20 抱擁。
朝起きて、背伸びをする。
着替えるなどの朝の支度をすませて、談話室に入る。そこにはもう、アルヴェ様がそこにいた。藍色の騎士の制服を身に纏って、ソファーに腰を沈めている純白の獅子さん。
「おはようございます、アルヴェ様」
「おはよう。コーヒー」
大きな口から低い声が溢れる。
はい、と私は一つ頷いて給湯室でコーヒーを淹れた。
談話室に運んで、アルヴェ様に一つのカップを差し出す。
そばに立って、アルヴェ様が飲むことを見守る。
「……よし」
その一言は“コーヒーが美味い”と“もふもふの許可を出してやる”の意味が込められている。
私は笑みになって、喜んでアルヴェ様の膝の上に乗って、腕を首に回して抱き締めた。極上のもふもふに顔が埋まる。純白の毛は、柔らかで朝陽で煌めいて見えた。至福の時。もふもふふふ。
もふもふを堪能していれば、扉が開く。
シアン様とヴェルデだ。
「おはようー団長、ルビドットちゃん」
「おはようございます、団長。それにルビドット」
「おはようございます、シアン様、ヴェルデ!」
私は緑のオセロットのヴェルデに抱き付く。スマートな猫らしい可愛い顔のヴェルデは、同じ藍色の制服を着ている。短い毛だけれども、これまた極上のもふもふだ。
「毎日言ってますが、そのもふもふするのやめてください」
「毎日言ってるけど、同い年だから敬語はやめよう」
すりすりと頬擦りするけれども、ヴェルデは抱き締められたまま。引き剥がそうとはしない。もふもふふふ。
「そんなこと言ってー。照れてるんでしょ。おいで、ルビドットちゃん」
「シアン様ぁ」
「黙ってくださいよー、オカマ野郎さん」
私は毒を吐くヴェルデを放して、次にシアン様に手を伸ばす。
そうすれば、脇を持たれて抱え上げられた。それからクルリと回る。
白い首元に顔を埋めさせてもらって、もふもふふふ。
「あ、ベルン様。おはようございます!」
あとから、琥珀色の狼のベルン様が来た。
むっすりした表情で、私達の隣を横切る。
「ベルン様、もふもふさせてください」
「……」
「……ちょっとだけ」
「ガウ!!」
「ひっ」
ハグしようと腕を広げて、あとを追いかけたけれども、ついてくるなと言わんばかりに吠えられた。
私は腕を広げた態勢で固まる。
そう易々と馴れ合ってはくれないみたいだ。
「いい加減諦めたらどうですかー」
「ベルン様も、もふもふしたい……」
ベルン様は、アルヴェ様の隣に腰を落とした。
いつもの朝だ。
少しして朝食をとって、稽古の時間。
それが終われば、ギデオン様の研究室で過ごす。
翌朝起きて、背伸びをする。
着替えるなどの朝の支度をすませて、談話室に入る。そこにはもう、アルヴェ様がそこにいた。ソファーに腰を沈めている純白の獅子さん。
「おはようございます、アルヴェ様」
「おはよう。コーヒー」
大きな口から低い声が溢れる。
はい、と私は一つ頷いて給湯室でコーヒーを淹れた。
談話室に運んで、アルヴェ様に一つのカップを差し出す。
そばに立って、アルヴェ様が飲むことを見守る。
「……よし」
私は笑みになって、喜んでアルヴェ様の膝の上に乗って、腕を首に回して抱き締めた。極上のもふもふに顔が埋まる。純白の毛は、柔らかで朝陽で煌めいて見えた。至福の時。もふもふふふ。
もふもふを堪能していれば、扉が開く。
シアン様とヴェルデだ。
「おはようー団長、ルビドットちゃん」
「おはようございます、団長。それにルビドット」
「おはようございます、シアン様、ヴェルデ!」
私は緑のオセロットのヴェルデに抱き付く。スマートな猫らしい可愛い顔のヴェルデは、短い毛だけれども、これまた極上のもふもふだ。
「毎日言ってますが、もふもふするのやめてください」
「毎日言ってるけど、同い年だから敬語はやめよう」
