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叫び続けて⑩

湖に叩き込まれ、更にパラシュの追撃を受けて着底したと思ったが、いつの間にか、湖から顔を出していた。

水際では、先程までは居なかったクライネとイシュタルが雷をぶつけ合い、クライネの放った雷龍が、イシュタルの微量な神力を退け、神力を放った後の無防備な体に、襲い掛かろうとしていた。


湖から飛び出して雷龍を爪で斬り、ミョルニルとパラシュが、イシュタルの神力を2人掛かりで防ぎ切る。

龍力に頼らない跳躍の所為で痛む体を無理矢理動かし、睨み合う2人の間に立つ。


ミョルニルとパラシュの攻撃でめくれ上がった鱗が邪魔な為、奥歯を鳴らしてから手を引く。

意に反して上がる息を整えようとするが、どうしても整わないのを誤魔化す為に、剣を手に落として意識を持っていかせる。


「2人とも戦闘態勢を解かぬか、私はおぬしに助けて欲しいと乞うた筈だイシュタル」


「私が悪いって言うの? そうね、そこの分からずらな臆病者贔屓だから当然よね。アトラルを手元に置いとけば、貴方はいつでも神に戻れるものね。追放されたあいつらに、一泡吹かせてや……」


「それは違うイシュタル、確かにクライネはアトラルだ。私はいつでも神に戻る事が出来るが、今はする事が出来ぬ」


「そんな事はどうでも良いわ、アトラルを連れて、その処置をしないのが問題って事よ。神殺しなんて物騒な物を、好き好んで近くに置くなんて気が知れないわ」


抱えている問題を言うべきか少し迷ったが、地面に剣を突き刺して、イシュタルを納得させる方法を考える。

クライネの隣に歩いて肩に手を置き、以前植え付けた神核を探すと、腹の左側に雷が入っていた。


「あの……流石に恥ずかしいです」


「すまぬな、だがイシュタルをおぬしの手元に置く為だ。1度分からせれば素直なやつだ、悪いやつじゃないからのう」


「あの……今どこにいるんですか? 私の元に来てくれると嬉しいです、やっぱりアイネさんが居ないと……」


「すまぬがそれは出来ぬ、理由は直に分かる、だがいつか共に居よう。思い出せない程に時が経つまでな。これが証だイシュタル、私の神核をクライネに移した、この神力を全て食い千切る前に私が駆け付ければ良い」


「……なら分かっててそうした訳、覚悟があるならもう何も言わないわ。その人間から貴方の神力が感じたのは、それが理由って訳ね。この世界も閉じるから、崩壊するまでの短い時間を楽しんで」


「礼を言うイシュタル、クライネを頼んだ」


特に何も思っていないと言う様子で雷の中に消えたイシュタルを見送り、ミョルニルとパラシュが居ない事を確認して、張り詰めていた気を緩める。

倒れた私の脇にしゃがみ込んだクライネは、目を伏せてから私の方を向き、心配そうに手を伸ばす。


「あの、大丈夫じゃないですよね……何をして過ごしましょうか」


「そうじゃな、生憎私はもう動けぬ。だからこの花をやろう、龍力を時間を掛けて固め、私の血を入れた赤い薔薇じゃ。綺麗じゃろ、御守り代わりに持っておくと良い」


「……ありがとうございます、少し温かいですね。じゃあ私からは、私の作ったこの服を贈ります。次に会う時、それを着て会いに来て下さいね」


「白い花をイメージしたドレスか、私は女ではないのだぞ?」


折角作ってもらった物を受け取らぬ訳にもいかず、仕方無く受け取っておこうと考えていたが、心のどこかで、どうしようもないくらいに愛しく思っていた。

ドレスを受け取った私を見て笑うクライネの頬を撫で、徐々に意識を蝕む微睡みに落ちる。


目を開けた私を次に迎え入れたのは、女神と見紛う程に愛らしいクライネではなく、獲物を狙う為に草むらに潜む、ライオンの様な顔をしたパラシュと、縄張りに足を踏み入れた敵を威嚇する、ボス猫のようなミョルニルが居た。


「すまぬな、心配ばかり掛ける持ち主で。おぬしらの気持ちも知らずに、我儘ばかり言った。本当にすまぬ」


「僕はもう怒ってないさ、何で喧嘩してたのすら忘れてしまったよ。だから僕は君に付いていく事にするよ」


「まぁ、目を覚まして謝らなかったら見捨ててたけど、もう良いんじゃない? パラシュに感謝しとけよ、フルングニルの攻撃を1人で兵に当たらないように防いでたし」


「それを言うなら、ミョルニルは宿主に魔力を送っていたじゃないか。それが無い宿主がは、やり合うどころか一撃で沈黙していたさ」


「そ、そんなの知らない。私は魔力を送ってないし、あんたみたいに関係無いやつらを守ろうなんて思わな……」


「本当に礼を言う、最高の武器じゃなおぬしらは。私には勿体無いな」


「何言ってるの、あんただからでしょ」


「そうだね、ミョルニルの言う通りさ」


私の抱擁を受け入れた2人の腕が腰に回され、2つの温かな体温に包まれて、痛みが吹き飛んでしまった。

そんな和やかな部屋の中に、トコハナがドアを勢い良く開いて入ってくる。

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