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魔王候補ですがもふもふに保護されました。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
一章

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13/28

13 お姫様。




 翌日。


「ヴェルデにプレゼント?」

「はい」

「へーぇ」


 クッキー作りをしていれば、シアン様は口元を押さえた。笑っているみたいで、私は小首を傾げる。

 一つまた一つとクッキー生地から型を切り取った。


「何か盛らないのか? 面白くないな」

「ギデオン様。普通プレゼントに薬を盛ったりしません」


 場所はギデオン様の研究室だ。ヴェルデが知ったら嫌な顔をするかもしれないけれど、かまどがあるんだもの。


「味見で食べてみますか?」

「頂くわ」

「もらおう」


 焼き上げたクッキーを一つずつ渡した。

 美味しいと言ってもらえたので、バスケットに入れてリボンをつける。これぞプレゼントって感じだ。

 早速渡しに行こうと、廊下をシアン様と歩いていく。

 すると、前方にあのエルフの令嬢達が来た。気まずい。

 あの日以来会ってもいないし、何かされたわけでもないが、私は萎縮した。廊下の隅っこを歩いて、譲る。令嬢達の視線を感じたけれど、過ぎていく。

 はぁ、と息をつけば、シアン様が背中を摩ってくれた。


「何もされていないでしょう?」

「……はい、アルヴェ様達のおかげです」

「当然よ。私達はあなたを守る」


 シアン様は私の頭を撫でる。ふふ。


「ヴェルデ。はい、プレゼント」


 一人で談話室にいたヴェルデに、バスケットを渡す。


「……ありがとうございますー」

「今の間は何?」


 隣に腰を下ろす。


「いえ、すぐに作ってくるとは思わなくて、驚いたんですよ」

「照れてるのよ」

「ぶぁっかじゃないですかー」

「ぶふふっ!」


 シアン様にそう返しつつも、ヴェルデはバスケットからクッキーを一つ取って食べた。


「美味しい?」

「ん、美味しいですよ」

「ヴェルデ、全然変わらないトーン」

「乙女心がわかってないのよん」

「事実を言っているだけですよー本当に美味しいです」


 もぐもぐとまた食べてくれるヴェルデ。声のトーンが全然変わらないことに笑う。また食べてくれているということは、気に入ってくれたに違いない。

 私はニコニコして、眺めた。


「そんなに見つめられると食べにくいです」

「見つめられると照れる?」

「食べてもらえると嬉しいから」

「嬉しいだってよかったわね!」

「うるさいです、オカマ野郎さん」

「あらお邪魔かしら!? じゃあ若い二人でごゆっくりー!」


 シアン様がニマニマしては、談話室をあとにする。


「……何なんですか」

「何なんだろうね」


 ヴェルデに作ると答えたら、笑いを堪えているようだった。

 変なシアン様。

 私もバスケットの中から、クッキーを一つ取って食べた。


「ちょっと、これはオレがもらった時点でオレのものなんですから、オレの許可を取ってくださいー」

「屁理屈言わないでよ」

「だめですー」

「ちょっとだけー」


 私が作ったのだから、いいではないか。

 バスケットを隠すヴェルデから奪い取ろうと躍起になる。

 けれどもヴェルデも躍起になって隠す。

 そんな風に笑い合ってじゃれていれば、ベルン様が入ってきた。

 私達はピタリとじゃれることをやめる。

 ベルン様はいつも通り、黙って向かいのソファーに座った。


「あの、ベルン様。昨日は助けてくださりありがとうございました」

「……」


 私はお礼を言うのだけれど、ベルン様はチラリと視線を寄越すだけで、横になって眠ってしまう。


「仕事だから当たり前、ってことですよ」


 もぐもぐと食べながら、ヴェルデが通訳してくれた。

 本人の口から聞きたいな。それだけでも。


 翌朝。アルヴェ様に挨拶をして、コーヒーを淹れる。そして膝に乗せてもらってもふもふさせてもらう。

 あとから来たヴェルデに抱き付いて、もふり。

 シアン様に抱え上げられてクルリと回されて、ついでにもふり。

 ベルン様にはスルーされて、もふりはお預け。


「ルビドット。会わせたい人がいる。来てくれないか」


 朝食が終わって、稽古に行こうとした時、ギデオン様から訪ねてきた。別にいいのだけれど、とアルヴェ様の許可が出るかどうかを目を向ける。


「シアン、ヴェルデ」

「はい、団長」


 今日はシアン様とヴェルデが同行してくれた。許可も出たところで、私達はギデオン様についていく。


「会わせたい人って誰ですか? ギデオン様」

「会ってからのお楽しみだ。そうじゃないと面白くないだろ」


 彼の基準は面白いかどうか。

 変な人に会わせないといいけれど。

 連れて行かれたのは、バルコニー。そこにはテーブルと椅子が設けられていて、すでにお菓子と紅茶が用意されていた。お菓子の甘い香りと、ローズティーの甘い香りが漂っている。

