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叫び続けて①

神社から壁の中に一瞬で移動し、城の脱出通路を歩いていると、前を歩いていた侍が、突然立ち止まる。


「久方振りですね、アイネさん」


そう言って笠を取った侍は、私の顔を笑顔で見る。

だが、その顔に見覚えが無く、反応が返せないでいる。


「う、うむ。久し振りじゃな」


「覚えてます?」


「すまぬ、分からぬ」


「ですよねー、成長しましたから。改めて、スメラギです」


100年以上前の戦争で見たスメラギの姿は、オシナの後ろに隠れていて、父であるハヅキすら怖がって、私の下によく来ていた程、怖がりだった筈。

それが今になって、見る影もないとはこの事かと、改めて思い知らされる。


子どもの成長の速さに驚いていると、漸く階段が目の前に現れる。

その階段を上った先は、見事に大混戦になっている、戦場の真ん中だった。


「では、対軍兵器のアイネさん、薙ぎ払っちゃって下さい」


「いや、私は見ての通り今は役に立たぬ。ナーガよ、代わりにやってはくれぬか、殺さずとも敵だけ押し返せば良い」


「は、はい。頑張ってみます」


一瞬困惑したナーガだが、自信をつけるのには丁度良い場だろう、それにあまり力を見た事が無い為、少し楽しみという理由もある。

バハムート型に姿を変えたナーガは空に上昇し、口に光を灯らせ、龍力を増幅させていく。


突然現れたドラゴンに困惑した兵たちは、皆一様に天を仰ぎ、ナーガの口から光が放たれたのを見ていた。

人が居ない所に降り注いだ龍力の塊が風を巻き起こし、両軍を両端に押し返していく。


「はははっ! 降伏しろアマツ、さすれば命は助けてやらん事も無い。これが納得出来ぬのなら、剣ではなくドラゴンに殺されるが良い」


唯一吹き飛ばされなかった侍が、つい先程まで戦場だった草原に刀を突き立て、敵方の総大将に降伏を促す。


「オシナのやつめ、相変わらずはしたないやつじゃな。おぬしの母はどうなっておるのだスメラギ」


「私に聞かれましても、戦場こそ我が聖地と言っている方を、私はどうしようも出来ません」


困った様に柄頭を撫で始めたスメラギに、外から持って来た綺麗な花々を出すと、目を輝かせて、また違う花を1輪咲かせる。

その花の中を見て、気になるものがあったら手に取り、次の花を見付けては手に取る。


「これも綺麗、こっちも綺麗だけどこれも可愛い。どれにしよ、すごく迷います」


「おぬしはほんとうに謙虚だな、遠慮などするな、全て贈るために持ってきたものだ」


「いえ、こんなに悪いですよ。皆にも配ってあげて下さい、戦で荒んだ心が少しでも治るお呪いもお願いします」


「お呪いか、良かろう。元気じゃ〜、元気じゃ〜、はい元気〜!」


「元気になりましたアイネさん! めちゃくちゃ可愛いです! ご馳走様でした!」


後からそんな風に言われると、善意でやったものの恥ずかしくなってきて、勝手に顔が暑くなって、手でパタパタ扇いで顔に風を送る。

その熱が冷めない内に肩に手を置かれ、パラシュが背後の人物を確かめようと反転する。


「よう来なはったアイネ、そしてようやってくれたのぅ。あのドラゴンを見て呆気のう降伏しよったわ、はははははっ!」


「品が無い笑い方は辞めよオシナ、おぬしの子、スメラギはもっと品があるようだぞ」


「ん? あぁ、スメラギの奴はお前なんかに憧れたらしいからな。そんなに女々しくて生き残れる訳がないだろう」


「残念だが私は悠久の時を生き残っておる、スメラギは私と似て長生きするかも知れぬな」


オシナと笑い合いで睨み合っていると、間にトコハナが割って入る。


「見て居られません、オシナ様は兎も角、トール様まで馬鹿だとは思いませんでした」


「むっ、私が悪いのか? 私なのか?」


「ははははっ! 私と同じくらい馬鹿なようだな、では勝利を祝う宴としようではないか!」


大きく湧いたオシナ領の侍は、まだ熱が冷めないと言う様子で、自領に戻っていく。

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