叫び続けて⑤
払い逃げと言うのも変な気分だが、執拗く追い掛けて来た店主を漸く撒き、落ち着く為に、川が流れている丘の斜面に腰を下ろす。
トコハナたちが座る所に、丁度3人分程が座れる布を敷き、その布の上に3人を座らせる。
「宿主が汚れてしまう、僕が地べたに座るよ」
そう言って立ち上がったパラシュの腕を掴み、無言で座らせる。
「良い、おぬしが汚れる方が嫌じゃ。これは私の我儘だ、子どもは遠慮するものではない。気が利くのは良い事じゃがな」
座ったパラシュの頭を撫でるが、お返しの様に、無言で手を頭の上から退けられる。
退けられて行き場が無くなった手に器を持ち替え、誤魔化す為に液体を口に含んでみる。
「おや、これは良いな。美味しいではないか」
「本当だ、すごいじゃないトコハナ。この国は景観だけじゃなくて、食べ物まで美味しいじゃない」
「景観だけだと思われてたの? この国は全て最高峰よ、部力も建築も文化も技術も。あら、パラシュちゃんには合わなかった?」
美味しそうに飲むミョルニルの隣で、1人難しい顔をして、頑なに二口目を飲まず、ずっと流れる川を見ている。
試しに見詰めてみるが、視線に気付かない。
顔に1発受ける覚悟で頬を突っついてみると、はっと顔を上げて私を見る。
「どうしたんだい?」と言うパラシュの問いに答えられず、微笑んで頭を撫でる事しか出来ない。
変に気負うパラシュに、この様な事はよくあるが、今回は、何に対してなのか分からない為、どうする事も出来ない。
また、何を気負っているのか話したがらない割に、気付いて話を聞いてやると、それだけで救われた様に、安堵の表情に戻る。
「変に気負わんでも良いさ、私たちはいつでも準備出来ておるであろう。消え去る日はな」
「へっ? 僕は今気負ってなんかないよ、このスープはどうしたら作れるか考えていただけさ」
「むっ……ははははっ、そうであったか。それはすまぬな、このスープの作り方なら、トコハナが知っておろう。後で教えてもらおう、本当に嘘が下手じゃなおぬしは」
「僕は嘘なんて……ついてないさ」
私の言葉を聞いて、思い出した様に手を払い除けたパラシュは、私の腹部に拳を叩き付ける。
手から零れ落ちた空になった器が、川に着水し、ゆらゆら揺れて運ばれていく。
パラシュが持っていた器からはスープが零れ、草の生えた斜面に染み込んでいった。
勢い余って倒れ込んで来たパラシュを抱き締め、更に翼で包み込んで暗所を作る。
「おぬしらは武器ではある、だが初めから自由なのだ。私たちが犯した罪は軽いものではない、ならば、何もかも忘れられるまで踊ろうではないか」
「僕たちは叫び続けた筈さ、それでもまた戦に身を投じる。まだ愚かな種族に肩入れするのかい?」
「だが、私達が叫び続けて辿り着いたこの場所は、こんなにも幸せと愛で満たされていたではないか。勿論強いることはせんぞ、ここで止まる事も出来る」
「僕は止まらないさ、燃え尽きるまで走り続けると君に誓ったから。君は僕を置いていくと言うのかい?」
「まさか、おぬしが拒まぬ限り……いや、多少拒んでも、私は連れて行くだろうな」
「良い所悪いけど、小さな勢力が手を組んで攻めて来たって、トコハナが走ってったけど」
閉じていた翼を片方だけ開き、パラシュに行けるかどうかの確認を取る。
私の胸を叩いて返事をしたパラシュを立ち上がらせ、ミョルニルの手を掴んで、天守に向かって飛翔する。




