第25話 隠匿の馬車
「だから、よぉ。冒険者っていうのは命がけなんだよ」
「すごいわね」
一緒に馬車に乗った男がとなりのお姉さんに話しかけている。
どうみても、お姉さんは単に相槌を打っているだけで、話に興味などないのが分かる。
「もし、この馬車が魔物に襲われたとするじゃん。どうなると思う?」
「怖いわ。そんなことないよう願いたいわね」
「もちろん、そうだけど。でも大丈夫、俺がいるからよ。守ってやるよ」
「ありがとう」
全く気持ちを込めないで言っている。
たぶん、お姉さんは冒険者のいい加減なところを知っているだろう。
冒険者というのは、依頼には縛られている。
依頼を受けて、達成できないとペナルティーがある。
さらに依頼を危険な状況で放棄するとライセンス没収になる。
護衛の場合、依頼主を守らないで放棄するとそうなる。
だから、依頼があるとそれなりには信用できる。
逆に依頼がないときは、あてにならない。
特に街と街を移動しているときはそうだ。
街の近くなら、冒険者の活動範囲のときが多い。
その場合は街での評判を気にする。
街から距離があったときは、仮に逃げ出してとしても、評判に傷などつかない。
がんばる理由がないのだ。
あるとすると、女にかっこいいとこみせるくらいか。
当然、そんなことで命をかける冒険者はほとんどいない。
「おい。おまえ。男は自分でなんとかしろよ」
「わかっていますよ」
「どうだか。そんな貧弱な武器でなんとかできるのかよ」
今の俺は、やすっぽいダボダボの服と鉄の短剣を持っている。
金がない旅行者を装っている。
「どこ、いくの?」
「別に決めてはいないが、次の街にでも行くかな」
「そなら一緒ね。私、食堂で働くの。食べに来てね」
「おう。もちろん、伺わせてもらうよ」
冒険者、たぶんC級レベル思分ける男は、不快そうに俺たちを見ている。
守ってやると言ったのに、薄い反応しかない女が、なぜか俺には親し気に話しかけてくるからだ。
「兄ちゃんさ。そうやって、女の関心を得ているのかい」
「なんのことだ?」
「お店に協力すれば女の気持ちがついてくると思っているのかい」
そんなこと思ってやしない。
だいたい、今は女の関心なんて、興味ない。
女だって、ごく普通の女で置いてきたハーレムの女と比べたら全然いい女じゃない。
「ただ、馬車が一緒になっただけの仲だろ。お前みたいにガツガツしないから安心されているだけだ」
「ガツガツだと?」
実は悪魔に頼んで顔を変えてもらった。
あまりに、目立つことばかりしていたから、もっと柔和な顔になった。
それなのに、しゃべり方は前のまま。
弱そうな奴が偉そうな口をきいている。
そう感じて、絡んでこられているのは、本人は意識していない。
「まぁ、女に対してガツガツするのは悪いとは言わんがな。ただモテないぞ」
「ふざけやがって。いい気になるなよ」
「お客さん。馬車内でのケンカはご法度ですぜ」
御者が割って入る。
ただ馬を操るだけでなく、馬車内でのトラブルも対応するのが駅馬車の御者の仕事のひとつだ。
「助かったな、お前。もし、馬車が魔物にでも襲われたら、面白いんだがな」
チンピラは捨て台詞を言うのがテンプレ。
「覚えていろよな」じゃないのが残念だ。
そんな魔物の話をしていると、本当に魔物に襲われてしまう。
そんなテンプレも実際起こってしまった。
主人公は女関係がめんどくさなって、街から逃げちゃいました。
残った女達がどうなったのか、今はわかりません。
楽しく書いて、楽しく読んでもらえたらうれしいです。
新連載も順調です。
『SSS級の錬金料理人は、多彩な料理で世界の困りごとを解決する!』
料理小説、異世界版ですね。
錬金術と料理は似ていますって話。よろしくです。
ここ↓
https://ncode.syosetu.com/n7657ev/




