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魔王候補ですがもふもふに保護されました。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
一章

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12/28

12 死者の行進。


微、ホラー。




 アンデッドの群れの退治の任務の場所は、馬で五日もかかる街だった。

 急ぎだったから、私の瞬間移動魔法を使って移動をする。

 大体の方角を教えてもらい、そして馬に乗って魔法陣を魔力で描き、発動させた。街の近くまで来た。

 どんよりとした曇り空。まだ昼前なのに、街だけが暗くなっていた。そんなところに、馬で近付いていく。

 街は閑散としていた。人っ子ひとり見当たらない。


「避難したあとね」


 住民は他の街に避難したようだ。


「ルビドット、ヴェルデ。馬を見ていろ」

「はい。了解しました、アルヴェ団長」

「わかりました」


 アルヴェ様達は馬から降りた。私とヴェルデも、あとから降りて馬を撫でる。いつでも戦闘が出来るように、周りに注意した。


「解毒薬を持ってきましたけど、必要なかったみたいですねー」


 アンデッドには毒がある。怪我人がいたら使うようにと、ギデオン様に渡された解毒薬は、出番がないみたいだ。


「怪我人がいないなら、何よりだよ」

「そうですねー」


 気温が一段と低く感じるのは、アンデッドの存在があるせいだろうか。


「……ちょっと臭うね」

「あっちこっちから臭いますよー。数は多いみたいです」


 ちょっと臭い。嗅覚の鋭いヴェルデは、私より臭いを嗅ぎ取っているようだ。

 そんな時、物音を聞いた気がして振り返る。

 私達は広場にいて、周りがよく見回せた。そんな広場の外れにある馬小屋の戸が揺れている。

 私は一人、そこに近付いていった。

 そして中を覗き込んだ。馬が見当たらない。でも物音がする。それはまるで、なんていうのだろうか、グチュグチュと生々しい音だった。音の出所を探して、奥に進む。

 そうすれば、見付けてしまった。

 横たわる馬にかじり付いている人影が、四つもある。ムシャムシャグチュグチュと音を立てていた。血の香りが鼻に届くと同時に、悪臭も鼻を劈く。

 カランッと、後退りした際にバケツを蹴ってしまった。

 その瞬間、バッと人影が振り向いた。白い眼。青白い顔。血に濡れた口。剥き出しにされた歯。ゾンビーーアンデッド。


「ルビドットー!!」


 ヴェルデの呼ぶ声が響く。

「グワー!!」と奇声を上げて向かってくるアンデッド達から逃げて、馬小屋を飛び出した。すると、閑散としていたはずの広場には、呻くアンデッド達で溢れ返っている。

 うじゃうじゃといて、私達が乗ってきた馬も、ヴェルデの姿も見えない。群れの襲撃とは聞いていたけれど、多すぎる。五十体はいるのではないか。


「建物の中に避難してください!」

「ヴェルデ!」


 後ろから肩を掴まれたけれど、振り払う。馬小屋のアンデッドだ。

 ヴェルデを呼んだけれど、やっぱり見えない。広場のアンデッドが、こっちに注目した。おおっと逃げなくては。

 私はすぐ近くの家に入ろうとドアのノブを掴むけれど、回しても開かなかった。隣の家のドアも鍵が付いている。鍵が付いていて当然だ。

 でも、窓が一つ空いていたので、そこから中に入れた。

 窓をすぐ様閉めれば、バーンッと窓を叩くアンデッド。グロい顔立ちだ。腐って爛れている。

 ドタドタッと玄関のドアが叩かれた。アンデッド達が、私を食べたがっているんだ。

 ひぃいっ! ホラーだ!