すりすりと頬擦りするけれども、ヴェルデは抱き締められたまま。引き剥がそうとはしない。もふもふふふ。
「そんなこと言ってー。照れてるんでしょ」
「シアン様も」
「黙ってくださいよー、オカマ野郎さん」と毒を吐くヴェルデを放して、次にシアン様に手を伸ばす。
そうすれば、脇を持たれて抱え上げられた。それからクルリと回る。
白い首元に顔を埋めさせてもらって、もふもふふふ。
「あ、ベルン様。おはようございます!」
あとから、琥珀色の狼のベルン様が来た。
むっすりした表情で、私達の隣を横切る。
「ベルン様、もふもふさせてください」
「……」
「……ちょっとだけお願いし」
「ガウ!!」
「ひっ」
ハグしようと腕を広げて、あとを追いかけたけれども、ついてくるなと言わんばかりに吠えられた。
私は腕を広げた態勢で固まる。
「いい加減諦めたらどうですかー」
「ベルン様も、もふもふしたい……諦めない!」
ベルン様は、アルヴェ様の隣に腰を落とした。
いつもの朝だ。
少しして朝食をとって、稽古の時間。
それが終われば、ギデオン様の研究室で過ごす。
翌朝起きて、背伸びをする。
着替えるなどの朝の支度をすませて、談話室に入る。そこにはもう、アルヴェ様がそこにいた。ソファーに腰を沈めている純白の獅子さん。
「おはようございます、アルヴェ様」
「おはよう。コーヒー」
大きな口から低い声が溢れる。
はい、と私は一つ頷いて給湯室でコーヒーを淹れた。
談話室に運んで、アルヴェ様に一つのカップを差し出す。
そばに立って、アルヴェ様が飲むことを見守る。
「……よし」
私は笑みになって、喜んでアルヴェ様の膝の上に乗って、腕を首に回して抱き締めた。極上のもふもふに顔が埋まる。純白の毛は、柔らかで朝陽で煌めいて見えた。至福の時。もふもふふふ。
もふもふを堪能していれば、扉が開く。
シアン様とヴェルデだ。
「おはようー団長、ルビドットちゃん」
「おはようございます、団長。それにルビドット」
「おはようございます、シアン様、ヴェルデ!」
私はヴェルデに抱きつこうとした。
けれども、寸前で止まってしまう。
何故ならヴェルデが、もふもふではなかったからだ。
スマートな猫らしい可愛い顔をしたヴェルデは、今は美しい少年の顔立ちになっている。左分けの緑の髪。ヴェルデの人間の姿だ。
「……」
「……」
人間の姿でもヴェルデはヴェルデだ。朝の挨拶として抱擁をしようと腕を伸ばすけれども、どうにも違和感が拭えなくて腕を戻してしまう。
でもやっぱりここは抱擁をしようと、腕を伸ばしては、戻す。
私よりも明るいヴェルデのペリドットの瞳は、その腕を追い掛けるだけ。
無表情。
「あ、あう……」
「……」
「なんでもふもふじゃないの!?」
困り果てた私は、とうとう声を上げた。
その隙にベルン様が横切ったけれど、気に留められない。
「何度言ってももふもふするので、ちょっと対策してみました」
してやったりの笑みになるヴェルデ。
むむむっと、私は怒りに震えた。
「こうすれば、もふもふしてこないでしょう」
「でも朝のハグはする!!」
ムギュッと同い年の少年に抱き付く。やっぱりなんだか、違和感を覚えてしまう。頬と頬が重なった。極上のもふもふではなく、同じくらいの体温の肌を感じる。
すると、ボンッと緑の煙を撒き散らして、少年から緑一色のオセロットに変身した。
「もふもふー!」
「ぶふっ」
「……ぶぁーか、ぶぁーか、ぶぁーか」
「なんで!?」
なんでもふもふになってくれたのかはわからないけれど、ハートを撒き散らして抱き締める。すぐ後ろでは、何故かシアン様が吹いていた。
そんなシアン様にももふもふしてもらう。もふもふふふ。
「ベルン様もおはようございます!」
「……」
コク、と頷く。おお、今日は機嫌が良い。
