今までの繋がりに別れを③
私の尻尾の鱗を引き千切ったミドガルは、それを頬に擦り付けながら私の後に付いて来る。
もう一枚物欲しそうな顔をしていたミドガルをビンタすると、目で追えない程の早技でいつの間にか口の中に手が入っていた。
殺菌消毒の効果がある唾液で綺麗になった手で寝ているアリスの頬を撫でて、捕えられた国に再び入る。
城を見るだけでも全てぶち壊したくなってくるが、アリスを撫でる事によって何とか抑える。
「王が私たちにもお顔を見せて下さる為に、この街に下りて来るそうよ」
「本当に? 今までは戦争に行く時に端に避けるくらいしか見る機会が無かったのに。まだ幼いけど、良い国になってくれれば良いね」
「でも、幼い王になってこの国が負けたりしないか心配だわ」
女三人揃えば姦しいとはこの事かと、大きな声で喋る三人の話に耳を傾けて城を見上げる。
「すごーい! 大きい街だ!」
街の喧騒に誘われるようにして突然起きたアリスは、色んな方を指さしてはまた違うものを指さしては目を輝かせる。
「何処か見てみるか、欲しい物があったら買ってやるぞ」
「良いのー! えっとじゃああそこー!」
そう言って指さした店は、装飾品を扱っている店でもなく、可愛らしい衣服が並べられている店でもなく、無機質な鉄が並ぶ鍛冶屋だった。
「なあアイネさん? 俺にも武器を買ってくれないか」
そう言って近付いて来た人間は、私の隣を歩いて光る板に様々な剣を映し出す。
再び板の表面を撫でたりして絵柄を切り替え、ジャージの収納に入れる。
「やっぱり魔剣グラムとか、その辺からだよなー。やっぱり主人公なんだし、それが妥当じゃないか?」
「神格器は簡単に手に入るものではない、私の持つミョルニルも私でなければ真価を発揮する事は無い」
「何だよそれ、反則じゃないか」
「認められれば良いだけの話だ、無理だろうがなお前では」
腕の中から飛び下りたアリスは、並べられた剣を眺めて錆び付いた一振りを手に取る。
「アリスもっと他に良い剣があるだろ、そんな使い物にならない剣をどうするんだよ」
「黙っておれ人間、それで良いんだなアリス」
余計な事を喋り出した人間の横腹に軽く人差し指を刺して、頷いたアリスを見て買うことを決める。
「これを貰おう店主よ」
アリスが胸の中に抱えた剣を指さすと、店主は店の見栄えが悪くなるから持ってってくれと、お金も受け取らずに譲ってくれる。
「旅人が持ってきたんだけどよ、売れたら知らせてくれってどうしても断れなくてな。持ってってくれるならありがたい」
との事で、殆ど押し付けられると言った様にこの剣を託される。
貰った剣を頭上に掲げたアリスは、私の方を向いて、
「ありがとうアイネ!」
「はははっ、私に言うより店主に言うべきであろう」
「うん、ありがとうおじさん!」
「はっはっはっ、可愛らしい子だな。お母さんも綺麗な人だしな」
豪快に笑った店主は私の方を向いてそう言うが、何やら盛大な勘違いをしている。
「アイネは男だよー」
アリスの言葉を聞いた店主は、徐々に笑い声を小さくしていき、
「えっ? 男だと?」
「ま、まあな。こんな見てくれだが男だ、すまぬな」
そのまま店を後にしてジャンヌとミドガルと合流して、いつの間にか何処かに行った人間を探す。