 椅子に座っているのは、薄いピンクと白のドレスを着た白金髪の美少女だった。青い瞳を持っていて、私が羨むその長い髪はストレートに下ろしている。


「姫様よ」


 シアン様が私に潜めた声で教えてくれた。

 お姫様。この国の、この城のお姫様だ。

 会わせたい人とは、王族だったのか。お姫様がいるとは知っていたけれど、まさか会うことになるとは。

 途端に緊張して、思わずギデオン様に睨むような視線を送る。


「ジュリエット様。連れて参りました。ルビドットです」


 ギデオン様は深々と頭を下げるものだから、私も慌てて頭を下げた。


「ルビドットと申します」


 ええっとなんだっけ。ドレスを摘んで軽くしゃがむ。


「私はジュリエット・リリ・ダイアナですわ。ルビドット様。座ってください。お話ししてみたいと前々から思っていたのです。急に呼び出してごめんなさい」

「いえ、全然、大丈夫です」


 気品な話し方をして、にこやかに微笑んだ。

 私は椅子に腰を下ろして、ゴクリと息を飲む。

 なんだろう。私と話してみたかったなんて。きっとエルフの令嬢達の友だちだから、聞いているはず。仲間外れの紅い髪のエルフだと。手を出すなと牽制されたことは、どうだろう。

 お姫様の後ろには見覚えある若い騎士と、見覚えない騎士が待機している。流石にお姫様が手を出したら、シアン様もヴェルデも口出し出来ないだろう。後ろに立ってくれてはいるけれども。

 色々覚悟した。


「そう身構えないでください。私はニコール達のように敵意を抱いてはいないです。彼女達は勇者ダイスケ様に熱を上げていただけですわ。許してあげてください」

「……えっと、私は……別に怒ってはいません」


 何か敵意があるというわけではないとわかって、力が抜ける。それから紅茶を啜った。美味しいローズティーだ。


「あなたの噂は聞いていますわ。ギデオン様も認める魔法薬の作り手だそうですわね」

「そんなっ……大袈裟です」


 ギデオン様! 何故そんな大袈裟なことを言ったのですか!

 立って傍観しているギデオン様は、ただ笑って見せた。


「使用人達は、あなたの作ったボディーソープの香りを漂わせていますわ。ぜひ私にも作ってくださいませんか?」

「お姫様にですかっ?」


 私はギョッとしてしまう。ギデオン様とお姫様を交互に見てしまった。


「そ、それは光栄ですが……そのっ……」


 動揺が駆け巡る。私は魔王の姪だっていうのに、人間の王族のお姫様に何か作ってあげるってことは、まずいのではないだろうか。

 いや、私が魔王の姪だってことは知られてなかった。

 そうだ。私は忌み嫌われている紅い髪のエルフだし、お姫様のその柔そうな肌が使うものを作ってもいいのだろうか。

 ああでもお姫様は気にしていないようだ。

 しかし、お姫様なのだから高級品を使うべきなのでは。

 私がそれを言うのは、余計なのだろうか。


「もっと言わせてもらうと……」

「はいっ?」

「私のお友だちになってほしいのですわ」


 動揺が駆け巡る。私は魔王の姪だっていうのに、人間の王族のお姫様の友だちになるなんて、まずいことではないだろうか。

 いや、だから魔王の姪だって知られていなかった。

 そうだ。私は忌み嫌われている紅い髪のエルフだし、お姫様のお友だちになんて恐れ多い。

 それなのに、お姫様は気にしていないみたいだ。


「あ、えっと、その、わ、私で良ければ……」

「ええ。ありがとう。私は十五歳だけれど、敬語はいらないわ。お友だちだもの。あと、ボディーソープは薔薇の香りで頼めるかしら」

「はい、うん、薔薇の香りですね、うんっ」


 お菓子を口にしたら、思いっきり噎せてしまって、シアン様に背中をさすられた。



20170927

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