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軍師殿

「あっはははっ! ……そいでそないなったんや、すまんすまん。んで、頼まれとったヤーパンへの入国はええけど、オシナはんに協力が条件らしいわ」


パラシュに持ち上げられた私を見て笑った鈴鹿は、目から零れた涙を指で拭い、机の上の湯呑の中で立っている茶柱ごと一気に飲み干す。

机に置いた湯呑を指で突っついて、頬杖を付きながら眠そうな顔で私を見る。


「治してやるから手伝えと言うのか、これ以上面倒事に巻き込まれとうないしな」


「ほやったらどないするんや、そっちの子にも聞きはったらどうや?」


鈴鹿が片目を閉じて視線を向けた人間は、自分を指差して狼狽える。


「せや、何か意見はないんか?」


「協力しよう、オシナって人に。今後の戦争で手を貸してくれるかもしれない、それに国内だけならそう多くの貴族を倒さなくて良い。有利な方に付くやつも居るから、長期に渡る戦をしなくても良い。それに1度勢いがつけば俺たちは不必要になる」


「ふむ、見事私の考えと同じだ。これから頼むぞ軍師殿」


「おう、任せとけ。軍師って、そんな大層な事言ってないだろ」


刀を持ってひょいと立ち上がって街に出た鈴鹿を見失わないように、パラシュが私を抱き直して歩き出す。

軍師とナーガの手を繋がせてはぐれないようにし、パラシュの服の裾をアリスに掴ませ、完璧な迷子対策を敷く。


「トールさん、ヤーパンはとても越えられない切り立った山に囲まれてます。どうやって入国するのですか?」


「それもそうじゃな、今までは飛んでおったが、オシナの許しが無ければ迷宮の様に入る事が出来ぬ。確かこの街のどこかに入口があるとか言うておったような」


「あんた本当使えない」


突然姿を現したミョルニルはパラシュの前に立ち、私を指差して低い位置から見上げる。


「おぬしは1人でもかしましいな」


「煩い阿呆! この血液の量は何? 少な過ぎない、龍力に変えたんじゃないでしょうね!」


「邪魔をするなら戻っておれ、入口の場所を知っているのなら教えてくれぬか」


「知るか馬鹿! 前来た時は神社から入ったでしょ、それくらい覚えとけ健忘症!」


そう吐き捨てて鈴鹿の下に走っていったミョルニルの背中を、気を悪くしたパラシュが睨み付ける。


「良いパラシュ、私が悪いのだ。おぬしら2人に沢山辛い思いをさせてしまっておる。それが今回で爆発したのだろう、そう睨まんでやってくれぬか」


「睨んでないさ、君が動向を許可した鈴鹿って子、後ろ姿だけ見ても隙がないから」


「なに、私たちが戦争をしているのと同様。彼女の国でも同じように争いがあったのだろう、事情を聞く程野暮な事はなかろう」


「そうだね、でも彼女も君と同じみたいだ。1人に見えて何かを蔵してるみたいだ、僕の勘違いなら良いんだけど」


パラシュに言われてみてちゃんと見てみるが、鈴鹿に、そんなものがある気配は無い。

同じ武器として感じるものがあるのか、それともラーマの影響があるのか、余計な事を考えていると、血が足りなくなり、眩暈がして、パラシュの首に腕を回す。


「もう歩けそうだパラシュ、礼を言う」


「駄目だ、僕はきちんと君を送り届ける」


「諦めろってアイネ、俺でもお前の体が歩けるものじゃないって分かる」


「軍師殿も何を言うか、私は」


「僕に頼りっぱなしも駄目だと言ったけど、今は頼るしかないんじゃないかい?」


返す言葉が見付けれず、大人しくパラシュの腕の中で黙っていると、どんどん建物と人通りが少なくなり、自然に囲まれた鳥居が姿を現す。

鳥居をくぐって神社の敷地に入るが、特に入口と呼べる様な門は、見回した限りでは見当たらない。


「無いな、この神社じゃないとか?」


「いや、ここのはずだ。私は確かにトコハナとここに来た、と思う」


「こんなのチョロいわ、圧壊してやる」


ミョルニルは自らを振り上げ、石で綺麗に舗装されていた地面を叩き、周囲に多数の衝撃波を生じさせる。

本殿に衝撃波がぶつかろうとした瞬間、突然虚空から現れた侍が、衝撃波を抜き放たれた刀で切り伏せる。


「待っておりましたトール様、オシナ様は只今前線に居ります故、暫し待たれよ」


「城まで案内を頼めぬか? 鎖国している国の壁を飛んで入るのは、矢で撃ち落とされそうでな」


「では、後に続いて下さい」

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