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子犬⑤

罅割れた鱗を医療室で剥がした後、外れた腕と足を戻してもらい、包帯を巻き終わったカミラに肩を叩かれる。


「久し振りだな子犬、あのクソガキがこんなにも大きくなるなんてな……よく大戦を生き残ったな、嬉しいぞ」


「お前は二重人格なのか、あんなに徹底的にやる莫迦が居るか。鱗などの剥がし方は痛みがあまりなかったが、訓練になると人が変わるのはそろそろやめろ」


「甘いものを食べてなくてな、不機嫌だったんだ。よくあそこまで戦えたものだと自分でも驚いてる」


「何で第一線を退いたんだ、お前なら帝国を一捻り出来るだろ」


訓練の時の雰囲気とは一転して、落ち着いた雰囲気を纏ったカミラは、少し考え込む表情になり、くせっ毛を指先で弄り始める。

この癖をやる時は決まって情報が足りない時か、よろしくないものが動いている時で、ここまで悩ませるのは、百年戦争の時以来かもしれない。


「帝国建国以来の実力者の中に、私たちがよく知っているやつが紛れているかもしれない。それも戦闘が続行出来なくなるほど絶句するレベルのな」


「アイネか、それともジュンなのか?」


「知るか、まだ起き上がるな怪我人。それとお前、その喋り方の方が良いな。あの変な喋り方は話辛い」


「んん……そろそろだとは思っていたが、やはり以前の方が良いのか。少しでも忘れようとして喋り方を変えたけど、やっぱり忘れられないしな」


上体を寝かせてベッドに寝転がり直した私の頭を、がしがしと不器用な手付きで撫で回したカミラは、水を浴びてくると言って部屋から出ていった。

最近は昔に比べて怪我をしやすくなったせいか、寝込む事や動けない事が増えた気がする。


少しだけ憂鬱に負けて瞼を閉じようとすると、ばたばたと走ってくる音の後に、お腹の上に大きな衝撃が走り、誰かが上に跨る。

無理矢理起こされて瞼を開くと、涙を目に溜めているアリスと、ベッドの隣に置いてある椅子の傍らに立つナーガが、心配そうに私を見ていた。


「泣くでないぞアリス、もう泣いて良いのは母が死ぬ時だけじゃ。またこの喋り方になってたな、兎に角もう泣くなよアリス」


「……我慢する、でも何でもう泣いたら駄目なの?」


「泣いて良いのは生まれた時、それと命を与えてくれた母が死ぬ時の2回だ」


「お父さんの時は泣いたら駄目なの?」


「そうだ、私も受け売りだから分からないんだけど……あいつはそう言ってたんだ、ナーガもだぞ」


ビクッと肩を揺らしたナーガは何度も頷くが、アリスは理解出来ていないと言う顔で、大きな目を何度も瞬かせている。

それを見ていると、憂鬱なんかに負けていられなくなって来て、自然と笑顔が腹の底から出て来る。


「いや、分からずとも良い。分かる日が来たら、それは立派な大人になってる時だからな。まだ子どものままで居てくれ」


「アイネはもう大人だよ、お姉さんなんだから」


「ははははっ、そういう内はまだまだ子どもだっての。これから大きくなれよ、その内あっという間に結婚して私の下を離れるんだろうな。めっちゃ泣けてくる」


「アイネがアリスのお嫁さんに来るの、それでナーガも一緒に暮らすの」


「くははははははははは、ごめんごめん。その言葉がこんなにも嬉しいと思わなかったからさ、うん嬉しいよアリス。こんな年増を好きと言ってくれてな」


「アリスは本気だもん、アイネをお嫁さん貰うんだから! アイネの馬鹿! 行こナーガ」


頬を膨らませて走り去ってしまったアリスとナーガに手を振って見送り、やっと静かになった病室で眠ろうとするが、やはりデルタイル帝国に所属していると言う騎士の存在が気になる。

それが何人なのか、何と呼ばれているのか、全てが謎に包まれた影が、カミラ程の強者を悩ませるなら、カミラがこの公国に現れたのも納得が出来る。


難しい事を考えたからか、頭痛が強制的に思考を遮断させ、休めと休憩を促してくる。

痛みが生じるのは必ずどこかが悪い時で、それに逆らうのは適当ではない為、大人しく休む事にした。

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