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叫び続けて⑨

トコハナの渾身の一撃をまともに受けて、深い深い微睡みの彼方に引き摺り込まれ、拠点にしていた湖に戻る。

数分動けなくなる程の一撃を喰らった筈だったが、字面に落ちた私の身体は、傷ひとつ付いておらず、すぐに立ち上がれる程調子が良い。


懐かしい景色に、草の上に生える花を愛でながら、誰も居ない水際でひとり踊る。

最後まで踊り終えて満足した私は、自分の尻尾を抱き枕代わりにして、草の上をゴロゴロと転がる。


「今日は美しい日だな、白い雲が浮かび晴れ渡る空。花々は美しく風も心地よい、だが何かが足りぬな……何であろうな、何じゃろうな、何であったか? 眠くなってきたのぅ」


自分で言うのも気恥しいが、抱いている尻尾は、龍人の中でも、トップクラスに抱き心地が良いと言っても過言ではない。

悠久の時を生きる私でさえそうなのだから、子どもが抱けば、すぐに眠りに落ちてしまうだろう。


思わず出てしまった欠伸を手で隠し、瞼を閉じて睡魔に身を任せる。

だが、そんなに事は順潮に進まず、私の睡眠を妨害する存在が、敵意を剥き出しにしながら忍び寄る。


それで忍び寄っているつもりなのか、ゆっくりと私との距離を縮め、振り下ろされる武器を避ける為に、湖の中に身を投げる。

狙い通り、衝撃が私の居た場所に起こり、思い一撃を喰らわずに済む。


バハムート型になって驚かせてやろうと思ったが、何故か人型から、バハムート型は愚か、飛龍にも地龍にも姿を変えられない。

慌てて湖から飛翔して空に舞い上がると、自らを携えたミョルニルとパラシュが、水際で私を見上げていた。


「こんな所で何してる訳? 散々暴れて気絶させられて、だから私たちは貴方を見捨てたのよ」


「頭を冷やすかと思ったけど、君は本当に愚行にしか足が向かないんだね。心の成長が見られないな」


「再開して早々説教か、もう貴様らの小言は聞き飽きたわ。私は100年前の様に好き勝手させてもらう、私はもうこの世界など知らぬわ!」


「パラシュ、あんたと共闘なんて御免だけど、あの馬鹿止めるのに力を貸しなさい。どうせ黒い魔力が、体内の神力より量が多くなっただけだから、ぶっ叩けばその内治るわ」


「僕も宿主が居なくなるのは困るからね、君に力を貸すのは不本意だけど、僕が君より優秀だと見せられる」


「言ってなさい3流神器!」


馬鹿正直に真正面から突っ込んで来るミョルニルに向けて、両手から火球を乱射する。

地面に残ったままのパラシュは、胸の前に斧を掲げ、何かをしているが、今のところ動きが無い。


槌を投げたミョルニルの盾が無くなった隙に、龍力を乗せた拳を、全力で突き出す。


「スイッチ!」


「命令しないでくれるかい!」


ミョルニルの叫びと共に入れ替わった2人だが、どうせどちらかが吹き飛ぶかの違いで、1人脱落する事は分かり切っている。

斧を掲げるパラシュに拳がぶつかると、綺麗さっぱり目の前から消え去り、身体が雷に拘束される。


そして、ミョルニルが投じていた槌が直撃し、私を容赦無く湖に弾き飛ばす。

硬い水面に叩き付けられた体が水に沈むと、間髪入れずにパラシュが水を切り裂き、空気を押し退けて姿を消す。


感覚でパラシュが来るであろう場所に手を置き、攻撃が入らない様に防ぎ、案の定現れた斧が私の手の中で止まる。

遅れて空気を切る音が水際に響き、雷の様な轟音を残し、同時に湖の水に呑み込まれる。



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