叫び続けて⑧
フルングニルの遥か上空から、中身まで忠実に似せたデコイが爆発するのを見届け、巨体が地面に崩れ落ちたのを、しっかりと見届けてから降下する。
丁度遠くでは、オシナの領に攻め入った敵が撤退するのが見え、トコハナの下に向かう。
「まだ終わってねぇぞトール!」
「くどいわ戯けが!」
憂さ晴らしに山を削ろうと溜めていた龍力を、先程よりも威力の高い神の塔に変え、フルングニルの首を吹き飛ばす。
火球を大量に頭上の魔法陣から撃ち込み、後に残った体を焼き尽くす。
久し振りに戦闘らしい戦闘をしてしまった体が、100年にも渡る戦争の熱を思い出し、体に留まって高揚となる。
理性が押し潰された体のまま次の相手を探し回り、結局トコハナの下に辿り着く。
何も考えられなくなった頭のまま、背後から火球を叩き込むが、反転して居合いで火球を切り裂いたトコハナが、放った刀から衝撃波を生じさせる。
龍化させた左腕で衝撃波を殺し、黒く染まった剣を振るう。
「くっ……その力は、半端な剣では止められませんね。良いでしょう、このトコハナ、貴方の昂りを受け止めましょう。いざ参る」
「まぁ待たぬかトコハナ、先の戦いは私を出してくれんだじゃろ。こんな時くらい戦わせてくれへんか?」
刀を両手に持ったオシナが、私の剣を両手で受け止め、乱暴な力技で押し返す。
バハムート型に姿を変えた私を見て、オシナの隣にトコハナが肩を並べ、両方に散開して挟撃を狙う。
「甘いわ」
龍力を溜めながら上に飛び上がると、いつの間にかトコハナの刀が、私の上を舞っていた。
刀の前に突如現れたトコハナが、掴んだ刀を振り下ろして、ガードした私の腕目掛けて、真っ直ぐに思い一撃を放つ。
細腕にも関わらず、これ程の威力が出る原因を探ると、普段は隠している鬼の角を、珍しく額から出していた。
地面に向かって勢い良く弾き飛ばされた先には、当然の様にオシナが待ち構えていた。
「惰弱じゃな! そろそろ隠居したらどうじゃ?」
魔力を刀に乗せて衝撃波を放ったオシナは、切っ先を私にぴたりと合わせ、大きな魔力の塊を柱のように放つ。
フルングニルに使った神の塔を応用し、両手と翼を大きく広げ、左右に大漁の砲台を作り上げる。
「イージス」
大砲から龍力を放ち、オシナの魔力を全て打ち消し、余った龍力がトコハナとオシナに襲い掛かる。
大きな攻撃を放った後で、迎撃態勢が整っていなかった2人は、高密度な龍力の塊を真正面から受ける。
「はははははっ!!! やはり鬼はドラゴンには勝てぬわ」
「……お前、あたしらを怒らせよったな。加減はせんでええわトコハナ、このなり損ないに痛い目見せたり」
「御意。では、全力で参ります。鬼の力を思い知りなさい」
今まで真っ白だったトコハナの体に、赤い線がいくつも浮かび上がり、それまで侍の様な格好に陰陽師の要素が付け足され、左眼が金色に変わる。
トコハナが左手から虚空に滑らせた紙が形を変え、煙の中から3人の人間が現れる。
トコハナが振り上げた右腕が何かを合図したのか、式神が左右に散開し、トコハナが刀を逆手に持ち替える。
突如闇に囲まれた私の目には光が入らず、微かな光でもはっきり見える目ですら、何も景色を移さなくなった。
龍力を放って結界を壊そうと試みたが、闇の中に消えた龍力が見えなくなり、代わりにいくつもの衝撃が、硬い鱗を貫いて意識を引き剥がす。




