらしいわ。そこまで言われると思うところもあるけど、あたしだって願い下げよ。……西にはそういう人間、けっこういるらしいけど。
そのへんのことはシロガネがやたら詳しくてよく知ってた。大事なことだからっていろいろと教えてくれたわ。その時はよくわかんなかったからあんまり覚えてないけど、あいつと会ってからはちょっと思い出したことも、ある。
とにかく、その後はまた窮屈な檻に逆戻りよ。次の人間はホント最悪だったわ。思い出したくもない。実際記憶もけっこう飛んでるわ。新しい首輪は喋ることもできないし、馬車に積まれたままで自分の足で歩くこともほぼなかった。
夏は茹で上がるほど暑いし、冬は凍るほど寒い。檻の中で朝晩少しの固いパンと水、あっても冷えた野菜くずのスープよ。あれはホントに死ぬと思ったわ。次に買い手と顔を合わせたら頑張って笑顔を作ろうとも思った。
あいつと会ったのはそれから一年後の冬ね。寒いのはあいかわらずキツイけどエブールの町が近づいた時には、少し扱いがマシになって食事も増えた。売るためには見栄えをちょっとでもよくしたかったんだろうけど、引き合わされた奴隷商の爺さんは結局買ってくれなかった。
またしばらく寒い中馬車に揺られて西へ行くのかと思ってたら、急に南へ行くことになったらしい。爺さんが商人に仕事を頼む話が少し聞こえた。まあどこへ向かおうとあたしのこのツラい檻暮らしはしばらく変わらないと思ってたんだけど、そうじゃあなかったのよ。何があるかわかんないものね。
たぶんあのエブールの奴隷商の爺さんはあたしの命の恩人よ。あの依頼がなければあたしの今の暮らしはないわ。なんか悪いことして町にいられなくなったらしいけど次に会ったらお礼をしてあげたいわね。
あ、そこからは知ってるの? ていうかあたし何でこんな話してるんだろう? あなたいったい誰よ?