第38話 売られた喧嘩は買いますよ
「すごく高いお店じゃないですか、ここ?」
「大丈夫だって。ちゃんと白金貨も持っているんだから」
魔法使いの青年に渡したのは、白金貨8枚と金貨20枚が入った袋。金貨にすれば100枚だ。
この辺りは上級市民が買い物にくる高級店が並ぶアーケードだ。
一番高級店かというと、そうではなくさらに上の貴族がいく高級店もある。
ただ一般市民がいくお店としては一番高級な部類だろう。
「だけど、お金持ちばかりが歩いていますよ」
「大丈夫さ。確かに服装はお前より金が掛かっているだろうが、連れている女を見てみろよ」
「はい。大したことないですよね」
「その通り。お前が連れている女達よりいい女はいないぜ」
そんなことを言い聞かせて、アーケードを歩かせてみた。
女達はもちろん、買い物は大好きな人種だ。
あちこちの店先のワゴンを見て、きゃあきゃあ、言っている。
「そろそろ。俺は隠れるよ」
「えっ、なんでですか?私と彼女達だけで買い物ですか?」
「そうしなきゃダメなんだよ。俺がいたら台無しだからさ」
そう。弱そうな青年が、いい女をふたり連れて楽しそうにしている。
それも、金に糸目をつけずに女に買い与えている。
そんな姿を見ると、黙っていられない連中がいる。
腕っぷしが自慢なだけの冒険者だ。
このアーケードの客層のひとつに、お金を持った冒険者がいる。冒険者は命のやり取りをしているから、冒険が成功して大金が入ったらパーっと使ってしまう。
そんなときにやるのが、自分のお気に入りの酒場の女とかに高い物を買い与えること。要は、良い恰好しいだ。
そんなときに、あいつがいい女ふたりも連れて楽しそうに買い物をする。自分の連れと比べて格段上の女がふたりも連れて。
そのうえ、金をバンバン使っている。
気分がいい訳がない。
当然言いがかりをつけたくなるだろう。
ほら、もう、そういう相手に目を付けれらた。筋肉だけが自慢そうな剣士があいつと女達をにらんでいる。どうみても娼館の女らしき化粧たっぷりの女を連れている。
あいつは女達に気を取られて、殺気を含んだ視線に気が付かない。
いいぞ、いいぞ。
何気に近づいていく筋肉剣士。
きゃあきゃあ言って、商品を比べている女ふたりの後ろに立った。
あ、女のひとりが「いやだぁ」って感じで振り回した手が筋肉剣士の腕にぶつかった。
おおげさに、吹っ飛んでみせる筋肉剣士。当り屋かよ、お前は。
「どうしてくれるんだ、おまえ」
声は聞こえないが、きっとそんなことを魔法使い青年に言っている。
困っている、困っている。面白いな。
むかついている筋肉剣士は腕を大きく振り回して魔法使い剣士を吹っ飛ばした。
よし、いいぞ。行ってみようか。
「あれ。どうしたの?」
筋肉剣士と魔法使い青年の間に入ってみた。
これ以上、殴られると壊れちゃいそうだからね。
「お前も、こいつの仲間か?」
「ええ。女を共有するほど仲良しの仲間なんです」
あ、女って言ったら、俺も敵だって顔をしだした。
よし、成功だ。
一発くらい殴らせてみようかな。