 魔族の魔力さえあれば、このアンデット達は私を襲わないけれど、今は無理だ。魔力を解放するわけにはいかない。


「ヴェルデ!」


 私は階段を駆け上がって、二階の窓から広場を見た。

 集団アンデッドの中、剣を振るうヴェルデを見付ける。馬を守っているけれど、相手が多すぎた。


「こっちよ!!」


 大声を張り上げて、アンデッドの注目を集める。

 けれど、ヴェルデと馬に気付いているアンデッドの大半は、こっちを振り向かない。

 窓から身を乗り出して、腕力だけで屋根に飛び乗った。


「ーー”汝の名において、燃えよ炎。燦々の煌めき。我、数多の矢を射る”ーー!」


 炎の矢を降らせる魔法を発動し、人差し指で狙いを定める。

 ヴェルデの手前、私に気付いたアンデッドに集中放火した。

 スババババッと炎の矢が、アンデッド達を貫く。燃え上がり、ジタバタするアンデッドもいた。これで大分数が減っただろう。


「弓よ(ティタール)!」


 魔力で作った弓と矢で構え、馬を捕まえるアンデッドの頭を射抜いた。一体、また一体と射抜く。

 広場に戻ってきたアルヴェ様達も、参戦する。剣でアンデッド達を薙ぎ払う。広場の端から端まで飛んでいった。

 これでヴェルデと馬達は大丈夫だろう。

 私は魔法の弓を納めて、二階の窓に飛び込んで戻った。

 すると、階段にはアンデッドが並んでいる。

 いつの間にかドアをこじ開けて、入ってきたみたいだ。


「ガァッ!!」

「っ!」


 噛み付こうとするアンデッドを押し退ける。

 それから、窓から飛び降りようとしたけれど、最悪なことに火の海だ。自分が撒いた火。

 再び、屋根の上に飛び乗った私は、屋根から屋根へと飛んだ。屋根の上まで追っては来れない。


「きゃーもう嫌!!」


 木から飛び乗ってきたのは、シアン様。

 大変動揺した様子で、私を両腕に抱き締めた。


「シアン様……」

「臭いしグロいし怖いわ!!」

「炎か光の魔法で焼き払いましょう」

「なんで動揺してないの!? ルビドットちゃん!」


 ホラーチックな容姿の魔族とは、魔王の城で一通り会っていたからとは言えない。


「光の詠唱魔法を一斉発動するわ!」

「私も」

「ルビドットちゃんはいいの。四人で十分よ」


 私も加勢しようとしたけれど、シアン様はウインクして断る。


「「「「ーー”我、光を纏わん。水面の月光も集え。降り注がれろ、照らされろ、眩ませ”ーー!」」」」

「っ!」


 カッと光の詠唱魔法が、獣人騎士団によって発動させられた。私は腕で、目元を隠す。広場が光で満ちた。

 光がなくなったところで、見てみればアンデッドの姿はなくっている。浄化されて、朽ちて灰になったのだ。


「まだ建物の中にいるはずだ! 始末しろ!」


 アルヴェ様の指示が轟く。


「あーこの隣の家に入られました」

「隣の家ね。片付けるわ。ルビドットちゃんは」


 シアン様は私を抱えると、屋根の上から飛び降りて地面に着地した。


「他に開いている建物がないか、確認してくれる?」

「わかりました」

「ルビドット。行きますよ」

「うん」


 ヴェルデが守ってくれたから、馬も無事だ。噛まれた馬に解毒薬を飲ませて、ヴェルデと二人で街を回ることになった。

 一軒一軒、アンデッドが入っていないかを確かめる。アンデッドは鍵を閉めて立てこもったりはしない。

 まだ空はどんよりとした灰色の曇りで、薄暗い街は不気味だ。


「まだアンデッドいそうだね……」

「そうですねー……ルビドットはビビらないですねー。こういう時、普通女の子はビビるんじゃないですかー」

「そうだねーでもビビってて足手まといになりたくないから」


 女の子らしくないかもしれない。

 でも足手まといになりたくないっていう一番の理由がある。


「これでも、ヴェルデと離れてアンデッドに追い込まれた時、内心ビビっていたよ」

「……手、繋いであげましょうか?」

「そこまでじゃないから」


 手を差し出してくるヴェルデの手が、塞がっていては戦いにくいでしょう。私は笑って見せた。


「そうですかー……」


 ヴェルデは差し出した手で、頭の後ろを掻く。


「そう言えば、今朝はギデオン様と何をしていたのですかー?」「今朝? ああ……惚れ薬作ったから、ギデオン様にアルヴェ様のコーヒーに盛れと言われてたの。ギデオン様はアルヴェ様の反応を見に来てて」

「は……? 惚れ薬?」

「そう。惚れ薬」


 シアン様だけが事情を知っているのか。私はドアノブを回して、次の建物の移動した。向かい側の建物のドアを確認しているヴェルデは、足を止める。あまりのことに唖然としてしまったようだ。


「盛らなかったよ。いくらなんでも盛るなんて、信頼を裏切るようで嫌じゃない。でもアルヴェ様が自ら飲んで……あっ! 最初に目にした相手に胸の高鳴りを覚えるって効果が、一日続くっていう薬だよ。恋したと錯覚させるだけで、本当に恋させるわけじゃないの」


