第8話 花売り娘
「鎧のお兄ちゃん。お花、買って」
行くべき所を持たない俺は、道端の石に腰かけてぼーっとしていた。
その横にいつの間にか、12歳くらいの女の子がいる。
「花か。しかし、ずいぶんと貧相な花だな」
どうせ、そこら辺に咲いていた花を摘んできたのだろう。
花を売っている娘を見ると、これまた貧相な恰好をしている。
「仕方ないじゃない。だって、お花を仕入れるお金なんてないんだし」
「だから、自分で摘んできたという訳か」
「そうだよ」
12歳の女の子では、できることは限られている。
力仕事はできないし、冒険者になるにしても若すぎる。
せいぜい、誰かの手伝いをして駄賃をもらえぐらいだ。
それだって、駄賃を払える相手を知らなきゃ無理だ。
「花はいらん。おまえ、腹がすいていのるのか?」
「なにか、食べ物くれるの?」
ただ飯を食うだけの人生。
やることがなくても腹は減る。
腹が減れば飯を食う。
それだっていいじゃないか。
人生はシンプルな方がいい。
そう悟った俺にとって、飯のためにできることをしている女の子。
分かりやすい生き方をしている分、俺より先に行っているんじゃないか。
「ついてこい。なんでも食わしてやるぞ」
「えっ、本当?」
別に飯をおごる理由はない。
あるとしたら、こいつの腹が減っているという事実だけ。
まぁどこでもいいから、一番近くにある食堂に入る。
俺は、ビールだけ頼んだ。
「好きな物を頼みな。好きなだけな」
「好きなだけ!」
やたらと、たくさんの注文を店員にしている。
そんなに食べきれるはずないだろうとは思うが、制しはしない。
好きなだけ頼めばいい。
「おいしいっ。こんなおいしいもの、はじめて」
「そうか。よかったな」
また口の中に入っているのに、次のを押し込んでいる。
それでは食べられないだろうと思うが、まぁいいか。
「しかし、良く食うな」
小さい身体のどこに入るのか不思議に思う。
底なしな食欲というものか。
思い出していた。
冒険者になったばかりの頃。
依頼を達成するたびに、思いっ切り食べたことを。
あいつらと一緒に。
「お前、親はどこにいる?」
「いないよ。昔から一人だよ」
捨て子か口減らしにされたのか。
まぁ、そんなことは俺には関係ない。
たまたま、一緒に飯を食っているだけだからな。
信頼とか仲間とか。
そんなものを求めるから裏切られる。
初めから一人だと思っていれば、嫌なことなど起きない。
一人で生きている同士、飯を食っているのもいいかもな。
そんなふたりの前に、いきなり現れた男がいた。
復讐終わって、やる気がない魂を売った男です。
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