今日こそはもふもふさせてもらおうと、腕を広げて近付いたのだけれども、剥き出しにした牙を見せられた。威嚇。しょんぼりとする。今日もだめだ。
朝食、稽古とすませて、次に研究室で魔法薬の手伝いをした。
材料を煮込み混ぜ込みながら、私はため息を零してしまう。
「ヴェルデ……」
「何ですか、人の名前をため息とともに呼んで」
「そんなに私にもふもふされることが嫌?」
「……」
落ち込む。
「ベルン様は未だ馴れ合ってくれないし、ヴェルデはもふもふ回避するためにわざわざ人間の姿になるし……。獣人にとってもふもふは、挨拶の一環なんだよね? だから嫌がられるってことは、私がだめなの……?」
もふもふする行為というか、じゃれることが獣人のスキンシップ。
私のことだけが嫌なのだろう。まだ魔族だから馴れ合いたくないというところがある。ベルン様も、もしかしてヴェルデまでもがそう感じるようになってしまったのだろうか。
私はエルフの中でも、珍しい紅い髪。
ただでさえ孤児院で、仲間外れにされていた。
欺いていたと言えばそうだ。
私は紅い髪のエルフで、魔王の姪で、後継者。
馴れ合いたくない。それが本音なのかも。
「なんか……ごめんなさい……」
そこまで嫌がっているのに、抱擁するものではない。私は反省した。
「……別にベルン先輩のような理由で、嫌がっているわけではありませんよー……」
ヴェルデは、肩を竦めて言う。
私が顔を上げると、ヴェルデは私から目を背ける。
「ルビドットのこと、嫌いじゃない……です」
「……本当?」
ヴェルデが、首を縦に振った。
「そもそも、嫌なら嫌だって言いますし……やめてほしいと思うほど、嫌じゃないです」
「本当に本当?」
「本当に本当です」
私は、ぱあっと笑顔を輝かせる。
「……じゃあ毎日もふもふしてもいい?」
「遠慮してくれるとありがたいです」
「ええー」
水差すこと言う。ここは頷くところじゃないの。
「なんか知らないが、仲が良いな。二人は」
別の薬作りに取り掛かっているギデオン様が笑う。金色の瞳は、私からヴェルデに向けられる。じっとヴェルデは見つめた。
ヴェルデの無表情は、崩れる。ギデオン様の開発した薬を飲まされる時みたいに、嫌そうな顔であった。こういう顔をしたら、もふもふは駄目な時だろう。心得た。
「んー。材料が足りない。お使いに行ってきてくれ、二人とも」
「魔法材料ですか?」
「取り寄せすればいいじゃないですかー」
「今必要なんだ。至急、買ってきてくれ」
お使いを頼まれる。
私は渡された金貨を受け取ってから、かき混ぜるのに使っていた木のおたまに魔法をかけた。自動でかき混ぜる。
「いってきます、ギデオン様」
「おうー早くなぁー」
呑気に見送られて、研究室を出た。
「最初、私の部屋に寄っていい?」
「いいですけど……まさか着替えや化粧じゃないでしょうねー。たかがお使いでそこまでしなくても……」
嫌がられている。私は苦笑を零した。
「ただローブを取るだけだよー。それにたかがお使いでも化粧を直す女の子もいるから、そんなこと言っちゃ駄目だよ。特に女性とか、シアン様の前には」
「あー……そうですかー……」
シアン様が聞いていたら「だめよ!」と厳しく注意しただろう。
ヴェルデは頭を掻いて、そっぽを向いた。
私は部屋のクローゼットから、ベージュのローブを取り出す。それを羽織り、フードをしっかりと被った。
「アルヴェ様、ギデオン様のお使いで街に下りていきますね」
「……離れるなよ、ヴェルデと」
執務室でお仕事をしていたアルヴェ様に報告。
アルヴェ様は、そう一言告げる。
流石に、早々にまた吸血鬼の襲来が来るとは考えにくい。
大丈夫だ。私はヴェルデとも離れないと込めて、親指を立てた。
「いってきます」