 説明不足だったと慌てて付け加えた。

 そこで開いている扉を見付ける。食堂らしい建物だ。


「ヴェルデ、ここ開いてる」

「……」

「ヴェルデ?」

「あ、はい」


 反応がないから私は振り返る。ヴェルデは返事をして近付いた。


「中を見て来ますので、ルビドットは待っててください」

「うん。わかった」


 言われた通り、表で待つ。

 少しすれば、ヴェルデは出てきた。


「一体いましたー。次行きましょう」

「うん」


 一体を始末、出来たそうだ。

 また手分けして、ドアが開いていないかを確認して回る。


「……なんでまた、惚れ薬なんて作ろうとしたんですかー?」

「ん? なんか魔法薬の店で人気というか定番な薬だって聞いたから試しに作ってみたの。特に女の子には人気らしくって。ヴェルデは? 盛られたことあったりしないの?」


 カチャカチャとノブを回しながら、ヴェルデに冗談で尋ねてみた。


「なーんでそんなこと訊くんですかー?」

「ヴェルデってかっこいいじゃない。小さい頃から、モテてそう」


 人間の姿は美少年だし、獣人の姿は猫顔で可愛い。きっと幼い頃からモテていたに違いないと思った。


「……別に、女の子から何かをもらった経験がないですから、惚れ薬を盛られたこともありませんねー」

「そうなの」


 モテそうなのに。意外。

 そう言えば、バレンタインデーみたいな日である”ブーケサンバレン”の日は、女性からではなく男性から花を贈るくらいだ。女性からのプレゼントって滅多にないのだろう。

 まぁ惚れ薬を盛られるなんて、特に滅多にないことなのだろうか。


「あ、じゃあ私がクッキーとか焼いて作ったら食べてくれる?」

「……惚れ薬入りじゃなければ」

「やだな、何も盛らないよ」


 あはは、と笑ってしまう。


「ヴェルデが初めてプレゼントを貰った女の子は、私ってことになるね」

「……そうですねー」


 次の建物に移る際にヴェルデをなんとなく見てみたけれど、尻尾が左右に大きく揺れていた。ご機嫌そう。やっぱり嬉しいものなのかな。女の子からのプレゼント。

 次の建物のドアは、開いた。その瞬間、アンデッドが雪崩れ込んだ。


「きゃ!」


 下敷きになるところを間一髪避けられた。


「ルビドット!」


 ヴェルデがすぐ様駆け付けて、私を下がらせるように腕を引っ張っる。

 剣がアンデッドの首をはねた。途端に砂となって身体が朽ちる。剣は頭を貫き、また首をはねた。素早い斬撃だ。


「ちっ。数が多いですね」


 次から次へとアンデッドが溢れてくる。何体いるんだ。

 ヴェルデの戦いを夢中になっていて気が付かなかった。背後に迫っているアンデッドに。


「グアッ!」

「っ!?」


 腕を掴まれ、そのまま食べられそうになった。

 その時、剣がそのアンデッドの顔を貫く。

 ヴェルデの剣ではない。そこにいたのは、ベルン様。私を助けてくれたのは、ベルン様だってことが意外で目を見開いてしまった。


「ありがとう、ございます、ベルン様」

「……」


 ベルン様は私を一瞥するだけで、何も言わない。そのままヴェルデの加勢をした。

 街のアンデッド一掃は、二時間で終わる。迅速に避難したおかげなのか、死者は見当たらなかった。


「この数……異常だな。魔族が裏で手を引いている可能性がある」


 合流したアルヴェ様が言う。

 魔族が操っている可能性がある。それを聞いて思わず周りを見てしまった。もちろん、ひょいひょい現れたりしないだろう。


「近くに魔族がいるって話ではないわ。魔族の命令を受けて、侵入した可能性があるってこと」


 シアン様が言ってくれて、私は胸を撫で下ろす。


「魔族が入ってこれない代わりに、手下のアンデッドに襲わせているってことですね。ここを真っ直ぐ東南に行けば、国外れですものね」


 ヴェルデの言う通りだといい。魔族が入って来ていないことを願う。

 真っ直ぐ東南と言っても、何日もかかる。アンデッドが何日も行進してきたと思うとゾッとした。


「上にはそう報告する。もう帰るぞ。ルビドット」

「はい」


 アルヴェ様の指示に私は頷き、足元に魔法陣を広げる。

 瞬間移動魔法で、純白の城に戻った。

 空は白い雲が広がって、高く感じる青空だ。



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